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景色のグラデーション実況

 電車に乗っているとき、特に新幹線や特急列車に乗っているときは、都会から田舎へ、または田舎から都会への大移動となる。

 車窓から見える景色も、グラデーションのように移り変わっているはず。

 はずというのは、帰省や旅行の際、いつも今日こそはその移り変わりを目で見て確かめようと思うのだけれど、どうも初めの数分数秒で飽きてしまう。

 ついさっきまでビル群が立ち並んでいたのに気づけば田園風景が広がっていたり、その逆も然り。

 これは、集中力の問題だろうか。

 この、変化を見守るというのは、一種観察だとか研究だとか、そういう類のものかもしれない。

 研究者にはなれないな。

 景色のグラデーション観察を阻害してくる要因として、トンネルや柵、塀による視界の遮断、あるいは変化の様子が緩やかであること、はたまただいたい予想がついてしまうことも考えられる。

 今、私は東京から軽井沢に向けての新幹線に乗っている。

 今のところ目撃できた変化としては、ビル群→マンション、住宅街→

 まずい。トンネルだ。トンネルを抜けたら必ずまた窓の外に目を向けよう。

 大丈夫。まだ、マンション、住宅街だ。

 続いて、アパートや学校、テニスコート、商業施設、公園。

 河川敷だ。少し雰囲気が変わった。

 ところどころ高めのマンションがあるものの、比較的視界は開けていて空がよく見える。

 今日はいい天気だ。快晴ではなくて雲が占める面積もなかなか広いけれど、雨が降る雲ではない。

 夏の入道雲でもない。うっすら、こまごま、春や秋らしい雲。

 雲に気を取られていたけれど、今のところ大きな変化はない。

 強いて言うなら、目に入る車の数が増えた。駐車場に停まっている車の台数が増え、駐車場が広くなり、車が停まっている家やアパートも増えた。

 ...と、大真面目に景色の観察をして気づきを書き留めて、いったい私は何をしているんだろう。

 いや、こういうのは、我に返ったら負けだ。我に返ったらといえば、ふと自分を客観視してしまう瞬間ってある。そして、その瞬間があまりに多くなると、何だか息が詰まるような感覚に襲われる。あくまで、自分の目は外側を向いている方が心穏やかにいられる。

 こんな考えごとも、観察を阻害する要因の一つかもしれない。本当に、いつもいつも頭の中、心の中がうるさい。

 そうこうしているうちに、大宮に着いた。大きな駅周辺ということもあってか、また景色はビル群に戻っている。でも、オフィスビルというより商業施設寄りのビル群だ。

 あ。でも、走り出してすぐに視界が開けた。住宅街、マンション、アパート。

 あ!初めて田んぼが。それから、グラウンドでキャッチボールをしている2人の男の子。金曜日なのに、学校は休み?(私は有給)

 小山?草っ原?木々。一軒家。田んぼ。田舎っぽくなってきた。視界は開けていて、電線や電柱が目立つ。

 田んぼに囲まれて育ったので、緑が増えてくると少しホッとする。

 ここはもう完全に車社会だろうな。田んぼの面積がかなり広くなってきた。ビニールハウスも増えてきた。

 飛行機発見。両翼が見えている。少し下に向かっているように見える。着陸体勢?この辺だと、羽田空港だろうか。

 飛行機に気を取られていたら、次の駅に着いた。熊谷だ。

 熊谷は大宮より落ち着いている。熊谷ってたしか、暑い街で有名だったよな。景色は大きくは変わらず。遠くにうっすらと山が見え始めた。

 田んぼが減った。家が密集している。ベッドタウンという感じだ。

 駅を出てから半透明の柵で外がよく見えない時間が少しストレスだったけれど、柵がなくなると田んぼが復活していた。

 駅から少し離れたところに建っている家は瓦屋根が多いな。

 工場や畑、濃い緑の低くて丸っこい木々が目に留まる。

 うーん。やっぱり、熊谷を出てしばらくは柵やら塀やらで視界が悪い。

 遠くにうっすら見えていた山々が、少し濃く、近くなった。本庄早稲田に着いた。

 ここにビルが建っていたらかなり浮くだろうな、というくらいには田舎らしい景色になっている。

 軽井沢まで残り30分弱。少し集中力が切れてきた。でもここまできたらコンプリート欲も出てくる。最後まで根気よく観察を続けたら、何かあるかもしれない。

 出発後、本庄市マスコット"はにぽん"が大きくプリントされた丸いタンク(ガスホルダー?)に迎えられるが、景色に大きな変化はなし。

 田んぼの中にサッカーコートがあり、10人くらいの男の子たちがサッカーをしていた。たぶん中学生くらい。水分補給を忘れずに。

 高崎だ。本庄早稲田ー高崎間はそんなに離れていないんだな。

 お。景色に変化が。マンションやビル、立体駐車場、商業施設など、高さのある建物が久しぶりに登場。古そうな建物と新しい建物が混在している。

 高崎アリーナを初めて見た。初めて聞いた。綺麗だったので最近できたのかと思ったけど、調べてみると2016年12月開業とのこと。8年前。比較的新しい、かな。

 私が大学に入学したのが2018年。何となく、2018年までは最近、それ以前はちょっと昔という感覚がある。

 駅から少し離れた。窓の外に目を向ける。車社会の、ちらほらお店もある住宅街。田んぼも復活。駅周辺というのは、雰囲気は違えど開発されているものなのだな、と思った。

 両脇が山で、田舎の高速道路を走っているような感覚になる。

 軽井沢まであと10分。もう少しだ。

 遠くに見えていた山々にもかなり近づいた。もううっすらではなく、木々の、葉の輪郭がしっかり見える。

 ここへ来て、トンネルが次々に出現。トンネルを一本抜けるたびに、山との距離が近くなる。

 最後の最後に、長めのトンネルだ。今、大きめの山の中にいることになる。

 トンネルを抜けると、、、?

 冬だったら雪景色かもしれない。

 今は7月。

 あ。トンネルを抜けたと思ったら一瞬外に出ただけだった。

 このまま駅に着いてしまう?

 観察も終盤。東京ー軽井沢間の移動は初めてではないけれど、こんなにしっかり観察し続けたのは初めてだ。

 トンネルを抜けると、、、?

 あ。またフェイントだ。

 あと4分で到着。きっと今度こそ本当に抜ける。

 この実況の"オチ"やいかに。

 到着前の音楽が鳴ってしまった。

 まさか、このまま駅直結だったか。とりあえず降りる準備をしよう。

 そういえば、長野まで向かう途中で軽井沢を通過したことは何度もあるが、軽井沢で降りるのは初めてだった。

 アウトレットの目の前に着いた。

 そういえば、そうだった。

 完遂したけど、何やってんだろ??


p.s. やっぱり視界はグレーより緑がいいなぁ。それか青。夏色。

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