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粉砕、玉砕、大喝采【22-23 EPL Match Week 9 vs Manchester City FC 】

スタメンはこちら。

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前節の振り返り

エリザベス女王逝去に伴う試合延期と代表ウィークを挟み、ほぼ1ヵ月近くリーグ戦が開いてしまった。前節は9月5日のアーセナル戦で、結果は3-1の快勝。

エリクセンとブルーノでラインを繋ぎ、そこから一気に前進の流れを獲得。初出場、初スタメンとなったアントニーのデビューゴールに華を添えたラッシュフォードもCFで奮闘。これまで用いてきたフォーマットの強みと、その中で得た経験が活きたゲームで勝ち点3を確保した。チームはこれで4連勝、軌道に乗ることが出来たか。

1ヵ月ぶりにプレミアが再開し初っ端の相手は無敗の好敵手シティ。今季ハーランドを獲得し、彼の勢いに歯止めがかからない。本格派の9番タイプを据えたペップの新たなサイクル、また次元を超えそうな域にチームをけん引していく気配を感じさせるここまで。最も難しい相手、世界最高のチームであろう隣人とのダービーマッチでリスタートを切る。


■前半:ポジティブが見当たらない

散々と言わざるを得ない。本当に散々。シンプルな自力と綿密に組織されたフットボールの前に圧殺を食らっての4失点。

前提としてエリクセンまでボールが届かず、カウンターまでの形を作るまでに至らなかったのは誤算であった。原因は淡白な選択ミスによるものが大半だが、致し方ない面はある。シティはファースト、ミドルプレスから順々に連動して人に付くまでが素早く、マーカーが視野に入る時間的感覚は普段より短く感じた可能性が高い。

ユナイテッドが保持に回れないというのは想定内であっただろう、しかし予想に反してカウンターの機会そのものすら与えてもらえなかった。結果的に被カウンターに対する警戒度は最高レベルであったシティ。

ハイプレスの際は中間ポジションへのパスコースを隠しながらプレスを開始。ユナイテッドを後ろ重心に追いやりつつボールサイドへ全体のポジションを絞ってミスを誘っていく。狭い局面にて数的な均衡をキープし、ボール方向へじりじり圧力をかけてくる威圧感に押し負けてしまった為、パスコースを探す余裕がなかったという感じだった。

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ロングカウンターを軸に速い展開を期待したかもしれない。しかし、その精度を封殺するFW-MFにおける連帯感でシティが先手を取ったと言える。更に中盤の2枚であろう。時間配分を司るギュンドアンとベルナルドが回収に入れば、そこからは一方的な時間。GKまで戻して再度作り直しのフェーズを踏むこともお手の物。

また組織をグッと引き込んだ状態を全く苦にしないエデルソンのフィード力も、前進において抜群に機能した。ユナイテッドとしても高い位置で嵌めたいが、早々にイエローをもらっていたダロト・マラシアの重心を引き上げることはリスクを考えると容易ではない。

どちらかと言えば相手の挙動に対してリアクションで人を動かしているのがプレッシングの進捗であり、基本はコース切りで構えるような配置がユナイテッドの非保持。しかし、こうした隙を逃さない持ち合わせがあることも、彼らが勝ち続ける理由であろう。

ならばとCBのアケとアカンジの機動力を生かし、ボールキャリーで押し上げも可能。フォデンの先制点に繋がったきっかけも、CBによるボールキャリーで全体の押上げを施したことが後に左右した。

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非保持はコース切りとポジションスライドで圧縮しハイラインで押し込む、保持は盤面の移動と調整役を担うMF、CBの操作性で掌握。こうした意図的なラインコントロールを再現性高く行えてしまうと、ゲームの主導権を取るのは難儀と言わざるを得ない。


①非保持の際は間で受ける選手を隠すように立ち、徐々に圧力をかける。

②3-3の守備ブロックをボールサイドへスライド、ミスの誘発を狙う。

③ビルドアップは相手の出方を見てGKのフィード、CBの運びor楔を通して前進。


シティは攻撃のロジックも実に綺麗。1点目はフォデンがインサイドへボールを運び、逆サイド経由でクロスを合わせる際の大外の使い方が上手かった。WGとSBが中央へポジションを絞り、マーカーとなる守備者がペナ幅から外へ向くことが出来ず。幅を利かせていたベルナルドへの警戒心が薄れたことにより、失点を許してしまう。

全体で見ると両翼の個人打開力に加え、中央に鎮座するハーランドのプレー精度も高い。ユナイテッドの2ラインが間延びしていれば、各々が自身で持ち運ぶだけの推進力を十分に備えている。ハーランドとデブライネによる異次元の3点目も、グリーリッシュが起点となるドリブルを止めることさえできれば、未然に防げたかもしれない。

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 ヴァランの負傷離脱中に喫したCKでの2失点目やダロトがタイトに寄せれる状況になかった3失点目と、やや不運な要素も絡んでいるのが悔やまれる。ようやく人数をかけて前進する形を作ったユナイテッドを尻目に、シュートブロックを回収して繰り出した少数のカウンターで4点目を獲得するシティ。

この辺りから冷静な記憶がすっ飛んでいた気がするが、改めて見返すとデブライネのコース取り、ハーランドの駆け引きとチャンスメイク、フォデンの爆走ポジトラ。3vs6の数的不利であるにも関わらずカウンターを完結させるだけのマンパワーを前に、もうどうすることもできなかったという虚しさだけが残っていた。前半だけで4失点。2節のブレントフォード戦でのショックがダービーという舞台で再び発症してしまう。


■後半:息を吹き返した3得点

立ち上がりのペースを握ったのは、意外にもユナイテッドだった。後半からビルドアップでシティの包囲網を潜り抜け、思いのほか相手の陣内へと歩を進めていける。この変化は恐らくシティのプレス隊、最前線の3枚と中盤3枚の距離感がやや離れてきたことに起因する。

前半ほどタイトなアプローチにくることはなく、これでパスが刺しやすくなったのだろう。またビルドアップの枚数を増やし、受け直しの動きが改善されたのも相手を剥がすことに繋がっている感がある。

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これに近い要領でプレスを回避する武器がある、それがマルティネスの楔。前述したシティの間延びに対して彼のパスがどんどん配球されていく。こうしてシティのプレッシングから徐々に一体感が薄れていった後半の立ち上がりに、イニシアチブを確保することに成功していった。

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前線の4-2プレスは継続しつつも、見違えるように出足が早くなり逆にシティが窮屈な格好で自陣でへ追いやられる時間が増えていく。自信と勇気を取り戻しつつある流れの中でアントニーがスーペルゴラッソ、ユナイテッドに反撃の狼煙を上げさせる得点でここからギアが上がっていくことが予想されたが、追加点を取ったのは無情にも王者だった。

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またなんとも文脈のあるゴール。外を回るゴメスへの時間調整を担ったグリーリッシュのボールキープ、デブライネの視点移動、すべてが絶妙に噛み合い最高の点取り屋へと紡いでいった一連、これまでシティが積み上げてきた形が人を変えても健在であることの証明である。恐ろしさすら覚えてしまったが、これ自体は防ぎようがなかったように思う。

無慈悲な形で点を取られたユナイテッドだが、後半の期待感は高く推移していた。ショウに変わった左サイドの圧力が強まり、前線のシャープなプレスに後ろも連動する。リンデロフと後半途中からカゼミロが入り、後方ビルドの質が改善されたことでゲームメイクの比重が分配されたのも、チームをポジティブに動かしている雰囲気だ。

チームの押し込みが出来れば、保持でも自信を持ってやりたいことを試していく今季。シティ相手でも姿勢はブレない。今シーズンのテーマでもある崩しの強化はこういった試合でも確認することができ、数少ないポジティブ要素である。

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主にWGのインサイドへの侵入とSBのランニングがカギを握っていたシーン。視点を中に集め人の密集を作り、一度作り直しの順序を経ることで相手の目線を先に向かせた結果、裏を取ることが出来た。幅を取ってバリエーションをもたらすなら、マラシアよりショウとのシナジーは高そうな崩し。

ショウ、マルティネス、リンデロフのバックスはビルドにおいて理想的な3枚になるかもしれない。エリクセンへの負荷対策という面をカバーする意味ではカゼミロもここに加わって良いカード。とにかくボールの循環が明らかに変化している。

作り直しではこんな場面もあった。ショウが一時的に後方に鎮座する形からボールを運んで左に前進、中央への戻しを受けたフレッジがアントニーへパスを刺してフィニッシュ。度々ビルドアップに加え、操作性が良いショウの存在感がどんどん際立つ展開。保持でDFラインが下がらなくなったことにも関連するが、全く圧力に動じない。

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戦前の予想がまた裏切られたが、こっちはむしろポジティブな方。こうなると、ベンチに対する可能性を感じざるを得ない。シティの勢いが下火になってきた点で楽観的になるのは早計であるかもしれないが、仕様の変更で戦えるようになったことを覚えておく必要がありそう。

それでも尚、得点を積み重ねていくのはシティ。前半と同様な形での少数カウンターで1発刺しに行っての6点目をGET。数的な優位をもってしても止められなかった4点目とは印象が異なり、ホルダーに対するチェックが甘かった。被カウンター対策として「早い段階でボールホルダーを止める」という何らかの術を用意しないと、ズルズル下がるDFの傾向に歯止めが効かなくなるという懸念は全体を通じて感じる。

シティは73分あたりから4枚替えでミッドウィークに控えるCLコペンハーゲン戦を見据えてきた。5点リードを取ったとはいえ、70分まで主導権を握られ続けた時間はペップの想定にどこまであったか。もっと早い段階で主力の温存に移行したかったのが本音だったはず。そういう意味では一矢報いる後半になったと思いたい。

フレッシュな交代を施したシティは全体のアクションがまた回復。ビルドアップを強めにけん制し、徐々にパスコースを限定する組織の移動が戻ってきた。しかし、ユナイテッドはここから2点を追加する粘りを見せる。

シティのプレスを浮き球でSBのダロトへ配給したリンデロフ、そのまま前進したダロト→エリクセンへと経由し一気に逆サイドのショウへ振ったビルドアップの形は後半見た中でも抜群に綺麗な外し。そこから大外でボールを持ったショウがキープし時間を作ったことで、中盤からフレッジがチャンネルへと走っていった。

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過程から最後まですべてが完璧に噛み合った故の爽快感と言っていいだろう。点差は4点あるが、後半のポジティブ要素はどんどん出てくる。両SBがそれぞれ違った持ち味を発揮してビルドアップ・チャンスメイクで異彩を放ってくれた。後半出場のショウはいくつもキープレイを連発している。

終了間際の90分にはカンセロからPKをもらったマルシャル。冷静に右隅に決めて、点差はどんどん詰まっていく。怪我から復帰のマルシャルはダービーで2ゴール、ラッシュフォード・ロナウドとのポジション争いにおいて強烈なインパクトを残し、絶大なアピールとなっただろう。

2点の追加点を取ったものの、後半だけのスコアは2-3。考えるに主力級の疲弊を抑えたペース配分がトリガーとなり、ユナイテッドの前進を許したシティ。交代策が嵌ったユナイテッドとは対照的に、クロージングに不安が残る3失点だろう。守備を引き締める交代カードが中盤にあると、違った世界線があったかもしれない。


AT2分が過ぎ、ゲームは終了。マンチェスターダービーは結果的に惨敗した。前半に許した4失点が尾を引いてしまったが、そこから意地の3得点で巻き返し。後半頭のショウの投入から流れが変わり、カゼミロの交代で一気にペースを掴んだのは大きな収穫。

ただ何もないところから突然のゴールの匂いを醸し出すシティのカウンターは、ハーランドというピースががっちり嵌り新たな武器として既に猛威を振るっている。そのスピードと強度、練度が高まればよりコレクティブな速攻が形成される予感を感じさせた。

組織の完成度は火を見るよりも明らかで、前半のシティはまさに世界最高のソレであった。今日あのチームに負けるなら説得力があるし、ここからユナイテッドも再度テコ入れのフェーズに入る必要性に直面した。


・総括

前半の入りを間違えてしまったという指摘は間違っている思う。概ね正しくはあるが、彼らはそれを選択的にしているという背景に着目した意見とは思えない。とはいえ、受けて待つようなアプローチは今回は失敗に終わった。

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前後半のシステム変更の差は、ポゼッションでも明らかとなった。前半は6:4、後半はほぼ五分ではあるものの率の面では相手を上回る結果が出ている。要するにこの試合における撤退リトリートは完全に機能しなかったという結論がはじき出せるだろう。まさに悪手。

ではなぜこれだけの変化が起こったのか?と言われば3点である


・交代で入ったリンデロフ、ショウ、マルティネスのビルド。

・エリクセンの負荷軽減を可能にするアンカーカゼミロ。

・前後の乖離が顕著になったシティの3-3ブロックの間延び


既に前述していると思うが、これらがユナイテッドにポジティブな要素をもたらす上で欠かせない材料となった。特にシステム変更でビルドアップの補強にスイッチしたバックスの貢献は陰ながらお見事。

更にカゼミロ、フレッジと今までなら「守備を強化する交代カード」と位置づけられていた2人が攻守を繋げる橋渡しとしてリンクする中盤の構成も、エリクセン・ブルーノとは違った結びつきを感じさせるアグレッシブなコンビに。

得意な役割を与え、分散的に機能させるカウンター仕様とは全く異なる全体の深い結びつきとアプローチ。それを下支えしていたエリクセンの過負荷をどう取り除くかは目下の課題であった。今日の後半はまさに一つの解が出たようなゲーム展開となったに違いない。

今後はまず、現行のスタイルから徐々にフェードアウトさせていく方向へチームの再編に舵を切ってみてほしい。ただし、やり方を捨てろと言ってるわけではない。今日のシティのような相手に対するフォーマットの準備を本格化させていってほしいという願いと言えるだろう。

後方も中盤もそれを可能にするリソースは意外にも揃っている。次のフェーズに移行する時期をテンハーグもチームも模索する時期に再度突入するかもしれない。最後に申し上げておく、今日の試合は単なる敗北ではなく自信と勇気を発揮した3ゴールと捉えて胸を張って次に向かってほしい。


試合結果
【プレミアリーグ 第9節】2022.10.02 (日)
マンチェスターシティ 6-3マンチェスターユナイテッド
【得点者】
MCI:7', 44', 73' フォデン、34', 37' 64' ハーランド
MUN: 56', アントニー、84',90+1’, マルシャル

出典元

https://twitter.com/ManCity/status/1576542523975438337 *1

https://twitter.com/ManUtd/status/1576542522477727744 *2

https://www.sofascore.com/manchester-united-manchester-city/rK *3


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