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ニュース定型文は覚えてしまおう(政治用語解説編②)

前回のnoteの記事である「ニュース定型文は覚えてしまおう(政治用語解説編)」は一定の反響があり、私も少し驚いています。やはり、中国の政治に注目している人は語句の意味や由来についても深く知りたいとおもっているのだなと言うことを実感しました。

私自身も、ある政治用語を初めて用いる時はその由来まで最初に調べて、ある程度理解してから訳語を構築するようにしています。時間は限られているので詳しくは調べることはできませんが、このようなことをすることで、その語句の派生的な言葉が現れたとしてもある程度臨機応変に対応できるとの考えからです。

そこで今回も前回と引き続き、「政治用語解説編②」と題し、最近中国メディアのニュース記事に比較的頻繁に見られる語句3つを掘り下げて解説したいと思います。少々おつきあいください。

绿水青山就是金山银山

この語句ですが、中国のメディアを見ている人やニュース報道の原文を読んでいる人は、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。習近平総書記が演説の中で、「中国国内の自然環境保護」の文脈でよく使う言葉です。

私はこれを「緑と青の山河こそが金山銀山である」と訳しています。

この言葉の初出は結構古く、2005年8月15日に当時中共浙江省委書記だった習近平氏が、同省湖州市安吉県を視察した際に提起した理論だと言われています。

視察を終えた習近平氏は現地の党機関紙「浙江日報」に「緑と青の山河は金山銀山でもある」という短評を掲載し、その中で次のように提起しました。

緑と青の山河は金山銀山をもたらすことができるが、金山銀山では緑と青の山河を買うことはできない。緑と青の山河と金山銀山との間には矛盾があるかもしれないが、弁証法的に一つにつなげることはできる。

時は下って習近平氏が総書記に就任した2012年以降、この言葉が積極的に使われるようになりました。

決定的になったのは2015年3月に開催された中共中央政治局会議です。この会議の席上、「生態文明建設の推進を加速させることに関する意見」が採択され、この中に「緑と青の山河こそが金山銀山である」理念が正式に意見の中に盛り込まれることになりました。

そして習近平総書記は2017年10月開催の第19回党大会で行った報告で、「必ず『緑と青の山河こそが金山銀山である』との理念を打ち立てて実践し、資源節約、環境保護という基本的国策を堅持しなければならない」と指摘し、正式に党の政策として位置付けられました。

实干兴邦

この語句は「聞きなれない」という方もいるかもしれません。確かに「绿水青山就是金山银山」よりかはあまり聞かないかもしれませんが、習近平総書記の党大会の報告など節目節目で出てくる結構重要な言葉です。

私はこの語句に「実際的なことを行い、国を振興させる」という訳を当てています。

実はこの語句ですが、由来は比較的古く、鄧小平氏が1992年の南方視察(南巡)の際、武昌駅を降り、当時の湖北省党委書記と同駅のプラットフォームを歩いている時に提起した言葉だと言われています。

ただ鄧小平氏が語ったのは正式には「空谈误国,实干兴邦」(空虚な言葉を語れば国を誤る。実際的なことを行えば、国は振興する)だとされています。当時鄧小平氏はプラットフォームを歩きながら、次のように語りました。

空谈误国,实干兴邦,不要再进行所谓的争论了。

空虚な言葉を語れば、国を誤る。実際的なことを行えば、国は振興する。これ以上いわゆる言い争いをするのはやめよう。

鄧小平氏は清末の思想家の言葉の一部をアレンジしてこう語り、「資本主義」の道を進むのか、これまで通り「社会主義」を通すのかという論争に終止符を打ち、実際の状況に即した改革・開放政策を進めるよう呼び掛けたのです。

時は下り、2012年11月、第19回党大会で新しい総書記となった習近平氏は新たに発足した指導グループと共に、党の歴史を振り返る展示を参観しました。

その中で習近平氏は鄧小平氏の南巡講話のコーナーで足を留め、鄧小平氏が語った「空谈误国,实干兴邦」の言葉の重要性を指摘しました。

習近平総書記はそれ以降、演説や報告の中でこの言葉をたびたび使うようになっています。主に「現在の中国の指導集団による改革・開放を堅持する自信・決意」を外部に説明したいとする文脈で使われることが多いですね。

双循环/两个循环

この言葉も耳にしたと言う人が多いのではないでしょうか。訳としては「2つの循環」とするのが一般的です。

ただ、大体においては「国内国外(国际)双循环」といったように「国内と国外の」という枕詞がつくことが多いです。中国の経済発展政策について語る文脈で、このごろ指導者の演説や報告などでよく取り上げられるようになりました。

初出としては比較的新しく、中共中央政治局常務委員会が2020年5月14日開催の会議で、「国内と国外の2つの循環が互いに促し合う新たな発展の枠組み」を構築しなければならないと提起したのが始まりとされています。

その後習近平総書記は2020年5月23日に開催された第13期全国政協第3回会議の経済セクターの合同分科会会議でこう提起しました。

我们要把满足国内需求作为发展的出发点和落脚点,逐步形成以国内大循环为主体、国内国际双循环相互促进的新发展格局。

われわれは国内の需要を満たすことを発展の出発点、帰着点とし、国内の大循環を主体として国内と国外の2つの循環が促し合う新たな発展の枠組みを逐次形成しなければならない。

つまり、最初の会議の段階では「国内と国外を同じように重要視する」という意味合いだったのが、習近平総書記が「国内が主体。そのうえで国内経済と国際経済が促しあうようにする局面」と修正したことになります。

そして「国内の大循環を主体として国内と国外の2つの循環が促し合う新たな発展の枠組み」との言葉は、2021年3月開催の人代会議で提出された「国民経済・社会発展第14次5カ年計画・2035年ビジョン目標綱要」に盛り込まれ、今後の目標として正式に確定しました。

◇◇

どうでしたでしょうか。今回は正直かなり難しかったところもあったと思います。このような政治用語は初見では中々理解しずらいもの。実際に訳語として使っていく中で理解していくようにするといいかもしれません。




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