Raison d'être～存在理由～　第三話

　　　【学校の廊下】
賢人　　なぁ、亜唯子……どうして多田は俺を呼び出したんだ？
亜唯子　……本当にあんたって鈍いのね。
賢人　　なんだよ、鈍くて悪かったな。
亜唯子　真喜子の口から訊きなさいよ。
賢人　　その多田が居なくなったって、お前が騒いでるんだろ。
亜唯子　そうだけど……でも真喜子は他の子達と違って、約束は絶対守る
　　　　し、真面目って言うか、そんな何も御言わずにどこかへ遊びに行っ
　　　　たりするような子じゃないわ。それは私が保証する。
賢人　　……まぁな……あった、用務員室。すいません！
用務員　なんじゃ？
賢人　　ちょっとお聞きしたいんですけれど、この子、見かけませんでした
　　　　か？
用務員　なんじゃ、お前らここの生徒か？
亜唯子　はい。2－Fの南と及川です。彼女は同じクラスの多田さんなんです
　　　　けど。
用務員　おぅ、2－Fか、んー？あぁ、この子は……
賢人　　見たんですか？
用務員　5時15分頃じゃったかな、儂が下校時間後の見回りをしとったら、
　　　　まだ図書室におったら、鍵はかけてやるから早く帰れよ、って言う
　　　　たんじゃ。
亜唯子　5時15分頃……
用務員　あぁ。そしたら直ぐ出ますって言うてな、鞄抱えてグラウンドの方
　　　　へ走って行ったよ。確か……そうそう。鞄に小さなウサギの人形つ
　　　　けとったな。
亜唯子　間違いない、真喜子だわ……。
賢人　　よく覚えてましたね。
用務員　何、そのウサギの人形、儂の孫も鞄に付け取るから覚えとったん
　　　　じゃ。
賢人　　そうですか、ありがとうございました！
　　　　……これで、多田がココにいたってことはわかったわけだ。
亜唯子　問題はその後どこへ行ったかってことよね。
瑶子　　賢人、亜唯子ちゃん！どうだった？
賢人　　用務員のじいちゃんが覚えてた。5時15分頃には図書室にいたみた
　　　　いだ。その後、グラウンドの方に行ったらしい。
瑶子　　そう。この周辺の人に訊いてみたんだけど、同じくらいの時間に、
　　　　ここに女の子が1人立っていたっていうのを見た人はいたわ。け
　　　　ど、それ以降の目撃者はゼロね。
亜唯子　一体、どこ行っちゃったの、真喜子……。
瑶子　　私のスマホね。はい、生島です。
　　　　……はい、はい、死体？!場所は？……はい、……はい。わかりまし
　　　　た。ちょうどここに面通し出来る人間がいますんで連れて行きま
　　　　す。じゃ。
賢人　　瑶子さん？
瑶子　　最悪のパターンね。
亜唯子　……まさか……。
瑶子　　多田真喜子ちゃんと思わしき女性の遺体が、2km先の公園で発見さ
　　　　れたわ。
亜唯子　……!!真喜子……!
賢人　　おい、亜唯子！しっかりしろ、亜唯子！

　　　【生島家の瑶子の寝室】
亜唯子　……あ……ここ、は……
瑶子　　あたしの家よ。
亜唯子　あ、すいません！
瑶子　　いいのよ、ゆっくりして。親御さんには私から連絡しておいたか
　　　　ら。
亜唯子　あ、すいません……あの、……
瑶子　　真喜子ちゃんのこと？
亜唯子　……はい。
瑶子　　全て、知りたい？
亜唯子　はい、教えて下さい！知りたいんです！
瑶子　　そう……ちょっと、待って。
汐見　　いいかな？
瑶子　　あぁ、ちょうど良かったわ。
汐見　　南さん、気分はどうだい？
亜唯子　はい、かなり良くなりました。
汐見　　そうか、もうしばらく瑶子に甘えてゆっくりした方がいい。
瑶子　　弘也、亜唯子ちゃんに真喜子ちゃんの件、説明してあげて頂戴。
汐見　　!!しかし
亜唯子　お願いします！教えて下さい！
汐見　　……わかった。
　　　　死因は窒息死、凶器は細い紐状の物で、まだ特定は出来ていないそ
　　　　うだ。死亡推定時刻は午後5時30分から午後6時30分の間になるだろ
　　　　う。
亜唯子　……苦しかったんだろうな、真喜子……。
汐見　　ただ、疑問が残るんだ。
亜唯子　疑問？
汐見　　首に残る圧搾痕と心停止が起きた時間が妙なんだ。
亜唯子　……え？
瑶子　　ようするに、心臓が止まってから首を絞められたんじゃないか、っ
　　　　てこと。
亜唯子　そんな……じゃぁ、真喜子は心臓が止まった後にわざわざ首を絞め
　　　　られたってことになるんですか？
汐見　　そうなるね。
亜唯子　そんな……。
瑶子　　正直に言うとね、まだ司法解剖の結果が出ていないから、何とも言
　　　　えないのよ。
亜唯子　かい、ぼう……。
汐見　　瑶子！それは南さんにとっては酷な話だろう！
瑶子　　そうね、残酷な話だわ。でも全てを知りたいと言ったのは亜唯子
　　　　ちゃんなの。私は彼女を尊重しているからこそ、本当のことを話し
　　　　ているのよ。
亜唯子　……瑶子さんの言う通りです、先生。
　　　　私、逃げちゃダメだと思う。私、真喜子の最後の全てが知りたいの
汐見　　南さん……。
　　　　わかった、俺の口から話した方がわかりやすいだろう。
　　　　殺人や自殺、事故なんかのいわゆる不自然な死の場合は「司法解
　　　　剖」というのが必ず行われるんだ。死因は何だったのか、どうして
　　　　死んだのか、そういうことを調べるのが目的なんだ。最後に食べた
　　　　物は何だったのか、とかね。
　　　　今、多田真喜子さんは司法解剖を受け、その結論を出す為に病院に
　　　　搬送されているんだ。遺体が家に帰ってくるのは、早くても明日以
　　　　降になるだろうね。
亜唯子　そう、ですか……わかりました。
賢人　　瑶子さん、ちょっと。
瑶子　　えぇ。

　　　【生島家・リビング】
賢人　　多田が持っていた手紙、瑶子さんが持ってるんだって？
瑶子　　えぇ、今持ってるわ……はい。
賢人　　サンキュ。
　　　　……俺、ホント鈍感なんだな。
瑶子　　そうね。
　　　　でも、貴方はちゃんと誠意を持って彼女に会いに行ったわ、答えが
　　　　どうであれ、ね。
賢人　　……俺、犯人が許せねぇよ。どんな恨みがあったか知らないけど、
　　　　殺す必要ってあるのかよ。
瑶子　　そうね、理由はどうであれ、他人の命は他人のものだわ。個人が勝
　　　　手に左右していいものじゃない。けどね、恨みや辛さ、哀しみって
　　　　いるのは他人に推し量れる物じゃないの。そういう瞬間ってあるの
　　　　よ。実行するかしないかだけのこと。貴方が犯人を許せず、その瞬
　　　　間相手を殺したなら、それは同じ結果なのよ……。
賢人　　うん……。
瑶子　　ところで、変な話なんだけど、こう、サイキックで心臓を止めるよ
　　　　うなことって可能なのかしら。
賢人　　心臓を止める……？出来ない事はないと思うけど、まぁ、まず無理
　　　　だね。
瑶子　　そうよね……まず無理よね。
賢人　　どうしたの？
瑶子　　え、あぁ、真喜子ちゃんの死因がどうしても、ね……。
賢人　　あぁ……。でもさ、例えば多田の心臓が弱かったとか、それだけの
　　　　ショックをうけた、とか……。
瑶子　　あり得るわね。まぁ司法解剖の結果次第、って所かしら。とにか
　　　　く、今日の所はお開きにした方がいいわね。亜唯子ちゃんを送らな
　　　　きゃ。
賢人　　亜唯子は汐見先生に送って貰おうぜ、帰り道一緒の方向だし。
瑶子　　そうね……そうしてもらおうかしら。
賢人　　瑶子さんも少しは休まなきゃ。
瑶子　　ま、ね。なかなかそうも言ってられないけれど。
賢人　　解剖の結果は汐見先生の所にも行くんだっろ？
瑶子　　えぇ、明日にでも届くはずよ。
賢人　　じゃぁ明日の昼からでも汐見先生の病院に行こうぜ。それまではと
　　　　りあえず、身体、休ませてやりなよ。
瑶子　　えぇ……ありがとう……。

　　　【汐見病院】
汐見　　はい、どうぞ。
小夜子　先生、ちょっと宜しですか？
汐見　　どうしたんだい？
小夜子　昨日の鎮痛剤の数の件なんですけれど。
汐見　　あぁ、そうだ、バタバタしていて忘れていたよ。
　　　　結局アレ、どうなったの？
小夜子　それが……どうも、有香ちゃんが持ち出しているみたいなんです。
汐見　　西島さんが？
小夜子　えぇ……それで、直接彼女の話、一緒に訊いて頂こうと思って……。
　　　　有香ちゃん、入って。
有香　　失礼します。
　　　　あの……お話って一体何でしょうか……？
小夜子　あのね、病院のお薬の件なんだけど。
汐見　　そこから先は僕が話そう。実はね、西島さん、うちの医務局から薬
　　　　が減っているようなんだ。
有香　　！薬、が、ですか……？
塩井　　あぁ、それも鎮痛剤だけなんだけど、君、心当たりないかな？薬の
　　　　管理は君が分担しているんだよね？
有香　　あ……私……私……
汐見　　別に怖がらなくてもいいよ。何か理由があるなら、それをきちんと
　　　　話して貰えればいいんだ。
　　　　……話してもらえるかな？
有香　　私……!!!
小夜子　あ、有香ちゃん！待って！
汐見　　西島さん！！

第4話