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【剣】第21~22話

第21話

虎太郎に近づくアンデッドの影。ブレイドは上級アンデッドを撃退するも、新たな危機が……。一方、ギャレンに襲い掛かるカリス。そのパワーに呼応するように睦月の体に変化が起き、レンゲルに変身してしまう。だが、カテゴリーAに弄ばれるかのように、睦月は力を自由にできない。その様子を見た橘は……。

仮面ライダー剣(ブレイド)  第21話[公式]  東映特撮YouTube Official

頼れる先輩・橘さん

 前話から、やたらと橘さんの面倒見がよい。
 レンゲルのベルトと付かず離れずの睦月を時に窓の外から見守り、時に戦闘の見学を許し、とうとう「俺が戦い方を教えてやる」と弟子に取ってしまった。睦月の優しさと心に抱える光陰を案じ、「君が本当に強くなって、カテゴリーAの力を押しのけるしかない」と橘さんは言う。それに、このまま放っておいたらいつか睦月は始に「ぶちのめ」されてしまうかもしれない。流石にあんまりである。

 橘さんが指摘した通り、カテゴリーAによって睦月は翻弄されている。カリスを前に変身したときも、発した「変身!」の掛け声がすでに睦月ではなくカテゴリーAのそれであった。主導権は確実にあちらが握っているのだ。それを奪い返すためには自分の心を見つめ直し、強靭な意志を持たねばならない。あの桐生でさえレンゲルの魔力に飲まれかけていた。睦月にはそれを超える精神力が求められる。
 赤ん坊のころに見た光の中の、人々の笑顔と涙を守りたいと思う気持ち。嫌な夢を見たくないと願う睦月の心の奥には、そんなシンプルな正義感が隠れていたようだ。自らが闇の中にあると感じているからこそ、その光は睦月にとって侵しがたく尊いものとなるのだろう。

 というわけで仮面ライダーとしての戦い方を学ぶため、睦月と橘さんがやってきたのはバッティングセンターである。動体視力を鍛える訓練として、150km/hのボールに記された数字を読み取れと橘さんは睦月に告げる。「ギャレンになるときの基礎訓練の一つだ」とさらりと言ってのけていたが、そんな地道な努力をしていたのか……そしてつまり、同じくBOARDのライダーとして採用された剣崎もこの訓練をこなしたということなのか……?
 途中でアンデッドサーチャーが反応し、橘さんは現場へ向かってしまうが、もしかしてそれまではずっと睦月の特訓を見守っていてくれたのだろうか。1話で剣崎に慕われていた頃の橘さん、完全復活である。


始さん、虎太郎に呼び出される

 始と虎太郎は相変わらずぎくしゃく、というか虎太郎が一方的に始への態度を硬化させている。ハカランダを訪れた小太郎は始を外へ連れ出し、剣崎に急を告げてくれたことへの礼を(しぶしぶ)言うが、始は「お前を助けるつもりなど無かった」とけんもほろろ。「君が僕を助けるわけないもんな」と鼻白む虎太郎に、間髪入れずに「ああ」と答える容赦のなさである。
「俺はうじうじした奴は嫌いだからな」と虎太郎に告げ、ふっと相好を崩して始は踵を返す。冒頭で睦月相手に目を剥いていたのとはえらい違いだ。……もしかして、煮え切らない虎太郎への始さん流アンデッドジョークなのか?
 後半、植物園に飛び込んできたカリスは、アンデッドとその蔓に縛められた虎太郎へ迷いなく弓を向ける。
「避けろ!」
 鋭い声に虎太郎が顔を背けると、その耳のすれすれのところを狙いすましたように放たれたカリスの攻撃が蔓を焼き切る。虎太郎はアンデッドの腕から逃れ、地面に転がる。
 何故助けたのかと問われ、カリスはじれったさそうに「お前を助けたわけじゃない、何度も言わせるな」と弁解する。
「行け、奴のところへ!」
 言われるがまま、虎太郎は剣崎にベルトを届けるべく走り出す。剣崎=ブレイドにもう一体の上級を片付けさせるのが得策であるとの判断か。
 戦いを終えた剣崎の前で、虎太郎は鼻をすする。結果的に命を救われてなお、始が自分や天音にとって脅威にならないかどうかを、彼はまだ決めかねている。「なんなんだろ、僕。うじうじして、うじうじして、ほんと情けない」――その背中を見つめ、静かに去る始。とげとげした態度を取っているのは虎太郎の方なのだから、一度虎太郎が自分で腹を決めることさえできれば、きっと二人は良好な(とは言わずとも、せめて平穏な)関係を築けるはずだ。なんてったって虎太郎は天音の叔父なのである。始にとっては親戚も同然。


今回のここが好き(ブレイド)

 前半、余裕の表情を見せる山羊アンデッドに対し、ブレイドは勢いよく剣を投げつける。腕を掠めた刃に思わず体勢を崩す山羊氏。その頭上をくるくると飛び越え、地面に突き刺さった剣を拾い上げて、ブレイドは即座にカードをスラッシュ。ライトニングスラッシュが発動し、撃破こそできなかったもののアンデッドに深手を負わせることに成功する。
 逃げ延びた山羊氏が悔しそうに自分の腕を殴っているのが印象的であった。舐めてかかっていたブレイドに傷をつけられたことがよっぽど彼のプライドを害したのだろうなあ。ブレイドではなく、自分自身に腹を立てているようなご様子。

 植物園のシーンでは、「ベルトを地面に置け」と言われた剣崎が言われたとおりにベルトを置きつつも、ちゃっかりカードだけは握り締めていたのがちょっと面白かった。確かにカードを置けとは言われていないものな! 片手落ちだぞ山羊氏!


第22話

カテゴリーAに操られないようにと、橘は睦月に特訓を続ける。その頃、地下で人を襲うアンデッドが現れた。駆けつけた睦月は、地中に引き込まれ……。一方、始に遥香が写真の仕事を紹介した。そこに近づいてきた一人の男は「カリス」について語り始める。ライダーたちが背負わなくてはならない運命とは?

仮面ライダー剣(ブレイド)  第22話[公式]  東映特撮YouTube Official

睦月、成長する

 上城睦月は暗闇が苦手である。幼いころのぼんやりとした記憶を、トラウマとして思い出してしまうからだ。逃げ場のない闇は、彼にどうしようもないほどの恐怖を与える。あろうことか、目の前のアンデッドに背を向けて逃げ出してしまうほどだ。
 敵前逃亡を橘師匠に叱責され、睦月はすっかり拗ねてしまう。曰く、「自分には戦う理由がない」。剣崎や橘のように大切な存在を失ったことの無い自分には、戦うモチベーションが存在しないのだと言う。前回「光の中の人々の笑顔や涙を守りたい」と語ってはいたが、赤ん坊のころの記憶に基づいたその理由は具体像に欠けていて、確かに弱いと言えば弱い。
 自分を心配する両親の会話にも、睦月は焦りを募らせる。「ここに居たら俺は強くなんかなれない」と彼は心の中で呟き、バッグひとつを抱えて家を出る。

 睦月が想像している橘や剣崎の戦う理由、すなわち「死んだ恋人を守れなかったから」とか「死んだ家族を助けられなかったから」とかいう理屈は、どうにも贖罪の色味を帯びている。死なせてしまった誰かのために戦う、過去に実現できなかったことを今代わりに果たす、というわけだ。消せない後悔を背負って戦い続けるヒーロー像には確かに説得力がある。
 カテゴリーAに振り回されてはいるものの、睦月の暮らしはおおむね平穏だ。コインロッカーでの一件(コインロッカーベイビーかとも想像していたが、そうではなさそうなのでよかった。よくはないが)があるにせよ、それについて睦月は完全なる被害者であり、後悔するような落ち度は持ち合わせていない。
 彼が家出をしようとしたのは、自分の人生から何か大切なものを欠落させるためだ。すなわち、強さの代償は何かを失うことだと睦月は考えている。仮面ライダーに選ばれたのが自分の「運命」である以上、カテゴリーAを押しのけてより強い自我を得るために、自分は何かを捨てなければならない――だが、それは必ずしもいいアイデアではない。
 思い悩む睦月に、剣崎は「仮面ライダーとは仕事である」とあっけらかんと言う。給料という対価を得るために、自分が選択した職業。剣崎にとって、仮面ライダーであるということは何かを失うことではなく、何か(というか食い扶持)を得ることである。家族を失ったことが自分のばねになっている、とかつて自身で述べていた剣崎ではあるが、だからといってそればかりを理由にアンデッドと渡り合っているわけではない。

 アンデッドサーチャーからギャレンの反応が消え、たまらず睦月は飛び出す。廃墟のようになったショッピングモールの中、こわごわ降りていった闇の中で橘と再会した彼は、逃げ遅れた客を外へ誘導するよう指示される。瓦礫の陰で息をひそめる人々は、皆怯えた表情でじっと睦月を見つめ返している。
 橘から託された子どもを抱きかかえ、睦月は客たちを避難させる。アンデッドはブレイドと戦闘中なので、逃げ出すならば確かに今がチャンスだ。口々に礼を述べて、外へ続く階段を上っていく客たち。彼女らの笑顔を見て、睦月はそれを「守りたい」と思う。過去の光の中に幻視した、ぼんやりとした誰かの笑顔ではなく、今ここで自分に向けられている、暗闇の中にあっても希望にあふれる笑顔だ。
 抱いていた子どもを降ろし、睦月は「光だよ」と優しく声をかける。この一言に睦月の成長がぎゅっとつまっているような気がして、胸が熱くなる。レンゲルの強烈な力で自らの深い闇から抜け出し、眩しい光へ至ることを渇望していた以前の睦月。恐怖から出ずる必死さゆえに、彼はベルトに執着し、カテゴリーAにも弄ばれてしまった。だが今彼は、こんなにも穏やかに光を見上げることが出来る。カテゴリーAを抑え込むためのモチベーションを無い物ねだりするのではなく、自己の内面に再発見することも出来た。光のあたたかさは、暗闇にいるからこそよくわかる。その先に光がある事を知っていれば、暗闇もそんなに怖くはない。
 守るべき人を明るい所へ導いて、彼は再び闇に包まれた地下へ駆け戻る。何故なら、上城睦月は仮面ライダーレンゲルだからだ。


始さん、働く

 小沢澄子もとい神丘の助手として、動物園での写真撮影に同行する始。神丘はもともと、亡くなった天音の父のアシスタントをしていた。彼の死後はその仕事を引き継いだため、どうも多忙であるようだ。連れ立って出かけていく二人に焼きもちを焼く天音が微笑ましい。
 しかし、それが思わぬ事態を引き起こす。始の荷物から落ちた1枚の写真を見て、神丘は顔色を変える。それは始がかつて雪山で手に入れた栗原家の写真――天音の父が生前お守りとして持ち歩いていた家族写真であった。アシスタントをしていた神丘は、その写真のことを当然知っていた。そして、亡くなった天音の父の遺体からは、写真が見つからなかったことも。
 タイミングよくカオルもといみゆき=先日の花アンデッドが現れ、始はカリスに変身して戦闘に入る。その場での追及はなあなあのままになってしまったが、しかし神丘は帰宅するなり棚から一本のネガを取り出した。天音の父が生前、最後に取ったと思しきフィルムだ。寒々とした雪山の景色の一点に、染みのようにぼんやりと映っている小さな人影。画面上に大きく拡大されたそれは、相川始によく似た姿をしている。

 さて、動物園で始は二人の上級アンデッドに出会う。ひとりはみゆき、もう一人は鳥のような姿をしたアンデッドだ。
 みゆきは始に共闘を持ちかけるが、始はそれを拒否する。当然と言えば当然である。「天音を守る」か「自分のプライドを守る」が始の行動理由であり、みゆきと手を組んだところで特にメリットは無い。已む無く双方は戦闘に突入するも、息もできないほどに撒き散らされる花びらの舞にカリスは苦戦する。
 そこに空から乱入したのが新顔の鳥のアンデッドだ。カリスの戦いを助太刀し、「1万年前の約束を果たす」と鳥氏は言うが、当のカリスはあまりピンと来ていない様子である。
 その場に剣崎がやってきたことにより、内容を詳しく告げないまま鳥氏は飛び去ってしまう。「約束ってなんなんだ」と問い詰める剣崎に何も答えず、その場を立ち去る始。天音に見せる愛想の良さをほんの少しでもこちらに振り分けてくれていれば、剣崎達に変な誤解を招かせることもないと思うのですけれどね……あと神丘さんのこと多分すっかり忘れてるよね……。


今回のここが気になる(橘さん)

 腑抜けた小太郎の失敗パスタをうまそうにずるずる啜る橘さん。口の周りにソースが跳ねてもお構いなしである。思いのほかやんちゃなお食事風景にちょっとびっくり。あまりこだわりがないタイプなのだろうか。小夜子さんとイタリアンデートをしていなかったことを祈りたい。

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