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『魔女り狩(まじょりか)』第一話

中世ヨーロッパの魔女狩りは失敗だった。
密告、拷問、火炙り。
魔女を探し出し処刑するための手段は、民衆によるヒステリックな集団私刑(リンチ)へと堕落し、無実の弱者ばかりが虐殺された。

群衆に紛れた本物の魔女たちは、無実の人間が火に焼かれるのを遠巻きに見つめながら、それぞれの胸の内で思う。
魔女狩りを仕掛けた『奴ら』を滅ぼさねば。
他の誰でもない、自分たちが狩らなければならない、と。

それから数百年後。
日本、東京都■■市にて────

刑事たちが警察署の薄暗い会議室に詰めかけ、プロジェクターによって投影されたスライドを見つめている。
スクリーンには、女子高生の顔写真とプロフィールが表示されていた。
「えー、死亡したのは市内の高校に通う少女、十六歳。死因は心不全。外傷は倒れた際の頭部の軽い打撲のみ。塾帰りに路上で倒れ、通行人が発見した時には既に死亡していたものとみられます」
「事件性を示す手がかりは?」

険しい顔をした警察署長が訊ねる。
資料を手にした担当者は首を横に振る。

「本人の死亡状況からは、特には。我々中年ほどじゃありませんが、十代でも突然死の可能性はゼロではありませんし。ただ……」
「ただ?」
「交友関係のあった同じクラスの少年が二名、それぞれ部活中の校庭と帰宅後の自室で同様の突然死を遂げています。死因は脳卒中と心筋梗塞です」
「突然死が、同時期に三件重なったのか」
「はい。何らかの薬物の影響も考慮しましたが、薬物反応はなし、服用した痕跡は見つかりませんでした」
「それだと、お手上げにならないか」
「ええ、仮にこれらの死に何らかの関連性があるとしても、その特定・立証は困難でしょう」
「うむ……」

会議が停滞しかけた、その時。

「でしたらこの案件、ウチがいただいてもよろしいでしょうか」
「っ!」

会議室にいた刑事たちは背後を振り返り、どよめいた。
捜査会議室の末席に、女刑事『飼原(かいはら )ヒツジ』が立っていた。
むさ苦しい刑事たちの中では異彩を放つ、にこやかで柔和な笑みを浮かべた二十代後半の女性だ。

「奴は確か、公安の……」
「い、いつの間にこの会議室に?」
「おい、本庁からの出しゃばりを誰か摘まみ出せ!」

刑事たちの野次が飛ぶ中、署長だけがヒツジを静かに睨んでいた。

「これは、『君たち』が出てくるような事件なのか」
「ええ、残念ながら」

ヒツジは刑事たちの眼光にも怯まず、笑みを浮かべたまま続ける。

「被害者のクラスでは体調不良で欠席する生徒も増えているそうですね。放っておけば犠牲者は増す一方、警察や司法に止める手立てはありません。我々だけが、事件を解決に導くことができるでしょう」
「ちっ……」

署長、USBを投げ渡す。

「持っていけ。今回の件の捜査資料だ」
「恐れ入ります」

刑事たちは去っていくヒツジの背をにらみつける。

「いいんですか、署長。あんな胡散臭い女に事件を譲ってしまって」
「仕方あるまい。彼女たちの歴史は、我々警察組織のそれよりも長い」
「え、それって……」
「お前たちは知らなくていい」

署長は苦々しげに告げた。

「これは、人の理解を超えた領分。魔女たちの専門分野だ」

署内、人気のない廊下を歩きながらヒツジはつぶやく。

「今の話、頭に入ってるわね。レイ?」
「もちろん聞いてたよ、義姉(ねえ)さん」

いつの間にか、ヒツジの傍らに少女が現れている。
パーカーにショートパンツ姿の少女『赤山羊(あかやぎ)レイ』。
その目つきは刃物のように鋭い。

「死亡した少年たちは、特定の女子へのイジメに加担していたそうよ。恐らくは、その子の周辺に真犯人が潜んでいる。恐らくは『奴ら』よ」

ヒツジ、USBをレイに手渡す。

「犯人を特定したらどうする?」
「いつも通りよ。人を殺した害獣の末路は一つだけ」
「了解」

レイはつぶやくと、パーカーのフードを目深にかぶる。
次の瞬間、彼女は姿を消していた。

「行ってらっしゃい。私たち魔女の中でも『奴ら』を狩ることに特化した、とっておきの狩人」

ヒツジは告げると、何事もなかったかのように再び歩き始めた。

『贄村(にえむら)リカ』は、重々しい教室の雰囲気に委縮していた。
周囲のクラスメイトからチラチラと向けられる視線が、突き刺さる。
朝のホームルーム。
花瓶の置かれた机を見やり、担任の教師が沈痛な面持ちで告げた。

「……既に皆も知っているとは思うが、釘谷が心臓の発作で亡くなった。杉野と大山に続いて三人目だ」

教師は目に涙を浮かべている。

「皆、突然のことでまだ心の整理がつかないとは思う。だが、授業は通常通り行わなければならない。三分間、黙祷を捧げてひとまず心に区切りを付けよう」

教師は、目を閉じた。

「黙祷」

教室の後方、窓側の席に座ったリカもまた目を閉じた。
暗闇に閉ざされた視界に思い浮かぶのは、死んだ釘谷のこれまで自分にしてきた所業だった。

『アンタ見てると無性にイラつくのよね』
『同じ教室にいるだけで吐き気がするんだけど』
『便所メシとか、だっさ。そんな情けないことするぐらいなら学校来ないでよ』

(そう言って私の机に花瓶を置いた釘谷さんの机に、今は花瓶が置かれてる……)

リカの頬を涙がつたう。

(もしかして、私が釘谷さんたちにいなくなって欲しいって思ったから、三人とも死んじゃったの?)

リカは目をつむったまま、小さく首を横に振る。

(私はただ、イジメをやめてほしかっただけなのに)

リカは、嫌な考えを振り切ろうと、薄く目を開いた。
すると、教卓に立っていた担任と目が合う。

「ひっ」

担任の教師はリカと目が合うや、小さく悲鳴を挙げて顔を逸らした。
彼女を恐れているようだった。

(違う、私じゃない……! 私にそんな力、あるはずがない!)

心臓の鼓動が加速していく。
ただの動揺ではきかないほどに心臓が高鳴り、息ができないほどに身体が熱い。

「うっ……!」

リカは、胸の中心を手で押さえ、イスから転げ落ちた。
クラス中の注目が、リカに集まる。

「だ、大丈夫か。贄村……?」

恐る恐るたずねる担任に、リカは息を荒くしながら頷く。

「平気です。ちょっと気が動転しただけで」

その時、リカに手が差し伸べられた。

「すごい汗だよ、贄村さん。保健室で休んだ方がいいよ」

眼鏡を掛けた華奢な男子が、リカを助け起こす。
すると、担任は助け船を得たような顔でうなずいた。

「そ、そうだな。すまないが鬱ノ木、保健委員として贄村を保健室まで連れてってくれ」
「はい、先生」

鬱ノ木はリカをエスコートするかのように手を取った。

「ほら、行こう。贄村さんのペースでいいから」
「う、うん」

トクンと、リカの胸が高鳴った。
廊下まで連れ出されたリカは、手を引くクラスメイト『鬱ノ木』に声をかける。

「あ、あの鬱ノ木くん」
「なに?」
「そ、その、手……! もう、大丈夫だから!」

どもった声で告げると、鬱ノ木は「あっ」と声をあげて、手を離した。

「ああ、ごめんごめん。僕なんかが手を握っちゃ、気味が悪いよね」
「べ、別にそんなことはないけど……」

リカは、赤くなった顔を鬱ノ木から逸らした。

(って、人が死んでるのに何を浮かれてるのよ、私……)

自己嫌悪に苛まれるリカに、鬱ノ木が話しかける。

「気にすることないよ、贄村さん」
「え?」
「釘谷さんとか、大山や杉野のこと。気にすることないよ」

リカを保健室に先導しながら、鬱ノ木は言う。

「贄村さんをイジメて憂さ晴らししてたアイツらが悪いんだ。それにウチの担任だって、今までイジメを見て見ぬフリをしてきたクセに、人死にが出た途端に『黙祷』だってさ。良い教師ぶって、気持ち悪いよね」
「そ、そこまでは思わないけど……」
「優しいんだね。そういう風に言えるの、贄村さんの良いところだと思うよ」
「あ、ありがとう……」

戸惑い交じりに、リカは答える。
しばらく気まずい空気が流れるが、ふと鬱ノ木が振り返る。

「ところで贄村さんはさ、『魔女』の存在って信じてる?」
「魔女? 魔法を使って、ホウキで空を飛ぶ、あの魔女?」
「いいや。本物の魔女は、そんな分かりやすい魔法は使わないらしいよ。社会の至る所に隠れ潜んで、『力』を悪用する人間を秘密裏に狩ってるんだってさ」
「『力』って?」
「力は、力さ。『権力』や『暴力』みたいな皆もよく知っている力もあれば、『魔力』や『超能力』の場合もある」
「……そんな滅茶苦茶な『力』なんて、あるわけが……」
「そうかな? 世の中って不思議なこと結構ある気がするけどね。例えば……」

鬱ノ木は、リカの背後を指さした。

「贄村さん。さっきから君の後ろにいる子とかね」
「え?」

リカは振り返る。
手を伸ばせば届きそうな近さに、パーカーを着た少女『赤山羊レイ』が立っている。
しかし、リカはレイに気付かず、キョトンと辺りを見回した。
そしてもう一度鬱ノ木の方を向いた。

「鬱ノ木くん……もしかして、からかってる?」

鬱ノ木は、やや目を丸く開いた。
そして何かを理解したかのように、ニコリとほほ笑んだ。

「はは、ごめんね。今回のことで、色々と気に病んでるみたいだったからさ。ちょっとした冗談さ」
「もう、やめてよ……」

リカは、頭を押さえて気だるそうに言った。

「う……」
「やっぱり保健室で安静にした方がいいよ。」
「う、うん。ありがとう鬱ノ木くん」

保健室に入っていくリカを、鬱ノ木は見送る。
そして、ゆっくりと背後を振り返った。

「驚いたなぁ。黙祷中に教室に入って来たのに、誰も気づかないんだもの。僕の頭がおかしくなったのかと思ったよ」

その視線の先には、さっきリカに無視されたばかりの赤山羊レイが立っている。
レイは、鬱ノ木をにらみつけた。

「このパーカーには、フードを被っている間だけ『”こちら側”の人間以外私を認識できなくなる』ように魔法が込められている」
「こちら側?」
「とぼけないで。アンタ、『力』を使って三人を殺したでしょ」
「んー、なるほどね……透明人間の姿が見えるかどうか、一種の踏み絵になってるわけだ」

鬱ノ木は特に悪びれる様子もなく、かぶりを振った。

「でも”殺した”なんて心外だな。釘谷さんたちが死んだのは、能力を確かめる過程の副産物さ」
「おい、そこの君」

廊下を通りかかったジャージ姿の体育教師が、鬱ノ木に声を掛けた。

「何を廊下で一人ぶつぶつ喋っているんだ。授業はどうした」
「……」

鬱ノ木は、体育教師に右手を向けた。

「うるさい。話の邪魔をするな」

鬱ノ木が、右手で宙を握りしめた。
まるで、存在しない蛇口をひねって閉めるかのような手つき。
すると、

「ぬ、おぉ……⁉」

体育教師は、頭を押さえてその場にへたり込み、倒れた。
レイは、そんな鬱ノ木をにらみつける。

「殺したのか」
「とんでもない。ちょっと貧血にしてやっただけだよ」

鬱ノ木は、頭上を見上げてつぶやく。

「場所を変えようか」


学校の屋上には誰もいない。
屋上から見下ろす校庭にも誰も出ていない。
ただ、風の音だけがした。

「両親が言うには、僕は小さなころから川やら水路やら、水が流れているのを見るのがとにかく好きだったらしい」

屋上の鉄柵によりかかりながら鬱ノ木は言う。
その姿を、レイはパーカーのポケットに手を突っ込みながらにらんでいる。

「そんな僕に言わせれば、人間は『血』の流れに支配された複雑な水風船にすぎない。遺伝子や家柄って意味の『血』じゃない。もっと単純な、『血流』によって制御されているんだ」

鬱ノ木は、自らの頭をトントンと叩いた。

「身体の中を多く血が巡れば人は興奮するし、少なければ落ち着く。ペースが乱れれば苦しくなるし、一定なら穏やかな気持ちでいられる。人間の核である命や感情、思考も、血の流れに縛られている」
「……お前の能力は、『血流の操作』か」
「そう。微弱だけど精密な念動力だ。上手く使えば、クラス程度のコミュニティなら簡単に操作できるよ。特定の誰かが話している時だけ周囲の血流を悪化させることで悪感情を植え付け、イジメを人為的に発生させることもできた。逆に、僕と話している時だけ血流を少し高めてやることで、好意を抱かせたり、とかね」

「クラスメイトを実験台にしたのか」

「おかげで、さっきみたく殺さずに気絶させるなんて芸当もできるようになったよ。弄りすぎて死んだのも、所詮はストレスに負けてイジメなんかに走る連中だったしね」

「人の命を何だと思って……」
「もちろん、あいつらの死にも感謝しているさ」

鬱ノ木は、ゆっくりとレイの方を振り返った。
その動きに合わせて、レイはパーカーのポケットからナイフを取り出す。
レイと鬱ノ木は向かい合い、同時に動き出した。

「遅いよ」

鬱ノ木が蛇口をひねると、レイは顔色を変えて胸の中心を手で押さえた。

「うっ……!」

膝をついたレイを見下ろしながら、鬱ノ木は蛇口をひねりつづける。

「君さ、その透明化の力で僕を上手く釣りだせたと思ってるだろ? でも、逆なんだ」

鬱ノ木はレイの手首を掴むと、ナイフを取り上げた。

「怪事件を起こせば、魔女たちが解決に乗り出して来る。罠にかかりに来たのは、君たちの方なんだよ」

鬱ノ木は、レイの首根っこを掴んだ。

「全身に力が入らないだろ。頭に血がいかないから物も考えられないし、気だるくてたまらないだろう? でも、まだ殺さないよ」

レイを無理やり引き倒しながら、鬱ノ木はほくそ笑む。

「魔女について教えてよ。どうせ君なんて使いっ走りの下っ端だろうけど、それでも得られる情報は多いと思うんだ」
「教えるわけないでしょ」
「あ、そう。じゃあ死ねば?」

鬱ノ木は、蛇口を三回ひねった。

「うあっ……」

レイは呻くと、その場に倒れた。
鬱ノ木はその様を見下ろした。

「なぁんだ。僕たちを狩る天敵だって聞いてたのに、期待外れだな」

つまらなそうに、鬱ノ木は息を吐く。

「ま、いっか。その透明になれるパーカーだけもらっといてあげるよ。サイズ、合うかな……?」

レイの身体に伸びた鬱ノ木の手が、つかまれる。
動かなくなったはずのレイの手が、鬱ノ木の手をつかんでいた。

どくん、どくん、どくん、どくん。

触れた手から脈動の力強いリズムが伝わってきて、鬱ノ木は顔色を変えた。

「なっ!?」
「アンタ、しゃべりすぎだよ」

ヒュッと音がして、鬱ノ木の両目がレイのナイフに切り裂かれた。

「うわあああああああああああああ! 目が……目が……っ!」

鬱ノ木は目を押さえてその場にうずくまる。

「自分の能力をしゃべる。視覚に頼りすぎ。半端な尋問。能力が強い奴ほど脇が甘い。そういう手合いは狩り慣れてるのよ」
「なぜだ、本気で血流を止めたのに、なぜ生きている……っ?」
「自分の能力を、わざわざ敵に話すと思う?」
「……ッ!」

レイは、鬱ノ木の首根っこを掴んで身体を持ち上げた。

「でも、一つだけ教えてあげる。アンタたちみたいな能力持ちの人殺しを、私たちは『怪人』と呼んでいる。いつだってアンタらは影からコソコソと人を苦しめ続けている……」

ぎりっと、レイはつかむ力を強めた。

「私たちは必ず、お前たちを根絶やしにしてみせる」
「はは、できるかな……?」
「できる、できないじゃない」

鉄柵の外、屋上の縁から鬱ノ木の身体を外に突き出した。

「私は、ただ狩るだけよ」

レイは、鬱ノ木の身体から手を離し、屋上から落とした。

保健室、窓際のベッドに寝かされていた贄村リカは、窓の外を見ていた。

「どう、少しは楽になった? ココア飲む?」
保健医の出したココアを受け取りながら、リカは頷いた。
「はい、ずいぶん楽になりました」

もらったココアに口を付け、リカはホッと息を吐く。
その様子を見守りながら、保健医はやさしく微笑む。

「同級生が亡くなったんだもの、気が動転するのも無理はないわ。元気が出るまで、ゆっくりしていっていいからね。それに……」

保健医は、つけくわえた。

「今日だけじゃない。もし辛いことがあったらいつでもいらっしゃい。先生に言いづらいことでも、私だったら相談に乗れるから」
「……はい」

ジワッと、リカの胸の奥で温かい物が生まれた気がした。

(大丈夫。私にも味方になってくれる人はいる。クラスには鬱ノ木くんもいるし……)

ふと、リカは窓の外を見やる。
窓にはちょうどレイに突き落とされ落下する鬱ノ木の姿。
ドチャッと肉のつぶれる音がした。

「……へ?」

リカと保健医が慌てて窓に駆け寄ると、窓の防護ネットの向こうに鬱ノ木が倒れている。
全身から血が噴き出し、血塗れだったた。

「きゃあああああああああああッ!」

保健室を飛び出し、校庭に落下した鬱ノ木に駆け寄るリカ。
血塗れの彼の身体を、何度も揺さぶった。

「いやだ! 死なないで鬱ノ木くん! 目を開けて、お願い……!」

その時、リカはハッと気づく。
校庭の真ん中に、少女パーカーを着た見慣れない少女が立っている。
手には血塗れのナイフを持ってフードを浅くかぶっている。

「魔女……?」

レイはフードを目深にかぶり直すと、姿を晦ませた。

ト書き
『贄原リカが三人を呪い殺したという噂は、誰の目から見ても明らかな本物の登場によって立ち消えになった。しかし、彼女の受難はこれからだった』

校舎の四階、三年生の教室にて。

「おい、今の見たかよ!? 女の子が消えたぞ!」
「あんな子ウチの学校にいたっけ?」
「おい、そんなことより、誰か死んでるぞ!」

校庭を見るために窓に詰め寄って同級生たちが騒いでいる中、一人の男子が机に突っ伏して眠っている。

気だるげに顔を上げ、片目で窓の方を見やる。
ざわつく教室内で、男子は小さく呟く。

「やるな、魔女。鬱ノ木程度じゃ相手にならないか」

大きくあくびをしながら、のんきに男子は起き上がる。

「ここは一つ、俺が『活』を入れてやるとしよう」

男子のつぶやきに合わせて、死亡したはずの鬱ノ木の血塗れの指が、ぴくりと動いた。

つづく。

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