ジョスト・フロントの蠢動
地下階層幽霊都市、通称ジョスト・フロント(GeostFront)。
最低標高マイナス5キロメートル、旧人類文明の夢の跡。
「ツヅリ、今は何階層だ」
「地下5階、ちょうど半分。潮時じゃない?」
「まだだ」
小柄な機械鎧を着た男女が、地下廃墟空間の蒸し暑い闇の中を脚部車輪で駆けていた。前で槍を持つ男がシオヤ、後ろの女がツヅリ。
「無理は禁物。もう一回スキャンして、それで駄目なら帰ろ」
「頼む。冬を越すには、獲物が要る」
ツヅリが停止し、機体背部の音響センサーを展開した。
遺跡狩人の獲物とは、すなわち旧文明の自律機械だ。
半永久的に稼働するリアクターは建物の動力源、装甲やフレームは建材や機械鎧の部品となる。危険な相手だが、見返りは大きい。
「いたよ。そこのビルの陰。向かって右に移動中」
「仕留める」
シオヤが急加速。灰色のビルを迂回し、獲物の背後に回る。
小屋めいた巨体、六脚、背中に荷台。輸送型。
シオヤは跳躍してその背に飛び乗り、手に持った長槍――炸薬式のパイルランスを輸送型の首に突き立てた。
BOM! 炸薬で射出された重金属杭が、頸部フレームごと伝達系を破壊。巨体が崩れ落ち、背に満載していた資材が散らばる。
「大物だ」
シオヤが安堵の息をついた。
リアクターも知能回路も無傷。荷ごと地上に持ち帰って売れば、村が冬を越すのに十分な稼ぎとなろう。
「妙だね。建材ばっか積んでる」
ツヅリが輸送型の残骸を見て言った。
「高く売れる」
「そうだけど。どこかで壁でも崩れたのかな……」
ツヅリが残骸の上に乗り、赤外線スコープで周囲を見回す。
直後、その動きがピタリと止まった。
「ねぇ、あれ」
震える指が示す先、廃都市の中央で煌々と光る輪があった。
正確には輪ではなく、穴だ。
高層ビル並の図体を持つ「何か」が掘った大穴の縁が、赤熱して光を放っていた。まだ掘られて間もないのだ。
「……『地蟲』が出た。村に伝えなきゃ!」
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