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第6回 教育委員会の職務権限(2)

第6回です。
教育委員会の職務権限の続きです。
前回の記事投稿後にご質問をいただきました。
『この「文化財の保護」が別号に建てられているのって、何か理由があるのでしょうか。』というご質問に、ざっくりと「あとから追加されたから」とお答えしましたが、ちょっと調べた結果を書きます。

まず、平成19年6月27日に公布された「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」(平成19年法律第97号)の前に、教育委員会制度についての審議が行われました。
平成17年1月13日に開催された、中央教育審議会教育制度分科会地方教育行政部会において、「地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)」がされ、その中の「2.教育委員会の在り方 4 首長,議会と教育委員会との関係の改善」という項目に、

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1382471.htm

(2)首長と教育委員会の権限分担の弾力化
という項目があり、教育委員会の権限と首長との関係について記載されています。
現在の状況とは多少異なりますので、一つずつ言及していきます。

1.学校教育,社会教育
 上記の視点に立った場合,教育に関する事務の中で首長から独立して執行する必要があるものとしては,教育の政治的中立性の確保及び教育の自主性の尊重のために当然に必要であると考えられる1学校や社会教育機関における教育内容に関すること,2教科書その他教材の選択に関すること,3教職員の採用その他人事に関すること,4教員免許状の授与に関すること,5学校や教員に対する評価に関すること,などがある。このため,学校教育及び社会教育に関する事務は,引き続き教育委員会が担当するものとして存置すべきである。
 このうち社会教育は,主として公民館,図書館,博物館において行われているが,公民館が自主事業として実施する各種の講座は,学校における教育活動と同様に人格形成に直接影響を与えるものであり,対象が成人であったとしてもその内容については政治的中立性の確保が必要となる。また,図書館,博物館についても,図書や展示資料の選択について政治的中立性が要請されるものである。

社会教育については、令和元年6月7日施行の「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和元年法律第26号)(第9次地方分権一括法)において、特定社会教育機関の権限を首長部局に移すことができることとされましたが、この時点においては、政治的中立性という観点から、施設の管理を含めて首長から独立して執行する必要があると解されていたところです。

2.文化財保護
 文化財保護に関する事務については,文化財は国民共通の貴重な財産であり,一旦滅失・毀損すれば現状回復が不可能であるといった特性を踏まえて,開発行為との均衡を図る必要があることから,行政の中立性が強く要請されるものである。
 このような状況を踏まえ,文化財保護に関する事務は,引き続き教育委員会の担当とすることを基本としつつ,文化財を積極的に活用した地域づくりを進めるなど一定の必要性がある場合には,文化財保護と開発行為との調整の仕組みを整えた上で,自治体の判断により,首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべきである。

文化財保護についても、まだこの段階では引き続き教育委員会の担当としていたところですが、記載のとおり「文化財保護と開発行為との調整の仕組みを整えた上で,自治体の判断により,首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべき」ということで、「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」(平成30年法律第42号)において改正されました。

3.文化,スポーツ等
 文化財保護以外の文化,スポーツ,学校教育・社会教育に関するもの以外の生涯学習支援に関する事務は,学校教育や社会教育との連携や事業の安定・継続の点での利点が重視され,これまで主として教育委員会が担当してきた。完全学校週五日制の下,学校,家庭,地域社会が連携して子どもを育成していくことがますます重要となることや,学校教育が生涯学習の基礎を培うものとして位置付けられていることからも,文化,スポーツ,学校教育・社会教育に関するもの以外の生涯学習支援に関する事務は,基本的に今後も学校教育・社会教育と一体的に教育委員会において執行されることが望ましいと考えられる。
 一方,文化,スポーツ,学校教育・社会教育に関するもの以外の生涯学習支援にかかわる行政分野は,地域づくりの観点から首長部局との関係も深く,首長部局で担当する場合は,新規事業の企画や予算確保,他の行政分野における諸施策との連携協力,公立大学や私立学校との連携といった点で利点があるところである。現在でも,文化,スポーツ等に関する事務については,一部の自治体では,教育委員会の事務を首長に委任したり,首長部局の職員に補助的に行わせる方法により,首長部局がこれらの事務を執行している事例も見られる。
 このような状況を踏まえ,文化,スポーツ等に関する事務については,基本的には教育委員会の担当とすることの利点が大きいものと考えられるが,地方自治体の実情や行政分野の性格に応じ,自治体の判断により,首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべきである。
 なお,本来,生涯学習とは,学校教育や社会教育以外にも,職業能力開発等,人の生涯を通じた幅広い学習機会の場で行われる学習活動等を包摂する概念であるが,本部会で首長部局と教育委員会との権限分担について整理するに当たり,学校教育・社会教育に関する事務と学校教育・社会教育以外の生涯学習支援に関する事務とを切り分けることとした。

この部会まとめを受け、中央教育審議会(中教審)で答申が出されました。

教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について(答申)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/07031215.htm

第2部 各論
3.責任ある教育行政の実現のための教育委員会等の改革(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正)
(2)概要
  3.教育における地方分権の推進
  教育委員会の所掌事務のうち、文化(文化財保護を除く。)、スポーツ(学校における体育を除く。)に関する事務は、地方公共団体の判断により、首長が担当できるものとすること。

当初の改正は、これを受けて行われたものです。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律について(平成19年7月31日 19文科初第535号 文部科学事務次官通知)
http://kohoken.chobi.net/cgi-bin/folio.cgi?index=sch&query=/notice/20070731a.txt

文部科学省のサイトでは、この通知が見当たらなく、基本行政通知サービスで探したのですが…

第一  改正法の概要 
3 教育における地方分権の推進 
(3) スポーツ及び文化に関する事務の所掌の弾力化 
① 地方公共団体は、条例の定めるところにより、地方公共団体の長が、スポーツに関すること(学校における体育に関することを除く。第2の3(3)において同じ。)又は文化に関すること(文化財の保護に関することを除く。第2の3(3)において同じ。)のいずれか又はすべてを管理し、及び執行することとすることができることとしたこと。(法第23条(旧法第24条の2)第1項) 
② 地方公共団体の議会は、①の条例の制定又は改廃の議決をする前に、当該地方公共団体の教育委員会の意見を聴かなければならないこととしたこと。(法第23条(旧法第24条の2)第2項) 
③ ①に伴い、教育機関の所管について、法第23条(旧法第24条の2)第1項の条例の定めるところにより地方公共団体の長が管理し、及び執行することとされた事務のみに係る教育機関は、地方公共団体の長が所管することとしたこと。(法第32条) 
⑦ (旧:①に伴い、スポーツ振興法を改正し)【注:スポーツ振興法をスポーツ基本法(平成23年法律第78号)により全部改正し、旧スポーツ振興法の内容についてはスポーツ基本法に継承】、法第23条(旧法第24条の2)第1項の条例の定めるところにより地方公共団体の長がスポーツに関する事務を管理し、及び執行する場合は、スポーツの推進(旧:振興)に関する計画の策定、スポーツ推進審議会(旧:スポーツ振興審議会)等の委員の任命、スポーツ推進委員(旧体育指導委員)の委嘱、スポーツ推進審議会(旧:スポーツ振興審議会)等への意見聴取等は、当該地方公共団体の長が行うこととしたこと。(改正法附則第4条) 
第二 留意事項 
3 教育における地方分権の推進 
(3) スポーツ及び文化に関する事務の所掌の弾力化 
① 今回の改正は、スポーツ及び文化行政について、地域の実情や住民のニーズに応じて、「地域づくり」という観点から他の地域振興等の関連行政とあわせて地方公共団体の長において一元的に所掌することができることとする趣旨から行うものであること。 
② 法第23条(旧法第24条の2)第1項の条例で定めるところにより、地方公共団体の長が管理し、及び執行することとすることができるのは、スポーツに関する事務のすべて又は文化に関する事務のすべてのいずれか又は両方とすること。なお、従前のとおり、スポーツ又は文化に関する事務の一部については、地方自治法第180条の7の規定により、教育委員会は、当該地方公共団体の長の補助機関である職員等に委任し、あるいは長の補助機関である職員等をして補助執行させることができること。

括弧書きの部分が元々の通知ですが、その後の改正に合わせて修正しています。


回答の半分までしか書いていないうちにかなりの文字数になったので、残りは次回に。

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