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中国語翻訳者・通訳者向けマガジン

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主に中国語上級者向けのマガジンです。
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記事一覧

語学学習にゴールは存在するのか

先日何気なしにnoteめぐりをしていたら、興味深い記事を見つけました。 筆者は中国語学習に「ゴールがある人もいるし、ない人もいる」という主張をしています。 実は私も、この「語学学習にゴールがあるのかないのか」というテーマについて以前noteで自分の考えをまとめています。 この記事で私が主張したように、「語学」の最大の難しい点は「現時点の語学のレベルをこれからもずっと維持すること」でしょう。「そんなこと分かっているよ」という人もいるかもしれません。 確かに、ある言語やそ

「~出」表現に見る「違いを出せる翻訳」

中日のニュース翻訳を専門でやっていて初めて気づいたこと。 それは日本語文であれ、中国語文であれ、その言語の後ろにあるバックグラウンドやニュアンス、意味合いなどを深く知らないと生み出せない文章・フレーズがあると言うことです。 要するに平たく言えば、「ネイティブじゃないと思いつかないよね、これ?」と言いたくなるような表現でしょうか。 最近ジブリ映画「君たちはどう生きるか」の台湾版と大陸版の中国語タイトルを並べて目にした時に、私はその思いをより強くしました。そう思わせたのは、

翻訳・通訳で原文にない言葉を付け加えるのは善か悪か

先日Xをつらつらと見ていたら、次のようなポストが目に入りました。 ポスト主の尾形さんは、先日開催された大谷翔平選手の釈明会見で通訳を務めたウイル・アイアトン氏が、大谷選手が発した「僕自身は何かに賭けたりしたことがない」という言葉を、「野球だったり、何かに賭けたことはない」と英訳し、「野球だったり」という大谷選手本人が発していない言葉を付け加えていたことを問題視しています。 これに対して、後になって「いや問題ない」というコミュニティノートがつきました。このあとのポストで尾形

水原氏の騒動で私が思うこと

米国メジャーリーグの球団ドジャースの大谷選手の専属通訳である(だった)水原一平氏が、球団から解雇されたというニュースが駆け巡りました。このニュースに多くの人は驚いたのではないでしょうか。 私自身も驚きました。今でも水原氏や大谷選手を取り巻くニュースが後を絶たない状況ですが、私は同時に現職の翻訳者として、そして昔通訳を目指していた一個人として、このニュースに違う意味で胸がざわついたのも事実です。 私は今でこそ中日の翻訳者として携わっていますが、今の仕事に就く前は日中・中日の

今年の全人代の総括

本当は中国政治に関する記事を投稿するのは先週限りにしようと思ったのですが。今日11日は全人代会議の閉幕日。ということでやはり触れざるを得ないでしょう。 今回は今年の全人代会議で話題になった点を総括したいと思います。 総理記者会見の取りやめやはり今回の両会の中で、これが一番ハイライトになったといえるでしょう。この情報は、4日に開催された、全人代会議開幕直前に開催が恒例となっている全人代会議記者会見の席上で、婁勤倹報道官が発表したものです。発表後は中国ウォッチャー界隈では衝撃

全人代の見どころ

今回は少し毛色を変えて、中国政治のことを触れたいと思います。いつもなら、中国政治のことについて解説するのは当noteの趣旨とは少し異なるので控えているのですが、やはり今週は触れざるを得ないでしょう。なぜなら今週は中国にとって一年一度の重要な政治イベントがあるからです。そう。全人代と全国政協会議の開催です。そこで、今回は全人代と全国政協会議の(私が知りうる範囲の)基礎知識と、今年の全人代会議、全国政協会議の見どころを少しお話したいと思います。 まず触れておきたいのは、全人代と

日本語と中国語で違う意味

今回は中国語ネィティブの人、日本語ネイティブの人両方に見て欲しい話題をしようと思います。そう、日本語と中国語の漢字のニュアンスについて です。 Xを見ていると思うのですが、中国語ネイティブの人たちの日本語はとても素晴らしいと常々思っています。文章も日本語ネイティブとそん色ないものを書いている人がごろごろいる。 しかし同時に、中国語ネイティブの人たちが書く日本語の文章で、「日本語の漢字の使い方を間違っているのでは?」という場面に遭遇するところが多々あり、「惜しいな」と思うこ

中国語にさりげなくある英訳語

中国語に限らず翻訳をしていると必ず遭遇する問題。それは辞書に出てこない語句、あるいは辞書にある訳語ではどうしても日本語としてしっくりこない語句をどう処理するかということです。 この点の処理については、以前のnoteでも取り上げたことのある話題ではあります。しかしやはり、「中国語→日本語」の翻訳者には今一つ浸透していない印象を受けています。 そこで今回は「重要事項の注意喚起」として、もう一度語ってみたいと思います。 ◇◇ このような「ちょっと引っかかる語句」の処理につい

2つの意味がある語句の採用

今回は久しぶりに中日・日中ニュース翻訳についてお話ししたいと思います。訳語の選定についてです。 通訳・翻訳を目指しているみなさんは、中国語→日本語、日本語→中国語の翻訳をするにあたって、「訳語の選定」について考えたことはありますか? 実のところ、原文の日本語、中国語の語句に対応する中国語訳、日本語訳が「1つだけ」というケースはそんなに多くはありません。辞書を引けば多くは、一つの語句に何種類もの訳が存在するということが分かるでしょう。 翻訳者(通訳者もそうなのですが)はそ

記事要約のすすめ➁

2年前、私は「記事要約のすすめ」というnoteの記事で、中日日中の翻訳能力を高める上での記事要約の重要性を説明しました。 この考えは今も変わっていません。その証拠に、今でも私はX(旧ツイッター)の自分のアカウントで、その時その時に華字メディアで報じられたニュースを日本語の短文で投稿することを続けています。 これは、今中国・台湾・香港・マカオで報道されているニュースを日本のみなさんに紹介したいという思いのほかに、自分自身の翻訳能力を高めたいという気持ちを持っているからです。

今年もありがとうございました

2023年も残すところあとわずか。2023年は皆さんにとってどのような1年でしたか? 本noteにとって、そして私にとって、今年はいろいろな転機があった1年だったと感じています。 本noteではかねてから、翻訳を目指す人、中国語を勉強したい人に向けて1週間に一回配信でやってきましたが、今年8月、9月は遂に、前々からやりたいやりたいと言っていた、X(旧ツイッター)のスペースを使った「中国語ニュース翻訳勉強会」「中国語初級者・中級者向け勉強会」を主宰させてもらいました。 私

中国語文はSVOとは限らない

先日、次のような文章をポストしました。 中国語の文構造で最も基本的なのは「S(主語)V(述語)O(補語)」であるのは間違いないでしょう。私もそこには賛成です。 しかし実は「すべてSVOだ」と思い込んでしまうとそこには落とし穴が存在します。特に台湾にはこの手の文が多いですね。 そもそも中国語の単文は、主語が存在する「主述文」と、主語がそもそもない(または冒頭に来ない)「非主述文」に分けられます。 主述文はわれわれが中国語を勉強した時に勉強した、あの典型的な「SVO」構文

日本語の強調表現

中日翻訳、日中翻訳共に、中国語の知識とともに日本語の知識を持っておくことは非常に大切です。だからこそ私は、ここ数回の「note」について、日本語独特の表現についてもスポットを当てるようにしています。 そこで今回は、知っておきたい日本語の強調表現について見ていきたいと思います。 みなさんは日本語の文を書くとき、強調表現としてどのような用法を思い浮かべますか。ちなみに、ここで私が言う「強調表現」とは、「文中で、ある文字、語句を読者に強く主張したい時に使用される表現」を指します

日本語における未来形の使い分け

今回は、日中の翻訳者向け、とりわけ日本語の未来形の使い分けについて解説したいと思います。 皆さんは中国語における未来形はどのようなものがあると考えますか。一般的には「将」「要」「会」などが未来形にあたる言葉だという知識を持っていると思います。 しかしこれらを単純一律に「することになっている」「していく」などに翻訳していいのでしょうか。実は日本語においては、同じ未来形であっても、主語や行動主体如何によっては、使い分けるべき場面があるのです。特に気をつけるべきは、自分、または