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ステテコ親父と二人旅 日光街道4

日光街道歩き旅④

 
 幸手宿を過ぎ、国道四号線の下道に入ると、 静かな細い道が四号線と寄り沿うように、まっすぐまっすぐ伸びている。

 そこに、ひょいっと左の道から現れたのは、ステテコ姿の推定65歳の親父だった。

 そして、私の目の前を歩き始めた親父の歩行速度は、ほぼ私と同じだったため、目の前を延々と歩き続かれる事となった。

 そして、私のGoProは、前を歩くステテコ親父を撮影し続けている。

 さすがにこの映像は、あまり喜ばしくないような気がしため、追い越せば良いのではないか?と思いつく。

 ようし、歩行速度1.5倍速だ!

 しかし、なかなか追いついて追い越させていただけない。

 くそう!1.8倍速だ!

 必死にスピードを上げ、はぁはぁ言いながら、ステテコ親父の背中に肉薄する。

 よし、射程圏内に捉えた!抜き去りました!ハアハア、ハアハア。

 しばらく歩くと祠が現れた。ああ、これはお参りしないと、と小銭を取り出し、お辞儀をしたり、由来を確認したりしていると、後ろを通る白い影が。

 しまった!親父に抜き返されてしまった!

 そこで私は作戦変更する事とした。

 再度加速して抜き去るのも結構大変。お参りする度に抜き返されるのも不本意。それならば、ゆっくり出発して距離を取ろう作戦だ。

 私のGoPro画像の左端に小さく、白いステテコ親父が映り込む事くらい許容しよう!という広い心を、宥めすかして発動させる。

 ゆっくり、ゆっくり出発ね。よしよし、少し距離が取れたわ、とほくそ笑むと、同時に親父が止まった。む?

 親父は築地塀を支えに、右手で右足の靴を脱ぎ、ハタハタと上下に動かしている。

 ちっ!小石か!?くっそう、早く靴はいて歩きやがれ!と心の中で毒づくと、親父は、すっとしゃがみこんだ。

 そして、悠然と靴紐をほどき、丁寧に靴を履きなおし始めた。

 距離が、みるみる近づき、再度ステテコ親父との旅が再開される。

 駄目だ、駄目だ!作戦変更だ!もう祈るしかない!

 親父、曲がれ、右に曲がれ、右に曲がれ!右に曲がれっ!頼む、右に曲がってくれえっ!!!

 強く念じていると、何か幼いころにも同じように強く念じた事があったような…。記憶がよみがえってくる。

 そうだ、スプーン曲げだ。

 スプーンの首をそっと摩りながら、“右に曲がれ、右に曲がれ!右に曲がれっ!右に曲がれぇっ!!”と強く強く念じてスプーンを握りしめていたあの頃。とうとう超能力は発揮できず、曲がらなかったスプーン。

 ステテコ親父の腰の左あたりを、そっと摩りつつ(頭の中で)、“親父、曲がれ、右に曲がれ、右に曲がってくれ、さあ、そろそろ右に曲がるでしょう?右に曲がりたくなる、なる、なる、きっとなる!右へ曲がれっ!“

 そして、その時は来た!しゅっと親父が右へ!

 「うおおおおおおー、親父が右に!親父が右にぃ!右に曲がったぁっ!」と雄たけびを上げないように口を塞ぎながら、しみじみと喜びを噛み締めたのであった。

 スプーンを曲げられなかったあの日から、約50年がすぎ、とうとう、ステテコ親父を右に曲げる能力を身に着けることが出来た、日光街道歩き旅。素晴らしきかな日光街道!(日光街道を歩くステテコ親父限定の能力である可能性については否定はしないが)

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