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ネイティブになれるの?【その2】

「Kiyomiのスクールに通えば英語ネイティブになれるの?」
と、最近3児のパパである友人にひょんな瞬間に聞かれました。
思わず同時に4つのことが頭をよぎり、即答できませんでした。

  1. その「英語ネイティブ」ってどういう状態のことを言うの?

  2. 日本に住んで、限られた時間以外は日本語だけで生活しているんだから限界はあるよ

  3. でも保護者様的には「なるよ」って答えた方がうれしいんだろうな。

  4. そもそも「英語ネイティブ」にしたいのはなぜ?

前回は①について考えてみました。今回は②と③についてお話しします。
あくまでも個人の意見です。

EFLとESL

言語習得の全ては環境です。私は自分のスクールに関する限り「それに近くなることはできるけれど、スクールに通うだけでバイリンガルになるのは無理」と答えます。あくまで島国日本を例に、ESL, EFLで考えてみます。

EFL

例え日本にある英語のインターナショナルスクールに通っている子どもでも英語力が「ネイティブ」に近くなるには並々ならぬ努力、周りの環境、学費、教材、などは必要最低限揃っていなくてはなりません。
なぜならば誰でも日本にいる限り"EFL"の環境下にいるからです。
EFLとはEnglish as a Foreign Languageの略で、「外国語としての英語」という意味です。日本に住んでいる限りインターナショナルスクールに通っていようが、英会話スクールに週何回通っていようが、高価な英語教材で小さい頃から家庭学習をしていようが、毎日オンラインで外国の先生とのレッスンを受けていようが、職場の公用語が英語であろうが、その環境の一歩外に出たら全てが日本語(基本的には)です。

一緒に生活するご家族が英語ネイティブ、且つご家庭でも英語で話すことがマストでない限り、環境外では母国語で思考し、母国語で会話をしているのです。言葉と人間はお互いに接触すればするほど親しみがわくものです。

事実、日本在住の私の友人のアメリカ人、奥様は日本人で、お嬢さん(仮にYちゃんとしましょう)が中学生のご家庭があります。友人(パパ)は日本語はある程度理解できるけれど流暢に話すことはできない、そして奥様は英語をある程度理解しますが、流暢には話せない。ではYちゃんは生まれた時から両方の言語を聞いて育ち、両言語ともネイティブになったのかあ、と想像する方が多いでしょう。

答えはNoです。
Yちゃんの母国語は完全に日本語です。
英語はパパの言うことはある程度理解できるけれど、英語で返答はしません。Yちゃんは日本の幼稚園、小学校、中学校に通い、家庭では日本語をメインで話し、唯一の英語インプットは学校の授業とパパからの言葉で、それ以外は全て日本語で育ってきたのです。もちろん聞いて理解する、という能力に関してはアドバンテージがあると思います。このように言語習得は環境に完全に依存しているのです。

ESL

ESLとはEnglish as a Second Languageの略で「第2言語としての英語」という意味です。英語圏の国に住んでいる、または留学している方は基本的にこの環境下です。家の中でも英語、そして一歩家の外へ出ても容赦なく英語のシャワーが降ってくる状況です。

私もアメリカのアラバマ州に住んでいた頃はそうでしたが、英語を理解して返事を返す、ということを瞬時に、半ば強制的にしなければならないのです。最初はぽっかーん、でしたが、しばらくしてくると仕方ないので脳がそのようにセットされていくんですね。環境的に日本人が周りにほとんどいない、ということも手伝って、いつの間にか私の脳内では英語を理解するのに母国語を介することがなくなりました。

「いいじゃない!よし、ではうちの子も留学させよう!」とお思いになる保護者様、そこには思わぬ弊害もあるのです。

私がアラバマに住んだのは、日本語がしっかりと自分の母国語となってからです。なので最初は苦労しつつも英語に慣れてきた頃、思ってもみなかったことを両親が心配していました。当時はようやくemailが普及し始め、回線もダイヤルアップだった頃でした。アメリカでは日本の年賀状のように、毎年クリスマスカードを送り合うのが一大イベントで、私もそれに倣って日本の両親にカードを書き、郵便で送りました。
もちろん国際電話なども非常に高価だったのでその後両親と話したのは夏休みで一時帰国した際です。
「うちの娘は日本語を忘れたのか?」
と、心配していたそうです。なぜかというと送ったクリスマスカードがほぼ全てひらがなだけで書いてあったからでした。

人間の脳とはシンプルなのに緻密にできていますね。特に言語に関しては「必要ない」と脳が判断したものはみるみる衰えていくのです。アメリカでは単純に漢字を書く機会がほぼ無かったので、意識せずにそれを排除していたようです。もともと子どもの頃は漢字ドリルが嫌いでしたので。両親が指摘してくれなかったら帰国して就職する際にもっと困っていたことだろうとゾッとします。

つまり、両方完璧に母国語というのは稀なケースを除いて(ご本人のたゆみない努力ももちろん欠かせません)EFL, ESLどちらの環境に身を置いてもほぼ不可能なのです。必ず日本語か英語、どちらかが「母国語」として確立していないともう一方の言語も中途半端になります。母国語でできないこと、言えないことが第二言語でできるようになることはないのです。

それでもなぜ「うちの子をバイリンガルに」と望む保護者様は多いのでしょうか。次回はそのことについて考えてみたいと思います。