見出し画像

【剣】第16話

第16話

小夜子の仇、伊坂を倒した橘。伊坂が封印されたことにより、正気にかえる烏丸所長。そして、橘はギャレンのベルトを鳥丸に返却し、戦いから離れる決意をする。一方、ドラゴンフライアンデッドの卑怯なやり方に怒りを覚えたカリス。その戦いの場に駆けつけたブレイドが目にしたのは……。

仮面ライダー剣(ブレイド)  第16話[公式]  東映特撮YouTube Official

 伊坂の死により、烏丸所長らの洗脳は全て解ける。橘さんがさきに自力で正気に戻れたのは、マインドコントロールではなく植物の効果でただただ弱みに付け込まれていたからか。
 ともかく、所長は剣崎達と合流。伊坂が作り出そうとしていた最強のライダーのベルトは破壊も封印もされず、烏丸の手にある。幾らマインドコントロールされて非道な手段で作らされたとはいえ、捨てるのは惜しいか。橘さんが一線から身を引いたことにより、戦力不足は否めない。激化する戦いに備え、新しい仮面ライダーが増えてくれればそれに越したことはない。だが、ためしに虎太郎が装着しようとすると、烏丸はそれを止める。
「蜘蛛のアンデッドの邪悪な意思が私に働いて、これを作らせたとしか思えない箇所がある」
 どうやらなにか人間にとってよろしくない機構が、このベルトには組み込まれているらしい。裏付けるように、虎太郎の目はチェンジカードに吸い寄せられ、魅入られてしまう。
 夜中、夢遊病のようにカードとベルトを持ち出して、屋外で変身シークエンスを実行しようとする虎太郎。剣崎が割り込んだおかげで大事には至らずに済んだが、蜘蛛氏もまた自ら適合者を探して動き出したのか。生前すでに睦月を発見してはいたので、彼のもとまでベルトを移動させることが目的だったのかも。ところで、ベルトから投影された映像にぶち当たり、剣崎は一瞬見知らぬライダーの姿に変身しかけている。日々ブレイドとして経験を積む中で、肉体とアンデッドの融合しやすさ的な数値はやはり上がり続けていくのだろうか……。
 さて、烏丸達の手元から脱走し、首尾よく植え込みに隠れることに成功したレンゲルバックルは、かねてからの狙い通り、偶然(本当に?)通りかかった睦月に拾われることに成功する。ガールフレンドを放って帰宅し、母親を適当にあしらって部屋に閉じこもる睦月。剣崎や橘さんと違って、睦月には明示的に家族がいるのだなあ、とふと思う。デートをすっぽかされておかしな言い訳をされてもなんだかんだ一緒に遊んでくれるガールフレンドや、一緒にストリートバスケを楽しむ友人がいる睦月は、ごく普通の幸せなひとりの少年だ。当然就業をする年齢でもなさそう。
 蜘蛛アンデッドの記憶が脳裏によみがえった睦月は、虎太郎と同じくそのベルトに魅入られているようにも見える。伊坂の試験場では変身に失敗していたはずだが、どういう風の吹き回しだろうか。あるいは現役ライダーである剣崎が変身しかけたことが、ベルトにとって何かの刺激になったのだろうか? だとしたら居たたまれないなあ。


今回の始さんと「お仕事」

 烏丸にベルトを返す折、橘さんは剣崎に向かって「一緒に働けて楽しかった」と挨拶をしていた。返却されたギャレンバックルを腕に抱えて眠る剣崎は、入職初日、初めて橘さんと出会ったときのことを夢に見ている。ブレイドはお仕事ライダーだとよく聞く。だからこそ『ディケイド』でも企業内カーストを話題の中心に据えていたのだろうし。
 ところで、カリスは別に職務でライダーをやっているわけではない。彼はアンデッドとしての本能でレーダーよりも早く敵を察知し、それを殲滅するために動く。カリスの戦いは彼と彼の大切な者を守るための手段であり、巻き込まれる周囲の人間など、言ってしまえばどうでもいいのである。
 ファミレス内での戦闘のさなか、カリスは隠れている客のことなどお構いなしに攻撃を放つ。アンデッドは案の定それを躱す。背後の人々を守るため自分の身体にその攻撃を受け、尻餅をつきながらブレイドは愕然としている。「やっぱり、あいつは人間じゃない、獣だ!」
 カリスの方でも何やら思うところはあるようだ。オーバーキルをブレイドに止められ、改めて共闘の可能性を口にされても、「俺は組まない」とかたくなである。
「俺は、俺のやり方しか知らない」
 呟くカリス。剣崎が言うところの「獣」のやり方で、彼は戦っている。剣崎や橘さんの仮面ライダーがお仕事なら、カリスにとっての仮面ライダーは生き方であり、それまで積み重ねてきた長い人生の表出である。剣崎のように途中入社することも、橘さんのように辞職することもできない。今更誰かにやり方を合わせるのは、不可能ではないものの困難が伴うだろう。
 まして始は天音との「初デート」で、秘密を抱えたままの、そのままの自分としてハカランダにいてよいとお墨付きをもらったばかりなのだ。もちろん、知らないということはこれから知ることが出来るということだし、相手をより深く理解して自らの行動を変容させることはままあることだ。だが、出来ればもう少しだけでも、ありのままの姿を無条件で受け入れてもらえる幸福を始に味わってもらいたい……と思ってしまうのは、おたくのひいき目であろうか……。


今回のここが照明効果

 前話の冒頭、誘拐された天音と遙香のシーン。迫りくるアンデッドに怯える二人には、薄暗い緑の影がかかっていた。そこに聞こえてくるバイクの音。アンデッドが振り返ると、トンネルの入り口は外から差し込む眩い光に包まれている。駆けつけた始が天音と遙香の希望の光であることを示すような、印象深いシーンである。
 今話では、睦月の部屋でのシーンが印象的であった。ドアに鍵をかけた睦月は思いついたように半分だけカーテンを閉め、勉強机の眩しいデスクライトをつけてベルトを見つめている。蘇る記憶とシナプスに食い込むような蜘蛛の毒の描写が、薄暗い室内を激しく揺れるスポットライトの光で表現される。自分も造詣が深いわけでは全くないが、やはり舞台演劇のような演出だなあと感じる。リアルよりのドラマの中に急に差し込まれる異物感は、まるで睦月とレンゲル自体があってはならない異物であるかのようにも思え、なんとなくぞわぞわする。伊坂め、なんてものを作ってくれたんだ……。
 バイクに乗るレンゲルは赤みがかった光に照らされ、これまた危険信号のアラートのようである。いやがおうにも不安が高まる。


今回の橘さん

 大学卒業直後に小夜子と訪れた思い出のカフェテラスで、思い出の腕時計を眺めながら感傷に浸る橘さん。あのツーショットパズルは橘さんから小夜子へのプレゼントだったのか……。実用的な腕時計を贈ってくれた小夜子とは対照的というか、案外ロマンチストなんだなあという印象。それがあんな狂戦士になってしまっていたなんて、伊坂め、なんてことをしてくれたんだ……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?