中国の政治家から学ぶ中国語(1)
今回からの試みとして、新シリーズを立ち上げたいと思います。名付けて「中国の政治家から学ぶ中国語」です。
当noteでは、これまで何回か中国の政治家の発言を引用しながら、中国語の文法や意味を解説してきました。
実のところ、中国のリーダーである習近平主席や李強総理、はたまた王毅外交部部長などの発言を丹念に調べ上げて、「彼らが何を話したのか」ということを見ていくことは、中国語の語学のレベルアップ、翻訳のレベルアップにとても役立つと私自身強く感じています。前回の記事で紹介した「~不得」の用法や数カ月前紹介した「~出来」の用法などはその典型的な例だと言えるでしょう。
そこで今回から、中国の政治家が過去に行った発言を紹介し、「中国語の意味・文法・用法」という観点から解説していきたいと思います。中国事情に触れざるを得ない場面もあるとは思いますが、あくまで「中国語の意味・文法・用法」という観点なので、彼らの発言の政治的な背景などは別途私のXのアカウントなり、他のチャイナウォッチャーの人たちの記事なりを見ていただきたいと思います。
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今回スポットを当てたいフレーズはこれです。
これは2024年3月の全人代開幕の際に、李強総理が行った政府活動報告の中にある1フレーズです。
やはり注目すべきなのは「稳中求进、以进促稳、先立后破」をどう解釈するかでしょう。実は「稳中求进」の4文字は、これまでの政府指導者の発言でたびたび出てきています。ただ、その後ろに「以进促稳、先立后破」か続いたのは昨年末の経済工作会議が初めてで、政府活動報告で言及されたのは2回目でしょうか(違ったらすみません)。
中国ではこのように、格式ある演説や文章において、「文字数をそろえる」スタイルがとても一般的となっています。今回は「稳中求进」「以进促稳」「先立后破」といったように4文字の言葉をそろえてきました。
このような「文字数が制限される」局面では、「1つの文字」の意味をどう解釈するかがとても重要になってきます。
この場面で一番重要になるのはやはり「稳」なのではないでしょうか。「安定」という意味で間違いありません。しかしその一方で動詞でも使われるのだというのが分かります。その一文がその直後にある「各地区各部门要多出有利于稳预期、稳增长、稳就业的政策~」です。私はこの一文で「稳」が「安定させる」という動詞でも使用可能であるということを初めて知りました。指導者の演説や報告などから学びを得られるのは、こういうところなのだなと実感しますね。
さて、先ほどの「我们要坚持稳中求进、以进促稳、先立后破」に戻りましょう。この「稳」に対応する文字が「进」ではないでしょうか。
われわれが初級中国語で習う「进」は「入る」という意味だと思うのですが、やはりここで「入る」とするのはロジック的におかしい。となると「进」は「前進」ではないかという予測をつけることができます。
そして・・最大の難題は「先立后破」でしょう。「立」が「確立する」、「破」が「打破する」なのは分かるのですが、「何を」なのかが分かりません。
こういう場合、私はグーグル先生に頼ることにしています。そうするとこういう文章が出てきました。これを見ると「確立する」のは「新しいもの」で、「打破する」のは「古いもの」だということが分かります。
ここから、「稳中求进、以进促稳、先立后破」の訳は「安定の中から前進を求め、前進で安定を促し、先に(新しいもの)を確立して後で(古いもの)打破する」となるわけです。
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このように、指導者の演説は「一文字の意味は何か」ということを考えさせられる場面がかなりたくさんあります。新華字典などを傍らに置いて、考えてみてはいかがでしょうか。