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【剣】第41話~第42話


第41話

 城光=タイガーアンデッドの瞼の裏に浮かぶのは、かつてのバトルファイトの光景だ。海沿いの岩場でそれぞれの戦いを繰り広げる大勢のアンデッドたち。中でも勇ましく戦う彼女はまた一体の敵を屠り、空に浮かぶ奇妙なオブジェへ呼びかける。
 巨大なオブジェは、黒い大きな長方形の板を真ん中で一度捻ったような形をしている。地面と平行に浮かんでいるそれは、タイガーアンデッドの呼びかけに答えてねじれをほどき、平らな板状になる。板の表面にカードの模様が浮かび上がると、敗北したアンデッドは封印される。そして、残された小さなカードがタイガーの勝利の証となる。
 タイガーアンデッドはそのオブジェをバトルファイトのマスターと呼んだ。敗者が封印されるというルールを運用し、実際にカードに閉じ込める力を持っているオブジェ。それがどこまでの意思を持って監督行為を行っているのかはわからないものの、確かにアンデッドたちからすればオブジェこそが戦いの管理者、マスターである。

 カテゴリーキング・金居が指摘するように、現代のバトルファイトでアンデッドがアンデッドを倒しても、封印の石は姿を現さない。天王路の前に佇むオブジェは垂直に固定され、もはや自由に空を飛ぶことなど叶うべくもないからだ。表面にいくつも電極を取り付けられ、防護服姿の研究員にデータを取られている姿は、まるで命のない抜け殻のようですらある。
 アンデッドを封印する力を持つ者がファイトの統括者となるのであれば、現代のバトルファイトにおいてそれはほかならぬ仮面ライダーたちである。そして彼らの使うライダーシステムは、恐らく「封印の石」を研究することによって作り出されたものであろうと想像される。カードの封印を解いてしまったBOARDの人間がバトルファイトの責任を取り、マスターとなってアンデッドたちを再封印していくのは一見理にかなっている。が、久しぶりのシャバにハシャいでいるアンデッドたちからしてみれば、人間は「封印の石」の役割を横取りした犯人に見えても仕方がないのかも。そして実際、天王路は偶発的に起きてしまった悲しい事故を利用しようともくろんでいる。マスコミやメディアに圧力をかけることができ、いざとなれば実力行使も厭わない大金持ち、天王路博史。こいつはなかなか厄介だぞ……。

 天音から睦月のことを聞き、急いで現場に向かう望美。今まで誰にも黙っていたのは、始から口止めされていたかららしい。心配大的中である。睦月のことになれば、望美は自分の安全も顧みず、いつでも一生懸命になってしまうのだ。
 隠れ家には相変わらずうっそりとした顔の睦月。左耳に揺れるイヤリングにライトが当たり、彼の頬にまるで蜘蛛が巣を張ったような影を映し出す。強い光によって露わになる呪いの姿は、まるで今の睦月の状況を端的に示しているかのようだ。
 望美は思い出の手作り弁当を持参し、睦月の隠れ家に乗り込んでくる。食べてもらえるかもわからない弁当を作るという行為は、どこか祈りや願掛けのような雰囲気を持っているように思う。相手の健康や嗜好を気遣いながら詰める弁当は、いわばオーダーメイドの贈り物だ。作り手は当然、食べ手が喜んでくれることを期待する。食べてもらえる確約があるのなら(つまり、以前部活帰りに食べさせていた時には)、睦月のために弁当を作るのは望美にとっても楽しい時間であっただろう。だが今、睦月がすんなり彼女の弁当を受け取ってくれるかはわからない。そもそも睦月に合えるかどうかすら定かではないのだ。そんな相手のために、望美は丁寧におにぎりをこしらえ、海苔を巻き、ラップで一つ一つ包む。睦月との絆を強く信じ、それによって自分を励ましながらでないと、とうていそんな仕事はできないだろう。
 だが、自分を心配する望美を遠ざけるように閉じ込め、睦月は外へと逃げだしてしまう。なんとかつっかえ棒をこじ開けて彼を追った望美だが、そこで見たのは異形の存在に変身する睦月の姿だ。まるで化け物を見たかのような悲鳴を上げて、望美は走り去っていく。取り落としたおにぎりがレンゲルの足元に転がっているのがなんとも物悲しい。
 そのままレンゲルはギャレンたちともみあいになるが、幸いおにぎりは踏み荒らされずに済んだようだ。城光を追ってやってきた睦月の手には、しっかりランチトートが握られている。落ちたものを全部拾って、慌ててその場から抜け出したのだろう。カテゴリーキングに手ひどくやられたタイガーアンデッドを見て、睦月を追ってきた剣崎は封印せんと息巻く。が、睦月は「自分が封印するから」とそれを庇う。先日手当を施したときと同様、傷ついた者を放ってはおけない睦月のひとの良さ(もっとも、包帯はおそらく城光本人の手で綺麗に巻き直されていたが……)。
 手に持ったままだったおにぎりを成り行きで城光に勧め、自分もかぶりつく睦月。睦月のために作った弁当を睦月以外の人間(しかも睦月と一緒に時間を過ごしていそうな年上の女性!)が口にするなんて、望美にとってはちょっと面白くない展開かもしれないな……。だが、手作りおにぎりの効果は絶大である。自分=レンゲルが強くなることだけを考えていた睦月は、やっと自分=上城睦月の心配をしてくれる望美の存在に気が付く。そして城光も、睦月の心を照らす光の正体を確信する。

 前回は通風孔を這いまわって情報収集していた城光だが、今回は研究員をふっとばして正面突破である。金居とのやり取りも踏まえて、もう姿を隠す必要もないと考えたのだろう。だがやはり天王路は一枚上手で、驚くこともなく彼女を出迎える。ティターンに迎撃させたのはほんの余興のつもりだろうか。どこまでも余裕の態度を崩さないのは、彼がどちらかと言えばライダー=バトルファイトの管理者側の存在であるからだろう。いかなカテゴリークイーンであっても、天王路にとってはわんぱくに動く駒の一つに過ぎないのである。


第42話

 ティターンと交戦するレンゲルは、戦いの中でアンデッド・ポイズンを注入されてしまう。その毒はアンデッドを活性化させる作用があるのだという。他の者ならいざ知らず、体内にカテゴリーエースをはびこらせている睦月にとっては、ドンピシャで相性の悪い薬効だ。高熱を出して寝込んだ彼は、案の定暴走を始めてしまう。その姿も安定せず、上城睦月なのか、カテゴリーエースなのか、境目は曖昧に入り混じっている。

 望美は再びお弁当を持って、睦月の隠れ家を訪れる。昨日悲鳴を上げて逃げてしまったことを詫びるつもりなのだ。そりゃあ、仲の良い気弱なはずのボーイフレンドが急に不良じみた格好になり、家にもよりつかず、挙句の果てに目の前で仮面ライダーに変身なんてした日には、驚きのあまり悲鳴の一つや二つあげたってバチは当たらないだろう。
 だが、隠れ家に睦月はいない。奥に見えた人影は城光で、彼女はタイガーアンデッドの姿になると脅すように望美へ爪を向ける。
 だが、望美は「怖くない」と言い放つ。城光だけでなく、睦月のこともだ。
 飛び込んできた橘さんに促され、望美は睦月のもとへ走っていく。臨戦態勢の橘さんを前にして、タイガーアンデッドは気が抜けたように人間の姿に戻る。そして、またも地面に放り出されたおにぎりを拾い上げ、彼女は一つの決心をする。

 城光の決心。それは、自ら睦月に封印されることである。
 バトルファイトに命を燃やす戦士である彼女は、今回の戦いも自分の種族のためになると信じ、これまでアンデッドたちを倒してきた。だが、その目的は無惨にも否定される。彼女たちがカードから解き放たれたのはいわば手違いであり、そこに「封印の石」の意思は介在しない。ならばこれ以上、彼女が戦いを続ける道理もないのだ。
 13枚のカードをそろえることで新たな進化の力を手に入れることができるのは、すでに剣崎と始が実証した通りだ。それは睦月=カテゴリーエースの願いでもある。だが、今のままの睦月がカードをそろえても、それは本当の意味では彼の力にはならない。相変わらずカテゴリーエースの影響下に置かれ、不安定なままで強大な力を手にしたところで、それはいずれ彼自身の破滅に繋がってしまうだろう。此度の暴走の様子を見ても、それは間違いないように思われる。
 橘さんが隠れ家へやってきたのは、城光にとって幸運なことであった。彼女は橘さんからラウズアブゾーバーを借り受ける。アンデッドである彼女に大切な強化アイテムを貸してやる橘さんも、随分と丸くなったことだなあ……。以前は始がアンデッドだというだけでぴりぴり警戒心をあらわにしていたものだが。

 ともあれ城光=タイガーアンデッドは暴走中の睦月を挑発し、戦闘に入る。理念も秩序もないただの獣同士として拳を交わし合ったのち、彼女は自らレンゲルのロッドに貫かれる。そして、今にも力の抜けそうな指で必死に封印のカードを手に取り、自らそこへ吸い込まれるように封じられていく。今まで散々城光を倒すなどと口にしていた睦月だったが、結局最後まで彼女には勝てなかったわけだ。――だとしても、カードはカードである。彼の手元にはラウズアブゾーバーと13枚のカードが揃ってしまった。
 全てのピースは集まった。レンゲルは自らもキングフォームにならんとする。が、その時、不意に睦月の身体からカテゴリーエースが分離する。そして睦月自身は、自らの内的世界に誘われる。
 そこにいたのは他でもない、以前彼が封印した嶋さん、そしてたった今封印したばかりの城光だ。城光の尽力により、睦月は嶋さん=カテゴリーキングの力を使いこなせるようになったのだという。
 城光は睦月に告げる。闇と光に操られるな、自分自身と戦い抜け、と。その激励を受け、我に返った睦月は、変身も出来ないままカテゴリーエースに向かい合う。カテゴリーエースと組み合う睦月に、カテゴリーキングの姿が重なる。嶋さんの試みが成功していたことを悟り、ざわめくギャラリーたち。彼らを安心させるために、敢えて一瞬姿を見せてくれたのだろうか?
 キングフォームのブレイドが、自分の大剣を睦月に投げる。受け取った睦月は腰を低く据えて、こちらへ向かってくるカテゴリーエースを一閃。盛大な爆発を背後に剣を握る姿が凛々しい! 倒れたカテゴリーエースに改めて封印のカードを投げ、これでレンゲルの力は名実ともに睦月のものになった。

 口々に喜びの声をあげる一同だが、やはり睦月の顔は晴れない。城光がまるで自己犠牲のような振る舞いをさせたことを、彼は気にしているのだ。
 睦月は「あの人」と城光のことを言及する。倒すべき怪物、集めるべきカードの一枚ではなく、人格を持った対等な相手として城光を捉えているのである。意図したわけではないものの、彼女は不安定で孤独な睦月をずっと見つめ、傍にいてくれた。エースこそ最悪だったが、嶋さんと言い城光と言い、彼のカードデッキはよいメンバーに恵まれているということなのかもしれない。

 一方、金居はこんどは始に接触している。彼も彼なりの理由で動いているようだが、さすがに協力者がいないと厳しいような事情でもあるのだろうか。

 自分がマスターになり代ろうとするような野心は感じられないが、真意は一体どこに。それはそうとビジュアルが大変好みです。よきかな。

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