【Checkpoint 22-23 -PSM~開幕まで-
8/2時点での補強・放出
振り返り
PSMを終え、ユナイテッドは3勝2分1敗で全日程をクロージング。目立ったのはローンバックした選手による戦力補強だったか。アジア・オセアニア、北欧をツアーして一貫性をもたらしたマルシャルを筆頭に、既存戦力と若手の台頭が光った(イクバル、レアード)本来ならば新戦力を!となるところだが、マラシア獲得以降エリクセン、マルティネスの獲得→合流が遅れ芳しくないスタートとなってしまった。
よって、この期間は既存戦力の実力テストのような格好だ。新戦力の合流は遅れたが、もちろんポジティブな要素に目を向けることもできる。なぜなら選手をはじめ、組織の動きなど包括的な変化があったからだ。
■スタイルの浸透はサイドから
『中央を発展させるワイドオプション』
テンハーグに抱いた個人的な印象を言語化した。彼の特徴はサイドの配置を細く調整する操作性にあり、その延長線に中央レーンを攻略する為のアイディアを有していると解釈したのが理由である。
PSMの中からパターンをいくつかピックアップした。まず、目についたサイドの配置替え。SBの関与が変化したことに加え、頻発するポジションの入れ替えなどが挙げられる。主にチャンネルへの侵入とサイドアタックをバランスよく運用させようと、タスクが複雑化した印象だ。
右のサンチョとダロトの関係性にも含みが出てきた。互いに縦横で平行になるような入れ替えを行っていたことに起因するかもしれない。大外深くを取る際は縦に抜け、内側からの侵入時は横に入る。このような移動と連携はショウとラッシュフォードが十八番にしていた形だ。
更に、中盤や前線がポジションを落とし、レーンを開けるためそこを使っていくような3人目の侵攻ルートが新たなパターンとして加わった。とにかく保持に入ったら基本の5レーン配置はなるべく崩さず、局面でポジションを操作していたという雑感を持った。いわば崩しの下準備といったところである。
課題は被カウンターへの対策だろう。枚数を割くこうした試みのリスクを背負うバックスの負担が気になる。特に2CBの前は広いスペースに晒されるため、リスクヘッジは不可欠。前線はフィニッシュで終わる精度と即時奪回を意識するべきか。また全体のラインがソリッドになるとより良い。崩しのクオリティーを維持するという面においても、これらの危機管理がセットでなければならない。
■ビルドアップの精度を高めるには
組み立てについても触れていく。崩しの配置で5人リソースを割くユナイテッド、ビルドアップに置いて重要なのはGKを含めたデザインである。CB2枚とアンカーにGKを加え、プレスを剥がしていくのがメインとなる。既に上述した「原則的な配置は崩さずどのようにゲームメイクするか」という問いにチャレンジしていた印象であった。そしてサイドに設けるセーフティーエリアを活用し、選手の配置調整でプレスを回避する形で解を見出そうとした。
続いてマンマーク気味にハイプレスを敷かれ全体のラインが押し込まれ際には、下記の要領でプレスの無効化を図っていく。浮き位置の選手が応用的にセーフティーエリアを埋め、エリア回復や崩しに発展させるべく活用するこのような様式もビルドアップの改善案として盛り込まれていた。
ただ、ボールサイドを圧縮してくるチームへの対策は、受け手のサポートの質と能力的な面に依存することを露呈した。狭い盤面の中でも安心してボールの循環が行えるようなパスネットワークの構築には時間を要するだろう。エリクセン、ファンデベークのような盤面整理と局面把握に寄与する動きを組み込みビルドアップに昇華させたいところ。併せて逆側を取るような展開力で前線のスプリント力を効率化できると理想的な形でプレス回避と前進を可能にするだろう。
現行のビルドアップデザインで障壁となるのは、組み立ての理想図を体現していく選手たちの能力格差であろう。CB-MFの組み合わせは特に気になる。上述してきたいくつかの組立てと、既存戦力がミスマッチの傾向にあるのが主な要因だ。オーレ政権で確立した中盤構成は自陣深くをケアするソリッドな守備ブロックに売りがあり、反面に進行させているメソッドに対応するキャパ不足が否めない。またDFラインも含めた精神的負荷に対する脆弱さは近年顕著である。後ろから繋ぐことを要求されるテンハーグのスタイルと相性がよろしくない。言ってしまえば、互換性の低いスカッド構成となっている現状は先々不味いと言えそうだ。
打開案としての中盤再編・補強は必要であるが、ローンバックしてきた戦力の存在も見逃せない。フリーで獲得したエリクセンとの相乗効果で輝けるファンデベークは現行のチーム方針とマッチする人材。豊富な選択肢を与える利他的なランニングと、トランジションの質がよくボールを円滑に動かすための整備が担える。またガーナーもハードワークとパスレンジに富んでおり、相手の寄せを苦にしない配給力がある。まずは選考を見直す余地があるので、それで様子を見つつ必要箇所のあぶり出しでやるべきことのプライオリティーを付けてほしい。
今後の展望
新しいスタイルにチームが順応するには時間がかかるだろう。なにせ、オーレ政権がベースにこびり付いているのだから無理もない。崩しも組み立ても、明確にアプローチが異なる。なのでチームにいま必要なのことは「適応するための時間」という他ないのだ。がしかし、その前の段階でテコ入れがいくつか必要であり、それが選手とのミスマッチや根本的な戦力不足を見直すということで説いてきた。
PSMで見せた収穫と課題をブラッシュアップさせるための選択肢を探りたい。崩しにおいては主に仕組みを理解し、試合での成功体験を積み重ねることに尽力してほしい。ただ順序としては、そこに至るまでに組立ての欠陥を改善していかなければ整合性が取れない。プライオリティーを間違えてほしくないと強く願う。直近でできることは、まずスタメンの組み直しであろうか。次に補強、そして継続というフェーズをいかにスムーズに踏んでいくか。この間にかかる時間はなるべくかけない方がいいに決まっているので、いい進捗を期待する。
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