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【剣】第19~20話

第19話

レンゲルへと変身を遂げた桐生。アンデッドを操り、酔いしれたかのように攻撃を続ける。だが、既に戦いを放棄した橘は……。行き場のない「正義」への憧れ。ようやく今、「力」を手に入れた桐生。暗闇から抜け出すため、「力」に執着する睦月。レンゲルのベルトが男たちの運命を狂わせていく……。

仮面ライダー剣(ブレイド)  第19話[公式]  東映特撮YouTube Official

世界、橘さんに対して厳しすぎでは?

 自らの恐怖心から来る力への執着で結果的に恋人を喪うこととなり、変身して戦う気力は失くしつつも、捨てきれない正義感や責任感と拭えない人恋しさによって剣崎達の傍を付かず離れず漂っている橘さん。暴走したことへの報いは伊坂を討ち取ったことで十分に果たされたはずだ。思い出のカフェで一人小夜子に思いを馳せていた彼の姿は、停滞こそしていたものの穏やかであった。
 しかし、世界は橘さんにそれ以上の休息を許さない。彼に再びギャレンのバックルを取らせたのは、レンゲルの姿に変身したかつての先輩・桐生である。ギャレンへの変身テストで負傷し、仮面ライダーになれなかった男・桐生は、解き放ったアンデッドに民間人を襲わせてまで橘さんとの決着を望んでいる。

 レンゲルという「最高の力」を手にいれ、「最強の仮面ライダー」になった桐生。以前睦月がレンゲルに変身したときには、睦月は変身中のことをほとんど覚えていないようだった。対して、意志の強いことで知られているらしい桐生は、一見レンゲルと共生し、支配されることなくライダーの力を操っているように見える。彼は橘さんに対し、「俺の意思とベルトの意思は完全にひとつ」「俺はすべてのものを倒す。俺以外のライダーもな」と豪語する。
「貴方の、貴方の正義はどうなったんです」
「そんなものどうでもよかったのさ」語気を強める橘さんに、桐生は言う。「正義なんてな、ただの言い訳に過ぎない。俺はただ、力がふるいたかっただけなんだ」
 目を伏せ、険しい表情で語気を強める桐生。「やめてください」と繰り返す橘さんの胸倉をつかみ、彼は叩きつけるように言う。
「なら戦え!」
 尻餅をついた橘さんを見下ろして、桐生は諭すように続ける。
「ギャレンとして、戦え、橘」
 その目線と口調はあまりにも真摯で、橘さんも思わず口をつぐんでしまう。

 後半、ブレイドと交戦するレンゲルを見下ろし、橘さんはまだ変身することを逡巡している。彼の脳裏によみがえるのは、桐生が片腕を失ったあのテストの日のこと。包帯を巻かれ、ベッドに寝かされた桐生は、橘さんに「頼む」と言葉を掛けた。
「俺の代わりに戦ってくれ、ギャレンとして」
 ライダーシステムによるアンデッドの再封印は急務である。負傷した先輩が後輩に仕事を託すのは、組織としては当然の引継ぎだ。だが、「……お前ならできる」と太鼓判を押す桐生の表情は、その励ますような台詞とは裏腹に、両眼を閉じ、何かを諦めざるを得ない悔しさを滲ませている。
 その表情を見ていたからこそ、橘さんは桐生からギャレンを奪ったという負い目をずっと持ち続けてきた。合法・違法で言えば完全に犯罪である桐生の「仕事」を見ても、力づくで辞めさせることはできなかった。子どもを人質にした逃走犯を襲撃した時、桐生は確かに己の中の「正義」に基づいて行動していた。やり方こそ合法的ではなかったが、弱きを助け悪を挫くという理念は「仮面ライダー」そのものだ。異国へ旅立った烏丸所長も、桐生の現況こそどこまでご存じだったかは定かでないが、桐生が善性を持つ良き先輩であると判断したからこそ橘さんのアフターフォローを託したのだろうし……。
 記憶の中の桐生になおも「お前ならできる」と背中を押され、橘さんはとうとう意を決して変身する。襲い来る3体のアンデッドを巧みな身のこなしで避けながらベルトとカードを拾い、座り込む睦月を一足で飛び越えてバックルのレバーを引く。空中に身を躍らせながら投影を潜り抜け、片膝をついて柔らかく着地したときにはもうワインレッドのスーツに身を包んだギャレンの姿になっている。
「待っていたぞ、ギャレン……!」
 レンゲルのスーツからは桐生の声がする。長物の武器を相手に近接戦は不利だと、ギャレンは銃を放ちながら距離を取っていく。一発一発が身を削るような、重たい射撃だ。
 展開したカードデッキから鉄板の3枚を抜き取り、更にギャレンは連射を続ける。レンゲルの恐ろしい能力である「リモート」を使わせないためには、使う暇を与えなければいいのだ。ガードも出来ず、仰向けに倒れ込むレンゲル。そこに必殺のキックが叩き込まれ、吹き飛ばされたレンゲルは薄暗い車庫へと転がっていく。
 ギャレンとブレイドが駆け付けた時、変身の解除された桐生はアンデッドの群れに食いちぎられようとしているところであった。流れるような連係プレイで次々と封印のカードを投げるブレイド。ギャレンが羽交い絞めにした最後の一匹がブレイドの手で封印されると、変身を解いた橘さんたちはすぐに桐生のもとへ駆けつける。倒れた桐生の顔と、力なく投げ出された彼の右手。皮手袋に包まれたその手は、桐生が仮面ライダーになれなかったという事実の消せない刻印であり、また彼の「正義」の証でもある。
「これでよかったんだ」
 呟いて、桐生はその手を今にも泣きだしそうな橘さんの手に重ねる。
「なりたかったよ、俺も。仮面ライダーに……ライダーに……」
 結局、彼は最期まで「仮面ライダー」になることはできなかったのだ。邪悪な意思の宿るベルトの力を少し借りて変身してみたところで、彼の望む「正義」は果たされなかった。だがその遺志は重ねられた手を通じて、橘さんへ引き継がれる。小夜子の時と同様、親しい相手を喪うことで再び「仮面ライダー」となった橘さんは、否応なしに彼らの思い出を背負って戦い続けることになる。
 埠頭での、あの力強い桐生の言葉。「ギャレンとして、戦え、橘」――力に溺れたが故の果たし状と言うにはあまりにも真剣で、まっすぐな桐生の声。それはきっと、病室での「お前ならできる」と同じ意味を持つ台詞だろう。


今回の睦月くん

 レンゲルのベルトを桐生に奪われ、剣崎達には懇々とお説教され、どうすることも出来ずに日常生活に戻っていく睦月。望美からの着信に応えることが出来ず、思わず涙をこぼしてしまったのは、少なからず安堵の気持ちもあったのではなかろうか。高く晴れ渡った青空の下、探しに来てくれた望美が「行こう」と彼に声をかける。蹲っていた睦月も顔を上げる。穏やかで平和な、明るい景色。
 だが、一度強い光を見てしまった者は、その誘惑から逃れることはできない。自らを暗闇に捕らえられていると感じている人間は、特に。
 ベルトを手放した睦月は元の冴えない少年に戻る。バスケの試合も散々な成績だ。だが、観戦する望美は嬉しそうだ。
「よし、かわいいぞ。やっぱり睦月はああでなくっちゃ」
「でもよかった、睦月がすっかり元に戻って」
 あそこまで追い詰められたように「変わりたい」と願っていた睦月に対して、その台詞は地雷ではなかろうか。が、幸か不幸か、睦月はそんな望美の言葉など耳に入っていない。取りつかれたようにレンゲルのベルトを求める睦月は、自室を荒らしまわり、両親を怒鳴りつけ、ついにはギャレンのベルトを盗んで桐生に取り換えっこしてもらおうとすらする。
「お願いだ、レンゲルのベルト返してくれよ。頼む、頼むから」
 みっともないほどの懇願をぴしゃりとはねのけられ、悲し気に眉尻を下げながらも諦めきれない表情の睦月。しかし、運命、いやレンゲルの意思は、最終的に彼に味方する。
 ギャレンに吹き飛ばされ、変身が解けた桐生。薄暗い車庫の中で荒い呼吸をしている桐生の背後、白く眩い光の中から、こちらへ歩いてくる人の姿がある。落ちているレンゲルのベルトを拾い上げたその姿は、他でもない、睦月その人だ。
 桐生の足元から逃げ出した子蜘蛛の群れが、再び睦月の身体を這いあがっていく。先ほどまでの途方に暮れたような表情はどこへやら、睦月の目はただ強く桐生の姿を見つめている。鋭い「変身!」の声でレンゲルの姿が現れ、額の赤い模様が不気味に輝く。支配下のアンデッドたちは、レンゲルの無言の指示に従い、哀れな盗人に襲い掛かっていく。
 レンゲルのベルトは、確かに危険な代物だ。睦月も桐生も、それを完全に使いこなせていたわけではない。だがこのベルトは、力を求める者にとってはまさに希望の光である。再びベルトを取り戻した睦月=レンゲルは明るすぎるほどの光の中にいる。まるで彼を祝福するようでもあり、その目を灼いて眩ませようとするかのようでもある。


第20話

レンゲルのベルトを求めて、剣崎が睦月の前に現れた。だが、睦月はとぼけて逃げ出してしまう。そして橘も睦月に、レンゲルのベルトを返すように迫るが、睦月はレンゲルに変身する。一方、謎の美しい女性・みゆきと出会った虎太郎に、アンデッドの気配が近づいていた。それを感知した始は……。

仮面ライダー剣(ブレイド)  第20話[公式]  東映特撮YouTube Official

今回の始さん

 先日レンゲルに頭を滅多打ちにされながら「アンデッドでありながら人間に魂を売り腑抜けになった」などと侮辱されたことを、始はたいそう根に持っているようだ。栗原家と親しく生活しながらも、別に始は人間になりたいわけではない。彼にはアンデッドとして生きてきた誇りがあるし、自らや栗原家に降りかかる脅威をアンデッドの力で払うことに対して全く躊躇しない。
 というわけで、今回も新たな敵の殺気を感じ、始はいつものように飛び出していく。……ただし、彼の敵はあくまでも彼の脅威のみである。アンデッドとしての優劣は、彼の戦闘優先順位には関与しないようだ。実際、虎太郎を狙う上級アンデッドについて、始は偶然出くわした剣崎に丸投げしてしまっている。一応虎太郎も天音の叔父ではあるが、始の守護範囲には入っていない様子。
 始の情報を素直に信じつつも、なぜそれを自分に教えるのかと訝しむ剣崎。「お前に俺の戦いの邪魔をされたくないだけだ」と告げて、始は小さく笑みを見せる。剣崎はなんのリアクションもせず、さっとヘルメットのシールドを降ろして走り去る。以前、始の戦い方を獣のようだと感じていた剣崎である。今回も始の台詞に好戦的なにおいを感じ、それみたことかとでも思っていたのかもしれない。
 園バスを襲っていたアンデッドをスピニングダンス(技名がとてもよいなしかし)で鮮やかに倒し、封印したカリス。振り返った彼の背後には、険しい表情で立ち尽くす橘さんと睦月がいる。そういえば、伊坂の口車に乗っていたとはいえ、かつてギャレンはカリスに一勝を挙げていたのであったか……。

 余談。天音が描いてくれた自分と天音の絵を、わざわざ額装して壁にかけ、大変満足そうな笑みを浮かべている始。ベッドの横の壁にかけているところがまたよい。ハカランダの中の、自室の中の、その中でもさらにパーソナルなスペースである寝台の奥。眠りにつく時にも目を覚ます時にも、戦いに傷ついてベッドに倒れ込んだ時にも視界に映る位置だ。
 虎太郎にも問い詰められていたが、そもそもは雪山で手に入れた家族写真から「家族」を知り、栗原家にたどり着いた始であった。異物のように偶然「家族」に入り込んだ始が、画用紙の中ではまるで定位置であるかのように天音の隣に収まり、微笑んでいる。天音にとって始が本当に家族の一員であるのが伝わってくる。そして、そのことが始を喜ばせているという事実がまた嬉しい。


今回の橘さんと睦月くん

 睦月からベルトを取り上げたい剣崎達と、絶対に返したくない睦月。行く先々に現れるおせっかいな先輩たちに業を煮やし、とうとう睦月は実力行使に打って出る。剣崎には封印を解いたアンデッドをぶつけ、橘さんには自らレンゲルに変身して立ち向かい……が、その変身は数合もたたぬうちに解けてしまう。
 変身の解けた理由を、睦月はカテゴリーエースの気まぐれであると楽観視している。だが、橘さんの考えは違う。蜘蛛アンデッドを追いかけ、封印した経験から、睦月はカテゴリーエースに弄ばれている、カテゴリーエースは楽しんでいるのだ、と橘さんは断言する。
「彼の抱えている心の闇に、奴は目をつけているからな」
 睦月の部屋を見上げながら、「彼の閉ざした心の窓、何とか開いてやれないかな……」と呟く橘さん。いやはや、すっかり丸くなられて……と感嘆しかけたが、BOARD往時は剣崎にとっても面倒見の良い先輩だった橘さんであるし、こっちがもともとの性格なのか。恐怖心を小夜子が取り払い、自信のなさを桐生に奮い立たせられて、物語の始まる以前の橘さんへ回帰したのかも。
 続くシーンでも面倒見の良さは発揮される。自分のアンデッドサーチャーが反応し、橘さんは栞に連絡を取る。サーチャーはガラケーにも搭載されているらしいが、どうやら正確な位置がつかめていないようだ。栞のサーチャーも、なぜかエラーが出て使い物にならない。
 戸惑っているうちにガラケー側の検索が終わり、ようやく位置を特定した橘さんはバイクにまたがる。そこへ飛び出してくる睦月。睦月は自分も現場に連れて行ってほしいと言う。

 レンゲルにうまく変身できなかったことで落ち込み、カーテンを閉め切った部屋の中で落ち込んでいた睦月だが、そこに望美からの着信が入る。事情は聞かずに、彼女は睦月を信じるという。
「友達だよね、私たち。友達だよね?」
 念を押すような望美の言葉。電話を切ろうとする望美を呼び止め、睦月も優しい声で言う。
「友達だよ。俺、望美のこと、大切に思ってるから」
 電話を切った睦月は、晴れやかな表情でカーテンを開け放つ。薄暗かった室内に、さっと清浄な明るい光が射しこんでくる。レンゲルの放つ強烈な眩しさとは異なる、浴びたものをポジティブにするような陽光だ。

 睦月が現場に行きたいと言い出したのも、きっとその影響だろう。
「俺が解放したアンデッドが、人を襲ってる。俺の責任だ。俺が行く!」
 自分が変わるためだけではなく、アンデッドを倒して落とし前をつけ、襲われている人たちを守るために力を使いたいと願う睦月。思い出せば、彼が一番最初に仮面ライダーに憧れたのは、ブレイドに命を救われたからであった。
 来るなと言ってもついてくる睦月に、橘さんは諦めたように声を出す。
「いいか、君は決して手を出すな。俺の戦い方を見ているだけだ!」
 ベルトを返せと言えば返さないし、ついてくるなと言えばついてくる。戦うなと言ったところで勝手に飛び出してくるのがオチだ。ならばせめて自分の戦い方を見学させようと考えたのは、橘さんが自分自身もカテゴリーエースを封印した「責任」を感じているからかもしれない――ベルトに弄ばれないためには方法が二通りある。ベルトを使うのをやめるか、あるいはベルトより強い意思を持つかだ。

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