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【剣】第37話~第40話


第37話

 盛大に勘違いをしているので訂正。始さん、ちゃんと13枚のカード全てと融合していました。1枚をスラッシュすれば全部の力が湧いてくる便利仕様。
 暴走する始をなんとか止めるため、剣崎はひた走る。せっかくのラウズアブゾーバーも大切なバックルも手放して、仮面ライダーに変身できないただの青年となった剣崎は、トライアルFの執拗な襲撃を受けながらもジョーカー=始にカードを届ける。始が人間(の姿)に戻るために、剣崎も普通の人間に戻らなければならない、というのが印象的だ。思えば始の力が暴走したのも、キングフォームとなった剣崎が人間を越えジョーカーに近い存在になったからであった。ふたりの立ち位置は連動しているのかも。

 ジョーカーとなり理性を失くした始が天音に見向きしないのは視聴者も知っての通りだが、あいにく睦月はそれを知らない。人質を取ればジョーカーもきっと下手に出ざるを得ない、と始の人間性を純粋に信じている辺り、睦月はやっぱり「いい子」なんだな~と思う。


第38話

 せんだっての約束の通り、広瀬父の前に引き出される剣崎。ここで彼が果たさねばならない役目は、同じくだまし討ちのように導かれた睦月=レンゲルと戦闘をし、キングフォームの力を完璧に発現させることだ。広瀬父の狙いは剣崎の保護などではない。彼を捕獲し、その細胞を手に入れるのが本当の目的なのである。
 橘さんに計画を明かした広瀬父は、小夜子さんのことを引き合いに出して揺さぶりをかけてくる。便利な手足はいた方がよい、思想に共感してくれるならなおさらだ。人恋しさというウィークポイントを抱えている橘さんなら、ともすれば説得できると考えたのかも。

 天王路の前で錯乱し、シャツの前をぐいとこじ開ける広瀬父。清潔なリネンの下にあったのは生き物の温かな肌色ではなく、人工じみた禍々しい暗色だ。トライアルシリーズは広瀬父の新しい子どもなどではなく、どちらかというと弟軍団だったのか……。自分がロボットであることを忘れたロボット、喜劇じみた悲劇である。

 剣崎はキングフォームから無事に生還。始は自分を救ってくれた剣崎に絶大な信頼感を寄せているようである。重めの期待だ! この「自分が出来るんだからお前も出来るだろう」理論、ジョーカーのような強者が言い放つにはなかなかに暴力的である。彼の「当たり前」が他の人にとっても「当たり前」とは限らないからだ。が、逆に言えば、始は剣崎を「当たり前」の共有が出来る対等な立場として認識している、ということでもある。ライダー4人の中における二大巨頭という感じ。

 先日ハカランダに背を向けて歩き出したときのとぼとぼ感がまるで嘘みたいに、くりっと目を輝かせて足音も軽い始さんである。よっぽど嬉しかったんだな……!


第39話

 始に戦闘の助力を頼むため、ハカランダに電話をする剣崎。だが電話口の始は「俺は……」と口ごもる。彼の目線の先には栗原母娘がいて、これからみんなで食べるためのケーキを用意しているところである。剣崎との友誼も天音たちとの平和な時間もどちらも捨てがたく、彼は迷っているように見える。
 やっと「人間」に戻った始にとって、久方ぶりに味わう戦いのない時間はとても貴重なものである。それを理解している剣崎は、最終的には始の力を借りないことに決め、電話を置く。そもそもこれまでの始にとって戦いとは自分に降りかかる火の粉を払うためのものであり、積極的に打って出たのは理性を失くしていた時くらいだ。ゆえに剣崎の誘いもすぐに断ったって良いはずなのに、今日の始の心は揺れている。いいぞ、それが「人間」ってやつだ。

×天王寺 → 〇天王路

 自分を騙すような真似をした広瀬父に縋ってでも、新たな力を手に入れて強くなりたいと願う睦月。家族ならば当然居場所を知っているはず、と勢い込んで栞のもとを訪ねるが、結果はまさかの空振り、むしろ自分の方が道案内をする羽目になる。現状孤立している睦月には情報共有がされていないため、こういう時に空回ってしまうのであった。かわいそうだがそれも彼の選んだ道だ。
 父=トライアルBの存在を知った栞は、それをまるで本物の父の仇でもあるかのように激しく糾弾する。人工生命体、まして悪印象しかないトライアルシリーズなど、栞からしてみれば趣味の悪い模造品にしか過ぎない。一方天王路はまるでトライアルBが広瀬父の正当後継者、新しい命の形ででもあるような口ぶりをしていた。肉体を機械に、記憶を電子データに置き換えたトライアルBについて考えを巡らせていると、少し的外れではあるが「テセウスの船」などを連想する。果たしてトライアルBは、元の広瀬義人と同じものだと言えるのだろうか?

 甘言を弄して捕獲した睦月をおとりにして、トライアルBは廃工場に待ち構えている。人間がカードに魅入られ強大な力の持ち主となったケースであるレンゲル=睦月も、天王路たちにとっては貴重なサンプルなのだろう。しかも、カリスたちへ抱いている感情は特大ときたから申し分ない。

 最終的には廃工場の天井からぶらぶら吊り下げられて、囮役まで務めることになる睦月。見知らぬ大人に簡単についていくとこういうことになるのだという教育的な画面である。嘘である。


第40話

 栞が持つ、父母との大切な記憶。花畑で記念写真を撮ったあの日のことを、彼女は夢にまで見るほど鮮明に覚えている。身体の弱い母と仕事の忙しい父を持つ栞にとって、もしかしたらこうやって3人で出かけるのは珍しいことだったのかもしれない。
 その花畑の記憶を、栞はトライアルBの使っていたパソコンから見つけ出した。随分ノイズ交じりだが、確かに彼女の見た夢とうり二つである。この発見によって、彼女はトライアルBを父の偽物だと断じた。大事な思い出をこんな風にかすめ取られて、栞はどんなにか傷ついたことだろうか。

 トライアルBとライダーたちは決着をつけるため、薄暗い空の下でぶつかり合う。さらに投入された新手のトライアルは、どこかで見たようなロッドさばきで敵を翻弄する。天王路の研究室に忍び込んでいた虎女史こと城光は、その正体を知っていた。この新顔は、捕らえられた睦月の細胞をもとに作られているのだ。ブレイドとギャレンはもちろんのこと、睦月も己のコピーを前にしては黙ってはいられない。今度は始も遅れて駆けつけ、小雨で濡れそぼった芝生を水音高く蹴立てて変身。一瞬でカリスの姿になる。そして。

 このシーン、最高に格好良くないですか。大きく引き伸ばして壁に貼りたい。2アングルだから2面行ける。

 戦いの途中、トライアルBは思わぬ行動に出る。流れ弾に当たりそうだった栞を庇い、自らが大ダメージを負ったのである。天王路に「広瀬義人のなすべきこと」をするように告げられたトライアルBは、自ら考え、それを成し遂げた。それは天王路の目論見とは少し異なっていただろうが、娘を思う父としては当然の判断である。

 そしてその記憶データは、天王路の手によって即座に改ざんされる。トライアルBは自分がロボットであることを忘れ、あたかも人間・広瀬義人であるかのようにその記憶の続きを生き始める。

 最終的に栞はトライアルBを父親と認め、受け入れる。姿かたちや素材が大きく変わったとしても、その内的世界、いわば魂とでもいうべき部分が一緒ならば、トライアルBは広瀬義人たりえる(そしてそれは本物の広瀬義人の望みでもある)。トライアルBを形作る電子的な0と1にも、人間らしい魂は宿ることができる(あるいは、それらしく見える)。皮肉にも天王路が彼の頭をいじったからこそ、彼は「トライアルB」としてではなく「広瀬義人」としてものを思い、日々の実践によってより「広瀬義人」への理解を深めることができたはずだ。
 とくに誰に指示をされたわけでもないのに、トライアルBは広瀬義人の遺体から結婚指輪を引き継いだ。始が今わの際の天音父から託された家族写真のように、この指輪も広瀬義人の幸せな家族時間の象徴である。いくら記憶を操作されても、生前の広瀬義人がトライアルBに託した強い願いは、きっと人工頭脳の奥底で静かに流れ続けていたはずだ。
 トライアルBの消滅後、栞のもとにはその指輪だけが残される。父からトライアルBに受け継がれた、広瀬義人の家族への愛の全て。それが今、ようやく一人娘のもとへ到着したのである。

 あんなに悪ぶっているくせに、怪我した相手は(たとえ人間でなくても)放っておけない睦月。彼の世界はカテゴリーエースの力によって急激に広がっているが、彼の倫理観(悪)の方はまだまだそれに追いついていないようである。安定の「いい子」ムーブ。

 一ノ瀬仁の拒絶にひどく傷つけられていた始の姿を思い出す。誰も悪くない、しいて言えば襲ってきたアンデッドが悪いだけの、悪夢のような事件であった。あのころに比べると、ずいぶん始も明るくなったものである。

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