第1回 福祉業界35年のベテランとタッグ。「あい・わーくす」 x SOUP
山梨県の和紙の里で山十製紙を営む笠井さん、相模原の福祉作業所「ビーネックスウィズ」に並び、シードペーパーの国産化にもうひとり欠かせなかった存在が、長野県松本市に福祉事業所「あい・わーくす」を構える武蔵原望(むさしばらのぞむ)さんです。彼はこの企画のアイディア段階から関わってくれました。
きっかけは松本での再会から
武蔵原くんは、私の地元、愛知県の同級生。私は20代に地元を離れ、彼も早くに安曇野へ移住。まさか大人になって一緒に仕事するとは思いもしませんでしたが、趣味の山登りで長野を訪れた時、なんとなく近況が気になって電話をしたのがきっかけでした。4年前のことです。
そもそも彼が福祉関係の仕事をしていることは知っていましたし、いろいろと話し込むうちに、私のアイディアに興味を持ってくれた彼は「うちでやってみたい」、と言ってくれたのです。
独立して「あい・わーくす」を立ち上げたばかりの武蔵原くんも、夢にあふれていました。しかも昔から人を惹きつける魅力を備えていた彼を前に、もしかしたら一緒に取り組めば本当にできるかもしれない、何か生まれるかもしれない、と感じたことを覚えています。
国産化、小ロット生産を協働で叶える
今でもあの時に双方で作り上げた「シードペーパー国産化プロジェクト」の10ページ以上に及ぶ企画書は、悩んだら読み返す教科書のようで、モチベーションのひとつになっています。
その企画書には、国産化だけでなく、今まで企業のノベルティとして使用されていたシードペーパーを、小ロットで身近なユーザーに届けたいという思いも盛り込んでいました。
武蔵原くんは、シードペーパーの国産化と、加えて小ロット生産もよい視点だと共感し「双方の立場において、マッチするところがあるので、手伝えたら嬉しい」、そんなふうに言ってくれました。私も彼がいたから、日本でシードペーパーをつくることができたと思っています。
型抜きや印刷、検品などを福祉作業所で
彼は児童養護施設の職員を経て、長野県内の大手福祉施設の所長などを歴任し、2020年、障がいを持つ人たちの就労支援を行う福祉作業所「あい・わーくす」を自ら立ち上げました。福祉業界に携わって35年という大ベテランです。
あい・わーくすでは、農業を主な事業としながらも、農閑期や屋外作業が苦手な利用者さんたちもいることから、施設内作業の目玉として、快くSOUPの印刷工場としての業務を引き受けてくれました。シードペーパー安曇野工場と名づけたこの場所で、シードペーパーと花咲く和紙にインクジェット印刷し、専用の機械で型抜きし、検品から発送までの役割を担っています。彼らがいなかったら、シードペーパーの仕事は進まないといっても過言ではありません。
武蔵原くんは利用者さんに手順を教えたり、失敗しないように声がけをしたりとジョブコーチができるよう、紙漉きをひとりで体験しに行ったこともあると、あとで聞きました。現在、紙漉き自体は山梨と相模原で行なっていますが、彼の行動は新しい事業を手がけるための責任感とプロ意識の賜物だと思います。
(第二回に続く)