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第17話 ぼくにとって正しいことは、他の人にとって正しいこととはかぎらない【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

ぼくの頭の中に、時々何度も浮き上がってくる言葉があった。

例えば、北海道で札幌行きの車で言われたこと。

「強くなりたいっていうけど、それに終わりはないんじゃないか?」

ぼくは正直「そうなのかもしれない」とへこみながらも思った。でも、

「もしそうだとしても、そう言われて『はいそうですね』と終わらせるわけにいかない。答えは自分で見つけなきゃいけない。もしいつかそう思う日が来たらやめればいい。でも今はそうは思えない。」

だから旅をしているのだ。歌をはじめたのだ。もしも何か答えがあるのなら、そもそもこんなことしていないのだ。

そしてぼくはこうも思っていた。

「なぜみんな自分のやりたいことをやらないんだろう。やりたいことがあるなら絶対やるべきだ。やらないと絶対後悔する。大学を卒業して前ならえ、右にならえで何も考えずに就職していって、本当にいいのか。」

「企業に就職するって、本当にそれがしたいことなのか。おれらの時代は就職氷河期だっていうけど、仕事がないって嘘だよな。ただ自分で安全な会社を選ぼうとしているだけで、この世に探して仕事がないなんてことはない。それに情熱があれば、つけない仕事なんてない。」

『みんな』と思っている時点で当時のぼくの視野がせまかったことがわかる。小さな社会を飛び出せば、そうではない人だっているのだ。まあ、社会に反抗したい時期でもある。大事なのは、ほかの人がどうとかよりも、自分がどうしたいかだ。

というよりも、こうした他者批判の言葉は、本当は自分自身へ向けた言葉なのだ。でも自分がふみ出せない弱さを抱えている分、人に期待したり、だれかのせいにしたいという悪あがきでもあるのだ。

もちろん当時のぼくにもそれはわかっていることでもあった。だからこそ、思っているだけじゃなくてやれよ、と自分を急き立て追いつめて、今までの道と、しかれているはずのレールから外れて、プータローになって放浪しながら歌を歌っていた。

「口先だけの男になりたくない!」と切に思っていたし、とはいっても「言ってしまったらやるしかない」からなかなか自分のビジョンを語れない。

だからある時切羽詰まって飛び出してしまい、学校の友達や家族からは「あいつそんなやつだったか?」「何やってんだ?」「やめたほうがいいよ」という目で見られた。

ぼくの中には、「あーこの先どうなるのかな。」「ヒッチハイクも野宿も相変わらず怖いな」と思っている自分も、「おれは人と違ったことをしている。人がなかなかできないことをしている。どうだすごいだろ。おまえらにはできないだろう。」そういう自分もいた。

アジアを放浪してきた後だったから、なおさら自分で自分を特別視したがっていた。普通に生きている人をばかにしているところもあった。

ところが、ヒッチハイクを続けていると、その心境に変化が起き始めていた。

まだ始まって1か月もたっていなかったが、ヒッチハイクで車に乗せてくれる人の中には、かつて自分もヒッチハイクをした人、旅をしたことがある人が少なからずいた。

そして今でも夢を追い続けている人もいた。月曜から金曜まで働いて、週末だけ旅に出るなんていうことをしている人もいる。

そうした人たちの生き方を目の当たりにして、ぼくの中には、

「普通に生きることがいけないんじゃない。それは社会からドロップアウトするかしないかとか、レールにのっかるかのっからないかとか、そういう形の問題じゃない。自分の人生、自分の持ち場でそれぞれがそれぞれの戦いをしている。結局は自分が自分に正直に生きるかどうかなんじゃないか。」

という思いが芽生えてきていた。

「おれは歌や旅をしているけど、それはあくまでもおれだからであって、おれが神様にそういう課題を出されているからであって、みんなが同じように生きなきゃいけないということはないんじゃないか。」

「おれに、人の人生を否定する権利なんてないだろう。みんな必死に生きてるんだよ。」

そんな風に、自分に恥ずかしさを覚えつつあったのだ。

「ひょっとしておれは、とんでもなく間違った道を進んでいるんじゃないか?何か大事なことを見失っているのか?いや、でも、おれは今死んでしまっても後悔しないように生きようと思って勇気を出したんだ。それは100%間違っていない。」

こうした芽生えは後々ぼくに道を迷わせ、心をかき乱させた。そして日本二周後の人生に、現在の人生に大きな影響を与えている。

それは、「本当の夢とは何なのか」という命題の答えにつながる芽生えだった。生きていく上で最も大切なことは、そこにあった。

もっとも、そこに行きつくまでに、ぼくにはまだまだ長く険しい道のりが続いていたし、当時のぼくには今自分が人生のどんな段階にいて、この先に何が待ち構えているのかなんて、まったく分かるはずもなかった。ただ、こう自分に問いかけ続けていた。

「おれは、本当は何を望んでいるんだ?何を求めているんだ?」


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