今年の全人代の総括
本当は中国政治に関する記事を投稿するのは先週限りにしようと思ったのですが。今日11日は全人代会議の閉幕日。ということでやはり触れざるを得ないでしょう。
今回は今年の全人代会議で話題になった点を総括したいと思います。
総理記者会見の取りやめ
やはり今回の両会の中で、これが一番ハイライトになったといえるでしょう。この情報は、4日に開催された、全人代会議開幕直前に開催が恒例となっている全人代会議記者会見の席上で、婁勤倹報道官が発表したものです。発表後は中国ウォッチャー界隈では衝撃が走りました。
振り返ってみれば、全人代閉幕後に行われていた総理記者会見は前世紀90年代から行われていた恒例行事であり、30年前後にわたって「中国政府(中共政権)の開放性」をアピールする象徴といわれていたものでした。
これまでの総理記者会見を見てみると分かるのですが、総理は主に国内問題の実務担当者だということもあり、外交問題に関する質問が飛ぶことはほとんどありません。8割国内問題、2割国際問題といった感じでしょうか。
今回これが取りやめになったということは、「習近平政権が内向きになった証拠だ」と解釈することもできます。しかし一方で私は、この措置は裏を返せば「中共政権が国内問題(主に経済問題)で相当切羽詰まっている」ということを示すものだと感じました。
見方を変えれば、総理記者会見は李強総理にとっては世界に自分をアピールする絶好の場であり、国内に向けては「人民に寄り添った」自分をアピールできる絶好の場になったはず。李強総理も内心でやりたかったと思っていたに違いありません。
しかしそのような場さえ与えられなかったということで、習近平主席の意向が強く反映されたというのは想像に難くないでしょう。総理の地位が地盤沈下した瞬間でした。
これが今後の中国の行方にどう影響していくのか、しっかりと見ていきたいと思います。
王毅外交部長記者会見
当初の予測通り、王毅外交部部長の記者会見が7日に開催されました。当初は「外交をテーマとする記者会見」とだけ表記されていたため、私は「ひょっとして外交部長が代わる?!」ということを少しだけ(今回の人代では人事任免案の審議がなかったのでほぼないとは思っていましたが)期待()していました。
また前日(6日)に開催された「経済をテーマとする記者会見」では、財政部部長、国家発展・改革委主任、中国人民銀行行長などなど1人ではなく数人の担当者が記者会見に出席していましたから、「外交部長だけではなく、他の人も出席?」と思っていましたが、結局は閣僚級は王毅部長のみで、あとは外交部の部下を数人連れての出席となりました。
記者会見自体はおよそ1時間半ぐらい。質問の項目も20項目以上ということで王毅部長もたくさん答えたほうだとは思います。
ただ、質問はやはりありきたり。質問したメディアも半分以上は国内メディアで、米国メディアもブルームバーグ1社だけ。日本メディアが指名されることはありませんでした。
質問して答えた内容も、「中国外交がいかに素晴らしいか」ということに終始したものがほとんどで、王毅部長も机に置いてあるカンペに目をやる場面はたびたびテレビに映し出され、いつにもまして「あ、余計なことは言わないよう厳命されているな」と感じました。
李強政府活動報告
政府活動報告は、毎年の全人代会議で開幕初日に発表されるもので、事前(前年末の常務委会議から)に用意されている原稿を総理が読み上げるという形が取られます。私たちはこの総理が読み上げる活動報告から、今年の中国政府の施政、政策を読み取るわけです。
通常、活動報告は大きく分けて、「前年の活動の振り返り」「今年の活動の方向性」「今年の活動任務」「台湾・香港・軍事・外交」「終わりの言葉」となっています。その中でも「今年の活動の方向性」「今年の活動任務」の中で普段なら新たな言葉が提示され、その言葉が一年間各会議で使用されることになります。
・・なのですが。今年はあっさり淡泊な活動報告となりました。長さにしては正味1時間もなかった55分程度。昨年の故李克強前総理が行った活動報告(1時間程度)さえも下回る短さです。李克強総理を初め歴代の総理はかなり熱のこもった活動報告を行っています。李克強総理は1時間半程度、温家宝(元)総理に至っては2時間も話した年もあったと記憶しています。ですからやはりこれも総理の地位の地盤沈下を象徴する出来事と言えるでしょう。
今年の活動報告の注目点としては。まず挙げられるのは、GDPの成長目標を「5%前後」と昨年と変わらない水準に設定したことでしょう。今年年初の株価大暴落は記憶に新しいところでありますし、今年の全人代会期中には住房・城郷(住宅・都市・農村)建設部部長が不動産企業の破産を容認するような発言をしたところからして「この目標で大丈夫なのか?!」と言いたくなるのが本音です。
この他に活動報告原文の文字レベルで、新しく耳にして印象に残った言葉は「新质生产力(新たな質の生産力)」でしょうか。
ただ活動報告で新たに提起された真新しいものではなく、初出は習近平総書記が2023年9月に黒竜江省を視察した際に発した言葉だとされています。
「新质生产力」とは「高い水準の現代的な生産力」(「新しいタイプ、新しい構造、新しい技術水準、新しい質、新しい効率、持続可能」を旨とする生産力)とされています(これでもよくわからないですが)
平たく言うならば、「伝統的な経済成長方式から脱却し、イノベーションを主体とした経済成長を遂げる」という意味合いで提起された言葉だと私は理解しています。
まぁ要するに科学技術分野の取り組みを強化してこれまでとは違うアプローチで経済成長を図るということでしょうか(間違っていたら直してください)。
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そんなこんなで11日に閉幕した全人代会議ではありましたが、長い中国の政治史で見るならば、後から振り返ればある種「ターニングポイントとなりそうな会議になった」というのが私の感想です。皆さんは今回の人大会議、どう考えますか。
サポートしていただければ、よりやる気が出ます。よろしくお願いします。