Ⅴー4.そのヒアリングは有益?有害?
Ⅳ-5~7とⅤ-2~3の悪夢の出来事では、残念ながら医療者たち(あくまで複数である。一人の医師や看護師だけの話ではなかったからだ。)が、そもそも当事者に質問しなかったり、ミスリードする質問をしたり、重要な情報を引き出せるような質問をしなかったりすることが続いた。
質問した時も、投げかけた質問が有益な情報を引き出すことはなかったし、むしろ有害なときもあった。
それぞれの医療者はまじめに業務に向き合っていたのだと信じている。皆、基本的には良い医療をしたいはずで、誤った情報に基づいて誤った医療を施した結果、非難されたり訴えられたりしたいはずがない。そのためには患者について正しい情報を入手することが不可欠なはずだ。
だとすれば、質問やヒアリングのしかたにもう少し神経を使うとか、工夫をしてみるとかがあったら良かったのにと思う。人間という複雑な心を持った生き物を相手にして、そんな単純な発想や態度で接していては、引き出せる情報も引き出せなくなるのではないかと感じる出来事が、その頃いくつも続いた。悪夢の事件に登場した医療者だけではない。それ以外の複数の医療関係者との会話からも、そう感じてきた。もっとも最近ではそういう経験も減ってきたので、たまたまめぐりあわせが悪かったのかもしれない。
悪夢の事件に関して言えば、病状が急に悪化した理由を一方的に決めつけて、当事者である弟に一度も確認しなかったこと自体が、「弟の意見など聞くに値しない」というメッセージを弟にも家族にも伝える。子供のころから社会的弱者だった弟が、その侮蔑的なニュアンスに気づかないわけがない。むしろ弱者ならではの感性で一瞬のうちに相手を見抜く。
別の出来事としては、病院で弟を待っていた私のところに弟の担当看護師(仮にAさんとしておく)がやってきて、弟は日々の食事をどうしているのかと尋ねたことがある。私は、「Ⅲ.療養食づくり」で書いている通り、私が東京で作って送っていること、それ以外に地元で総菜を買うこともあるし、親族の差し入れもある、と答えた。するとAさんは、「出来合いの総菜は味付けが濃いから健康に良くない」と言う。私が「そのお店はおばあさんの手料理のお店で、そうでもない」と答えると、いきなり「実態がまったくわからない!」と吐き捨てるような調子のせりふを返してきた。そして呆気に取られている私を残して、去って行った。質問に答えた家族に対して、はなはだ暴言である。
Aさんが聞きたかった答えと、私の説明が異なっていたのだろうか。それとも私の説明が想定外だったので理解できなかったのだろうか。実態がわからないなら、どこがどうわからないのか、具体的に確認すればよいのではないか。後で弟に聞くと、弟も説明を額面通りに受け止めてもらえなかったことが何度かあったらしい。だから私たちは、Aさんは永遠にわからないだろうし、今後も話をするだけムダだと結論づけた。重要なことはAさん以外の人に話さないとダメだね…とも。
医療者にとってのマイナス面は、情報が入手しにくくなること以外にもある。上記の会話からしばらく後、その時の主治医が私に「食事はお惣菜を買ってきているそうですが…」と言ったので、私が「いいえ私が作っています」と答えたことから、患者に関する情報の誤りが発覚した。当然、ヒアリングをしたAさんの能力にも少なからず疑いが向けられる。これは企業のビジネスパーソンに限らず、医療者にとってもキャリア上の汚点ではないのだろうか。
医療の従事者と患者である前に人間どうしなので、片方が相手を侮辱すれば、その因果が自分に戻ってくることを念頭において行動するほうが良いのではないだろうか。また、一人の医師の問題とか看護師の問題というふうに問題を片付けるのではなくて、病院というチームが一丸となって良い医療をするためにも、欧米の有名病院に見られるような組織ぐるみの取り組みが、もっと増えたらよいのになと思う。