見出し画像

ワンコインで体験するネバーエンディングセール『Summer Sale』

クリスマスセールに歳末売り尽くしセールに新春初売りセール……年末年始は何かとセールが多くてワクワクしますよね。
気になっていた商品の値下げや予期せぬ掘り出し物との出会いにテンションが上がったり、「○%OFF」と表示された特売品のウィンドウショッピングを楽しんだり、安さに目がくらんで余計なものまで衝動買いしてしまう人も多いことでしょう。

しかし運悪く購入の機会を逃してしまったとき、悔しさからこう思ったことはありませんか?

「あーあ。セール期間がもっと長ければいいのに……」

今回はセールの感動と興奮をいつでも好きなときに味わうことができる、この時期にピッタリのソフトを紹介したいと思います。

エンドレスサマー(ウィンター)セール開催中!

今回紹介する『Summer Sale』は、架空のゲームプラットフォームからセール対象作品を買いまくることができるシミュレーションソフトです。
『Steamサマーセールシミュレーター』あるいは『ゲームを買うゲームシミュレーター』と言い換えてもいいでしょう。

画像1

ゲームを起動すると見覚えのあるトップページがプレイヤーを出迎えます。
『Summer Sale』というタイトルとは真逆に、現在はウィンターセールの真っただ中です。

画像2

もちろんリリース当初はサマーセール仕様でしたが、その後アップデートでウィンターセールに切り替わって以来、ずっとウィンターセールのままになっています。カレンダーと連動してセール名称が切り替わるというわけではありません。
Steamのストアページを見るとアイコンもサンプル画像もゲーム概要もウィンターセール仕様になっているので、『Winter Sale』=『Summer Sale ver.2.0』ということになんでしょうけど……

まあどっちも大型セールであることに変わりないし、最安値で買えるならなんだっていいよね!

画像3

トップページにずらりと並ぶセール対象商品。その数なんと17本。見慣れたグリーンの値引き表示とどこか既視感のあるタイトル画像がプレイヤーの心をくすぐってきます。中には95%OFF10¢で買える激安ゲームもあって悪寒が走……じゃなくて興奮が冷めやりません。

画像4

ストアページももちろん完備。いろいろとツッコミどころが多いとはいえ、システム要件やカスタマーレビューまでしっかり書いてあるのはなかなか芸が細かくて好感が持てます。

画像5

そしてセールの醍醐味といえば、掘り出し物のまとめ買い!
内容なんて二の次。とにかく片っ端からセール商品をカートに入れまくって購入ボタンを押すあの瞬間がいつでも楽しめるなんて最高ですね!

画像6

購入ボタンを押す爽快感を味わっただけでは終わりません。購入したゲームはライブラリに追加され、なんと実際に起動することができます。

画像7

といっても、どのゲームもまともに遊べる代物じゃないんだけどね!

画像8

エラーを吐いてメインメニューに戻される、すぐ進行不能になる、そもそもゲーム性が皆無……そんな製品未満のプログラムばかりです。

しかしこのゲームのメインは食玩に付属したしょぼいラムネ菓子ポジションの戦利品で遊ぶことでなく、セールの雰囲気そのものを味わうこと。購入したゲームのクオリティにケチをつけるなんてナンセンスだと思いません?

ゲームを買うためにゲームをプレイするゲーム

いくらまともに遊べないゲー無ばかりとはいえ、やはり購入可能な以上はすべて買い揃えたいと思うゲーマーやコレクターも多いはず。
しかしセール対象タイトルすべてを購入しようとすると、合計で138.37$必要です。ゲーム開始時の所持金(60$)だけではとても足りません。

では資金を増やすにはどうするかというと、ライブラリ内のゲームとは別のミニゲームで遊ぶ必要があります。

画像9

金策用のゲームは全部で3種類。コインを集めるランゲーム(『DRAGON EROL』)、飛行機を撃ち落とす砲台型シューティング(『Glorious Cannon』)、画面をクリックするだけのクリッカーゲーム(『Coin Train』)です。

画像10
金策ゲームの中では比較的まともなランゲーム『DRAGON EROL』
画像11
当たり判定が大きすぎる砲台型シューティング『Glorious Cannon』

ライブラリ内のゲー無と比べると、こちらは辛うじてゲームとしての体裁を保っています。当たり判定が大きくて操作性が悪いとはいえ、一応遊べなくもない出来です。

画像12
連打ツール必須のコインクリッカー『Coin Train』

まあどのゲームもびっくりするほど報酬が渋すぎて、普通にプレイするとメンタルがやられること間違いなしの苦行が強いられるという大問題を抱えてるけどね!

画像13
ギャンブル要素の強いルーレット『RUSH B AND PLANT』

それ以外にもライブラリ内に追加される『RUSH B AND PLANT』というゲームでも一応お金を得ることができますが、一度回転し出すと完全停止まで約14秒ほどかかるという極悪テンポに加えて、任意の位置で止めることができない完全運ゲー仕様。大当たり(+10$,+15$)の金額は魅力的ですが、はずれ(-1$~-7$)の絵柄も多いため、よほど強運でない限り所持金がマイナスになることも珍しくありません。

ローリスクローリターンのゲームで地道にコツコツ貯めるか、ハイリスクハイリターンのゲームで大当たりを夢見るか。稼ぎ方はあなた次第です。

おまけのウェブブラウザシミュレーター

架空のゲームプラットフォームを題材にした『Summer  Sale』ですが、実はおまけとして架空のウェブブラウザを閲覧することができます。

画像14

閲覧できるのはスタートページに登録された4つのサイトのみ。ページを切り替えると時折右下にポップアップ広告が表示され、ネットサーフィンの雰囲気を盛り上げてくれます。

本編と比べると本当におまけ程度、あくまで箸休めポジションなのでそこまでボリュームはありません。しかしツッコミどころは本編に負けず劣らず……というか、ろくなものじゃありません。

画像15

PCを高速化する裏技といってSYSTEM32を削除されたり!

画像16

違法ダウンロードっぽいサイトではおま国言われて何も落とせなかったり!

画像17

ついでに電卓はまともに動かないしスクリーンショットも撮れないし!

画像18

おまけに100%になっても終わらないOSアップデートがとどめと言わんばかりに割り込んでくる!

という感じに、箸休めポジションでありながらも強烈なインパクトを残していきます。

感想

100円という値段を考慮しても、人によってかなり評価が分かれる作品だと思います。

例えばミニゲーム集として見ると、はっきり言って虚無の詰め合わせでしかありません。
絵面こそゲームっぽく見えても、実際はゲームと称するのもおこがましいようなデモプログラムばかり。金策用のミニゲームも全体的に出来が悪いうえに、労基が助走をつけて殴り込みをするレベルの低賃金作業。その苦行を乗り越えた先で得られるのは、せいぜい購入ボタンを押した瞬間の快感のみ。
あまりの虚無っぷりから「これは『クソゲーを買うためにクソゲーをプレイするクソゲー』だ」と感じる人がいても不思議ではありません。

一方でジョークソフトとして見るとどうでしょう。100円の割にはなかなか凝った作りだと思うのは私だけでしょうか。
散財する快感。衝動買いの後悔。クソゲーを掴んだときの虚無感。労働という名の苦行。身を滅ぼすだけのギャンブル。突然のWindowsアップデート。これらのあるあるネタを凝縮しただけにとどまらず、ゲームを“買っただけで終わり”にしなかったその精神――あれだけのパロディタイトルを用意して、ストアページだけでなく実際にプレイできるまで作り込んだ事実はもっと称賛されるべきです。

欲を言うとゲーム購入後もストアページを閲覧できたり、ゲーム内オプションからデータリセットできればなー……と思いますが、100円のジョークソフトにこれ以上のクオリティを求めるのは酷かもしれません。

画像19
ちなみにセーブデータは C:\Users\(ユーザー名)\AppData\Local\Summer_sale\Saved\SaveGames に保存されており、これを消すことで初期化できます

何はともあれ、質より量を揃えたことで擬似体験のリアリティや没入感を高めることに成功した『Summer Sale』は、もはや「唯一無二のセールシミュレーターゲーム」というより「ワンコインで体験できる芸術作品」といった方がしっくりくるような気がします。

そう、『Summer Sale』はただのシミュレーションゲームではありません。
ゲームという娯楽の皮を被って、人間の欲望とセールの光と闇を描いた現代アートなのです。

むしろ現代アートだからこそ、評価が分かれる作品なのかもしれません。
マルセル・デュシャンの『泉』や『自転車の車輪』を見て「こんなのはアートじゃなくてただの便器や車輪だ」と憤慨する人がいる一方で「既存の芸術にとらわれない型破りなアートだ」と絶賛する人がいるのと同じように、『Summer Sale』もまた「クソゲーのハッピーセット」から「セールという身近な題材から人生の真髄を描いた哲学的な作品」とまで感じ方はプレイヤーによって大きく異なります。

賛否両論の作品ではありますが、興味のある方はこのセールシミュレーター型現代アートを体験してみてはいかがでしょうか?

こんな記事に投げ銭なんかするより、いい感じの帽子とか山積みのレンガとか大量のフラフープとか本物のヤギとかを買ったほうがずっと有意義だぞ。