【テキスト】スキマゲンジ第23回「初音(はつね)」

前回のあらすじ。

亡き夕顔の忘れ形見、玉鬘を、源氏の君は自分の邸に引き取るのでした。

スキマゲンジ第23回「初音」の巻。
ほのぼのめでたい。

年が明けて、源氏の君は36歳になりました。
紫の上がいる春の御殿は、梅の香が御簾の中まで漂ってきて、まるで極楽浄土のようです。明石の姫君のおつきには若い女房たちが華やかに、少し年配の女房たちも雅に着飾ってお祝いをしています。

夕方には祝いの人々も減って、源氏の君は女の人たちの御殿に行くべく念入りに衣装を整え、化粧をします。それは本当に美しく、見栄えのするものでした。

まずは紫の上に、あらためて年賀の和歌を送ります。紫の上も返歌を送り、いつまでも仲良く暮らそうという気持ちを交し合うのでした。

明石の姫君は7歳になります。同じ歳くらいの女の子たちや下働きの子どもたちが、庭に出て遊んでいます。若い女房たちもじっとしていられない様子です。北の御殿におられる明石の君から、特別にしつらえた祝いの品がたくさん届いています。その中に「鶯の初音を聞かせてくださいな」という和歌が書かれているのを見て、源氏の君は生みの母親のつらさを思い、姫君に「このお返事はあなたがしなくてはいけませんよ」と返歌を書かせるのでした。

花散里が住む夏の御殿は、ひっそりと品よく暮らしている様子です。遠慮もなく、しみじみとした仲で、無理に親しげにする必要もありません。女ざかりは過ぎてしまっていますが、源氏の君は「私も気が長いし、この人も浮ついたところがないのでちょうどいい関係だな」と思って、昔のことなど親しく話をしてから、西の対に向かいます。

西の対には玉鬘がいます。まだ住み慣れていない感じはありますが、さっぱりと清潔な感じで暮らしています。玉鬘本人は、一目で「ああ美しい」と思える人で、華やかで曇ったところがなく、輝くような美しさは、いつまでも見ていたいと思うほどです。「遠慮せずにあちらにも行ってごらんなさい。幼い子が琴など習っていますから、一緒に練習されるといいですよ」と言うと、「おっしゃるとおりに」と答えるのは、当然のことでしょう。

夕暮れになり、明石の君の住まいに行きます。本人の姿は見えず、手習いなどが散らかっているのも字がうつくしく、感じよく思われます。姫君からの返事の和歌に湧き出る思いを書き散らしてあるのを、源氏の君が手に取って見ている姿も実に美しいのでした。

明石の君が出てきますが、その様子に「やはり他の人とは違う」と心惹かれる源氏の君です。新年早々、やきもちを焼かれても、とは思いますが、こちらに泊まることにします。

夜明け前に紫の上の元に戻って「うたたねをして、つい寝込んでしまいました。起こしに来てくださりもしないのだから」とご機嫌を取っていますが、紫の上は返事もしません。源氏の君は「めんどうなことになった」と狸寝入りをして、日が高くなってから起きるのでした。

翌日は若い上達部や親王たちが祝いにやって来ます。

正月が明けてから、二条院の東の御殿に住んでいる空蝉と末摘花を訪ねます。末摘花は身分の高い人なので、立派に見えるように気を配っていろいろと贈り物をしています。が、送ったはずの襲(かさね)も着ずに寒そうにしています。「着物はどうされましたか?このように心安く暮らす場所では、ふっくらと柔らかな着物を着ればいいんですよ」と言うと「僧をしている兄にあげてしまいました」と答えます。源氏の君は、この人に対してはストレートな人間になってしまいます。「それは上げればいいと思いますが、この惜しげもなく着られる白い衣は、何枚でも重ねて着ればいいんですよ。必要な時は遠慮なく言ってくださいよ」と、倉庫の中から絹や綾など出してあげるのでした。

尼の生活をしている空蝉の所にも顔を出します。部屋の大部分を仏のために使っていて、日々お祈りをして過ごしている様子も風情があって優美で心惹かれるのでした。

こうして、源氏の君は自分が守ってあげている女性たちすべての所に顔を出して、「お目にかかれないことが多くても、心のうちでは忘れていないのですよ」とやさしく語りかけます。もっと思いあがってもいい身分でもあるし立場でもある源氏の君ですが、いろんな人にさまざまにやさしくするので、多くの女性たちが守られて暮らしているのでした。

次回スキマゲンジ第24回は「胡蝶」の巻。玉鬘に求婚者が殺到します。源氏の君の悪い癖も発動。

その癖はいただけない。お楽しみに。


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