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21世紀に蘇った殺人マシーンと中華最終兵器『USA 2020』

みなさんは『香港97』というゲームをご存知でしょうか?
1995年に吉喜軟体公司(Happy Soft)が制作した任天堂非公認のスーパーファミコン用ソフトなのですが、自称ブルース・リーの親戚の殺人マシーン陳が12億もの中国人民&最終兵器と化した鄧小平の生首を相手に殺戮を繰り広げるというとんでもない設定の不謹慎ゲームとして悪名高い作品です。

しかしメーカー非公認ソフトなので一般流通経路に乗らなかったことはもちろん、媒体がカセットでなくフロッピーディスクのため、実機で動かすにはマジコンを要したことから、高い知名度と反対に希少かつ敷居の高いゲームでもありました。

そんな20世紀の怪作が21世紀の今この瞬間、安価かつ合法的な手段でプレイできるとしたら……どうします?
今回紹介する『USA 2020』はあの『香港97』にオマージュを捧げたパロディゲーム……いえ、20年以上の時を経て現世へ蘇ったリメイク版『香港97』と言っても過言でないかもしれません。

2020年、米国は未曾有の危機に瀕していた!

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2020年の到来と共に突如アメリカへ押し寄せた爬虫類型宇宙人レプタリアン

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これに対し合衆国政府は陳ジュニアに宇宙人抹殺計画を要請!

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さあ、クソッタレなグリーンメンを一匹残らず始末せよ!

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一方そのころ、ワシントンD.C.では大統領の改造計画が着々と進んでいた!

かくして、120億もの宇宙人VS殺人マシーン陳ジュニアVS最終兵器ドナルド・トランプの三つ巴の戦いが幕を上げる!

……というかなりぶっ飛んだオープニングから始まります。

もちろん『香港97』を知らなくてもエイリアンVS謎の男VSドナルド・トランプという字面だけ見て十分笑えますが、知っていると原作と一字一句違わないあらすじ(一部単語を除く)に抱腹絶倒すること間違いなし。

敵が地球外生命体という当たり障りのない設定にしたことで不謹慎要素やアングラ感がだいぶ薄れてはいますが、カオスな雰囲気は健在です。
まるでオリジナルを踏襲したうえでスケールアップ&現代風アレンジ&世代交代に成功した正統派続編のような雰囲気を醸し出しているのがなんとも素晴らしく、謎の感動がこみ上げてきます。

控えめに言って「掴みは抜群」、大げさに言って「このオープニングだけで定価(100円)以上の価値がある」のではないでしょうか。……えっ、そう思わない?

宇宙人を退け、大統領を撃ち落とせ!

不条理系ギャグ漫画にも似たシュールでカオスなオープニングとは反対に、ゲーム自体はいたってシンプルな固定画面シューティングです。

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しかし主人公の陳ジュニアは殺人マシーンの割にかなり貧弱。自機の判定が大きいうえに1度でもダメージを受けたら即ゲームオーバーのオワタ式なのでとにかく死にやすいのです。
おまけに2020年のアメリカは雨の代わりに空から宇宙人が降りそそぎ、地上では殺人スポーツカーが行き交う無法地帯と化しています。一度足を踏み入れたら最後、無事生還することは叶いません。

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そんな地獄にもっとも近い国で生き延びる唯一のすべが、緑色のパワーアップアイテム――大麻です。雑魚を倒した際にドロップすることがあり、これを取ると一定時間無敵化して殺人マシーンにふさわしい猛攻を見ることができます。

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一定数雑魚を撃破するとボス戦へ移行。侵略者の魔の手からアメリカを守る戦いのはずが何故か合衆国最終兵器ドナルド・トランプが陳ジュニアを押しつぶさんとしてきます。左右から襲い来るハクトウワシも妙に判定が強く、なかなか厄介です。

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ボスを倒すとそのまま次のステージへ。先ほどとは比べものにならないほど敵の出現数が急増します。猛スピードで画面を横切るパトカーやアイテムと見分けがつかないような飛び道具(卍)で攻撃してくる敵も新たに登場して、もう大麻が無いとやってられません。

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ボス戦の難易度もアップ。お供のハクトウワシは消えましたが、最終兵器トランプの口からマーライオンのごとき勢いで吐き出される大量の戦車が熾烈な弾幕となって陳ジュニアを追い詰めます。
幸い画面端(左右上隅)に安全地帯があるので、平常心を保ちつつヒットアンドアウェイを繰り返せば突破可能です。

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その後量産化に成功したのか、ステージ3ではWトランプが襲来。風邪をひいたときに見る夢のように奇妙奇天烈摩訶不思議な光景ですが、パターンはステージ2とほぼ同じなので1トランプずつ落ち着いて対処すればなんとかなります。

と、クリア実績に対応しているステージはここまでです。この先にどんな面白トランプが待ち受けているか……その答えは君の目で確かめてみてくれ!

膨大すぎる実績と斬新すぎる実績解除

驚くべき点はオープニングやボス戦のインパクトだけではありません。
本作にはなんと5000個もの膨大な実績が用意されています。

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しかし本編のシューティングゲームに対応している実績は5000個中たった8個のみ。それも「○面をクリアしろ」「無敵中に敵を20体以上倒せ」など割とオーソドックスな内容です。

では残る4992個の実績はどうやって解除するかというと……

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タイトル画面からACHIEVEMENTSを選択して……

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この画面で放置するだけ! ね、簡単でしょ?

ただし一瞬で複数の実績が手に入るわけではなく、5秒に1個の一定ペースで解除されます。そのため4992個の実績を手にするには約7時間ほど放置する必要があります。

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ところでこのゲーム、不思議なことに放置実績(MEDAL OF HONOR)の方が本編実績より取得率高いんですよね……

感想

さて、伝説のアングラゲー『香港97』は危険かつ強烈なビジュアルばかりに目を奪われがちですが、ゲームとしてのクオリティもあまり高くはなかったようです。
私も実際にプレイしたわけではないので詳しいことは言えないのですが、プレイ動画を見たり噂を聞く限りでは「受け狙いで作ったクソゲー」というより「プログラミング知識ゼロの業界未経験者が参考書片手に見様見真似で作った必要最低限のシューティングゲームっぽい習作」という印象を受けます。

そんな怪作のパロディ『USA2020』をプレイした感想ですが、私個人としては値段以上に楽しむことができました。
といっても、もともと「あの『香港97』のパロディゲーがSteamで売ってるってホント?」という噂を聞いて衝動買いしたこのゲーム。悪ふざけ要素ばかりに注目する一方で純粋なシューティングゲームとしての出来をまったく期待していなかったので、甘い評価になってしまっているかもしれません。

たしかにこのゲームも「自機が大きく攻撃を喰らいやすい」「弾速が遅いので爽快感がない」という『香港97』譲りの問題点を抱えています。特に2面以降の道中は敵の物量に耐えるためひき逃げ期待&大麻お祈りゲーになりがちで、単調さや味気なさを覚えたのも確かです。

個人的に一番の問題点といえばポーズボタンが無いこと。他のゲームの感覚でうっかりEscキーを押すとその場で自爆→陳死亡するので、調子良く進んでいるときに限って一時停止できないことに不満を感じる場面が多々ありました。

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ショットボタンでリスタートという仕様にも不満があります。通常のプレイであれば気にならないのですが、命中率100%の実績を狙っているときはリスタートと同時に弾が射出&高確率で正面に敵が出現しないという仕様のため、わざわざメインメニューに戻らなければならないのが本当に面倒でした。

一方でボム無し・残機無し・コンティニュー無しといった仕様は、リトライが早いこともあってさほど気になりませんでした。むしろ敵の種類もボスのパターンも少ない単調な戦闘に、一撃死の緊張感という彩りを加えることに成功しているようにすら感じます。

とはいえ、はっきりに言って『USA 2020』は完成度の高いシューティングゲームではありません。雑であっても理不尽というわけではなく、低品質であっても一応遊べないこともないようなゲームです。同じ価格のシューティングゲームでももっと丁寧に作られた作品はごまんとあります。

しかし『USA 2020』は、あの伝説のアングラソフト『香港97』を雰囲気を味わうことができるという唯一無二の特色を持っています。
もちろん完全な移植作品でなく単なるパロディソフトなうえ、『香港97』独特のアングラ感はほぼ払拭されています。BGMに『我愛北京天安門』が再生されることもなければ、ゲームオーバー時に本物の死体画像が表示されることもありません。

ですが……なんと言えばいいのか……パロディとはいえ20世紀の怪作の精神的後継作ともいえるこのゲームを、違法行為に手を染めなくてもたった100円でプレイできるなんて奇跡ではないかとすら思うのです。

決して良質なゲームとは言えませんが、目眩がするようなカオスな笑いを求めているゲーマーや『香港97』自体に興味のあるゲーマーは、この奇跡を一度体験してみてはいかがでしょうか?

こんな記事に投げ銭するぐらいならレンガかフラフープを買った方が有意義だぞ。