化学グランプリ2023年2次試験問題分析
化学グランプリの2次試験の問題の分析です。
最新の2023年が実際に実験を行うのも比較的簡単だったため、紹介します。
https://gp.csj.jp/media/common/gp2023-2Q.pdf
実験試料について
(高校の実験室レベルであれば)比較的簡単に用意できる物質でこの実験の本質的な部分は行えます。
溶液1 塩化鉄(Ⅲ)と塩酸水溶液
→塩化鉄(Ⅲ)はフェノールの検出に用いる一般的な物質なので、ある可能性が高いです。
溶液2 塩化鉄(Ⅱ)と塩酸水溶液
→塩化鉄(Ⅱ)そのものはあまり用途が多くなく(単に2価の鉄イオンなら硫酸鉄(Ⅱ)の方が一般的)、空気中で簡単に酸化されるので、あまりないかもしれません。
ですので、鉄と塩酸を混ぜると塩化鉄(Ⅱ)ができますので、反応後に塩酸が2.0mol/Lになるように分量を計算して、濃いめの塩酸と鉄を入れることにより、溶液2を作成することができます。ただし、反応にはかなり時間がかかるので、鉄がすべて反応するためには1晩程度置いておく必要があります。あまりにも放置しすぎると酸化して3価の鉄イオンになるらしいので要注意です。
溶液3 硝酸鉄(Ⅲ)水溶液
利用するのは【実験2】のみであり、なくても他の実験は行えます。(なお、本質的には中和反応の滴定曲線を描くだけです)
25%テトラメチルアンモニウム水溶液
利用するのは【実験1】の4.2の磁性流体の調製のみです。これ自体は非常に面白い現象ですが、問題的には1つの問いに対応するだけ(しかも、実験による観察が無くても解答可能)なので、飛ばしても問題ありません。
ゲーサイト粉末
利用するのは【実験3】です。マグネタイトでも同じ実験操作はできますが、結果が分かりにくくなります。
グラファイト粉末
利用するのは【実験3】です。炭素粉末で代用可能ですが、反応があまり芳しくないかもしれないです。
実験について
【実験1】
4.1~4.3マグネタイトや磁性流体の合成の実験。操作は手早くする必要がある。
4.4生成機構の考察。のちの考察問題に答えるために。アンモニア水を1mLずつ加えて、起こった現象をかなり細かく観察する×12回×3セットをこなす必要がある。操作自体は手早く、観察はじっくり行う必要がある。
【実験2】
本質的に滴定曲線を描く問題。問題文からは創意工夫の余地がなく全く同じ滴定操作を3回繰り返すように読めるが、模範解答ではpHジャンプ近辺で細かく読んでいる。行間をかなり読まないと模範解答にはたどり着けない。
なお、本質的には手の速さが問われる実験に思われる。
【実験3】
試料を集めて混ぜる→加熱→生成物の性質を調べるを3セット。冷えるのを5分待つという操作がある。この待っている間に次の操作の確認や、理論問題に手を付けるなど、実験操作の段取りを自分でつける力が問われる。
加熱した結果、どのように変化するかは実験を行う前から予想がつくが、結果が想定と違ったときにどう対応するかは悩ましいかもしれない。
問題について
実験操作によって時間を消費してしまう中で、紙上だけで答えられる問題と、実験結果を基に考察する問題がある。という構造である。
とはいえ、紙面だけで答えられる問題は1次試験を比較しても、そんなに難しいことを聞いているようには思えない。
2023年で言えば、単に化学反応式を答えさせたり、実験データを基にグラフを書かせたりする力は非常に基本的な能力を問うている。紙面上で考察する問題13も、スピンに着目するという、あまり扱ったことのない題材かもしれないが、説明を読んでいけば問題は解ける。これらに差があまりつくとは思えない。
よって、できるだけ単なる操作を短くし、必要な部分の結果の観察と考察に多くの時間を割く、という作戦が必要に思える。
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