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この断崖絶壁に囲まれた大不自然の中で『Hiking Simulator 2017』

だんだんと過ごしやすい気候になってきました。初夏のさわやかな風に誘われて、天気のいい日は外へ出かけたくなりますよね。
お弁当を持ってピクニック、友達と集まってバーベキュー、波打ち際で潮干狩り、今流行りのソロキャンプ……この季節ならではのレジャーもたくさんあります。

しかし都会の喧騒から離れるために非日常を求めたとしても、休日はどこへ行っても人・人・人だらけ。これでは満員電車に揺られて通勤するような日常とさほど変わりません。
加えて“新しい生活様式”によって私たちの日常が一変した今、外出自体をためらってしまう人も多いのではないかと思います。

それならおでかけを疑似体験すればいいじゃない!

テレビに雑誌にネットにと、情報過多の現代社会で知識を仕入れるのは簡単です。集めた情報をもとに想像の翼を広げれば、自宅にいながら旅行気分を味わうことだってできます。
想像力さえあれば、たとえ地球に存在しない絶景スポットを独り占めするような非現実的バーチャル旅行だってきっと……!

常識を捨てよ、ハイキングへ出よう

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今回紹介する『Hiking Simulator 2017』はその名の通り自然の中を散策するシミュレーションソフト。いわゆる「ウォーキングシミュレーター」と呼ばれる、敵も味方も勝敗も存在せずただ歩くことに重きを置いたゲームジャンルです。
ゆえに娯楽要素よりもアーティスティックな面が強く、人によって大きく好みが分かれるのですが、その中でも『Hiking Simulator 2017』はとりわけ癖が強いというか人を選びまくるというか……

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これを書いている2021年5月現在では「賛否両論」になっていますが、私がこれを購入した当時(2020年5月)の評価は「ほぼ不評」でした

評価項目が「おすすめできる」と「おすすめできない」しかないため、よほどのことがない限り不評にならないSteamレビューが「否寄りの賛否両論」だったり……

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とあるウォーキングシミュレーター好きのフレンドにプレゼントしたところ、「陰鬱」「虚無」「徒歩従軍シミュレーター」「ラストリベリオンが良ゲーに見える」といった感想が飛び出す程度に激しく好みが分かれる代物になっています。

ですがこれらの評判だけを見て「どうせクソゲーなんだろ?」という先入観を抱いたままストアページを閉じるのはナンセンスです。それでは有意義な休日を過ごしたいと思いつつも、非日常へつながる扉を無視して日常へひきこもる――何の目的もなしにスマホをいじってだらだらしているだけの無為な時間と同じこと。
ならばスパイスのようにピリっとしたアクセントを求めて、未知なる芸術に触れてみるのも乙ではないでしょうか。……えっ、そう思わない?

閉塞感のある屋外と不自然だらけの自然風景

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長いロード時間を経てたどり着いた先は、広々とした自然豊かなフィールド。秘境感あふれるのどかな風景とPS2やドリームキャストを彷彿とさせるグラフィックは、昨今の美麗グラフィック至上主義な風潮に疲れてしまったゲーマーの目も心も癒してくれます。

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本作に収録されたフィールドのほとんどはマップエディターで雑に隆起させた崖に取り囲まれているという珍しい特徴を有しています。人里離れた美しい秘境でありながら、人の手で作られた箱庭のように人工的な印象です。“自然”でありながら“不自然”という矛盾を堪能するのにはぴったりのロケーションですね。

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ステージによっては崖が低めに作られているため、ジャンプ連打でよじ登ることも可能です。が、外に出たからといって何かあるわけではありません。せいぜい歩き続けた果てに見えない壁に行き当たるぐらいなので、大海を知らないままの蛙でいた方が賢明でしょう。

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また、ここにはウサギや馬といった野生動物も多数生息しており、何のストレスもなくのびのびと暮らす様をじっくりと観察できます。

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しかし秘境暮らしで人間に馴れていない動物ばかりのため、近づくとお尻をプリプリふりながら逃げていきます。

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加えてプレイヤーは無条件で動物たちに嫌われるという特異体質を持っているため、動物たちは木や岩にめりこもうが決してこちらと目を合わせようとしません。臆病な彼らのことを思いやるなら、暖かい目で見守る程度にしましょう。

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そんな開放的な屋外のはずが閉塞感しかない大不自然という非日常の中に達成すべき目的や到達すべきゴールはありません。もちろんプレイヤーに危害を加えてくる敵や攻撃するための武器もありません。もっと言えば実績自体ありません。慌ただしい日常のことは忘れて、心ゆくままに散策しましょう。

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しかしライフやダメージといった概念は存在するので、高所から飛び降りれば痛々しい効果音や断末魔とともに目の前が真っ赤に染まりますし、水に入ればそのまま沈んで二度と浮かび上がることはありません。はしゃぎすぎて帰らぬ人にならぬよう、足元にはご注意ください。

牧歌的かつ風光明媚な6つのステージ

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ハイキングといえば緑豊かな場所が定番ですが、中には一風変わった場所を歩きたいと思う人もいるのではないでしょうか。
そんな飽き性でひねくれ者のプレイヤーの意を汲んでか、本作ではなんとバラエティに富んだステージが6つも収録されています。

せっかくなので個性あふれる全6ステージを簡単に紹介していきましょう。

Hilly Landscape

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おだやかな丘陵地帯です。マップ奥に位置する滝ではたまにマヌケな動物が滝つぼに落ちていることもあって、癒しと笑いの相乗効果が期待できます。

Mou"i"ntain Top

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MountainならぬMouintainが天高くそびえ立つステージです。頂上に何かあるわけでもありませんが、足を滑らせたら最後のスリリングなトレッキングが楽しめます。

Snowy Landscape

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その名の通り銀世界。寒さ厳しい大地ではトナカイやゾンビ犬っぽい生き物などがたくましく暮らしています。

Swan Lake

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大きな湖と夕焼け空が美しいステージです。湖をぐるりと取り囲むように設置された遊歩道はジョギングコースにちょうどよさそうですね。

The Farm

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こじんまりとした農場があるのどかなステージ。嫌われ体質のプレイヤーが近づいても決して逃げない動物や、「MOO」と書かれた謎の地上文字は必見です。

The Forest

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さまざま種類の木々が生い茂る森林浴スポットです。森という割にはひらけた場所が多く、木の本数も少ない気がします。

感想

いくら言葉を書き連ねて飾り立てようとしても物事の本質は何一つ変わらない……ここまで書いてそんな当たり前のことにようやく気付いたので、そろそろ本音をぶちまけようと思います。

ここまで読み進めるような物好きな方々はとっくに察しているかと思いますが、この作品がストロング虚無スタイルのウォークシム――ウォーキング虚無であることは明らかです。

本作は『GameGuru』というFPSに特化したゲームエンジンを用いて制作されたソフトなのですが、シューティングではなくシミュレーションを自称しているため、敵やアイテムといったゲーム的要素はすべて取り除かれています。
かといってオープンワールドのように「ただ歩くだけでも楽しい」ような凝ったマップでもなく、テキトーに凹凸つけた地形にテキトーにオブジェクトを置いて、雑に崖で取り囲んだだけのロケーションばかり。そこに魅力的な世界観や引き込まれるようなストーリーは何一つありません。

中でも一際目を引くのが「Snowly Landscape」と「The Forest」のステージ構成です。

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Snowly Landscape
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The Forest

上は「Snowy Landscape」下は「The Forest」をGameGuruで開いたときのレベルエディター画面なのですが……本っ当に何もない、無駄に広いだけの平地以外の何物でもありません。
他のステージではコンセプトに沿ったロケーションづくりや地形に変化をつけてユーザーを楽しませようとする心意気がわずかながらも感じられたのですが、この2ステージからは面白みも作り手の思いも一切感じません。
ゲームエンジン自体がしょぼいので余計安っぽく見えてしまうのかもしれませんが、おそらく小中学生が厨二マインドの赴くままにRPGツクールで作ったゲームの方がよっぽど凝った出来でしょう。

そんな感じに絵に描いたような虚無っぷりで、これを「レベルを上げて物理で殴るRPGが良作に見えるほど陰鬱な徒歩従軍虚無レーター」と称したフレンドの言い分にもおおむね同意できます。

ですが私自身は嫌いでないというか、割と気に入っているタイトルのひとつでもあります。
まあDLCを購入しない限り団地のエントランスから一歩も足を動かせない虚無が比較対象なせいで「自らの意思で立って歩き回ることができるだなんてすごーい!」と謎の感動に包まれたこともありましたが……それでも笑いや癒しを求めてたまに起動したくなるタイトルのひとつに変わりありません。

ただしSteamレビューのように人におすすめできるかどうかを2択で問われれば、私は迷うことなく「おすすめできない」と答えます。
人を選ぶ虚無だからとか手抜きのステージが半分を占める虚無だからとかそういうことじゃなくて……純粋に動作が不安定なんですよ、この虚無。

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セーブ&ロードは機能せず、押すと100%クラッシュ。またランチャーからステージ選択後、タイトル画面でフリーズすることもあればそもそもソフトが立ち上がらずに起動失敗することも少なくありません。

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滝つぼに落ちて陸に上がれなくなった動物たち
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岩肌に上半身をめり込ませながら崖を登る動物たち

しかし不安定な動作に目をつむれば、良質なBGMを聴きながら現実ではありえない大不自然の中を歩き回ることができますし、マヌケな動物たちの奇怪な挙動をじっくり観察することができます。

この大不自然の中に笑いや癒しを見出せそうであれば、98円(定価)で非日常行きの切符を買って休日を過ごしてみるのも一興でしょう。

まあこれ買ってバーチャルハイキングするぐらいなら、PCの電源を落として実際にハイキングなり登山なり散歩なりとにかく外に出た方がずっといい気分転換になりそうだけどね!

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SeeE
こんな記事に投げ銭なんかするより、いい感じの帽子とか山積みのレンガとか大量のフラフープとか本物のヤギとかを買ったほうがずっと有意義だぞ。