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【シンケンジャー】第39話

第三十九幕「救急緊急大至急」

 離島の住民たちの異変をキャッチし、乗り込んでいく丈瑠たち。案の定それは外道衆の手による禍で、アクマロの焚いた札の灰を浴びた者は、みな周囲の人間を極悪非道の敵対者だと認識するようになってしまうのである。仲良く島の探索を始めた千明と源太もアクマロによって灰を浴びせられ、互いに刃を抜き合う事態に。
 アクマロが動くということは、暫定配下である十臓と薄皮太夫も出場するということである。太夫は流ノ介とことは、十臓は丈瑠と茉子とそれぞれ接敵。相変わらず本来の得物は戻ってきていないものの、やはりその実力はただものではない。太夫の攻撃になすすべなく、流ノ介たちは川に転落。丈瑠と茉子も十臓に斬りかかるが、二対一でもあしらうように相手をされてしまう。倒れた茉子を庇ってかがみこみ、背中に構えた刀で十臓の一撃を弾く丈瑠(格好いい)。互いにかばい合い、助け合いながら戦う二人の様子を受けて、十臓は丈瑠に「弱くなった」と告げる。そして、それは丈瑠が「自分を惜しむようになった」からだと。

「弱くなった」とはいえ、力量や技量が以前より劣ったわけではなく、むしろ5人で行う日々の鍛錬は充実したものである。第一、以前丈瑠は十臓とサシで勝負をし、勝利しているのだ。
 だが、茉子にそのことを指摘されても、丈瑠は自らの苛立ちを深めるばかり。ついには手当てをしてくれた彼女を突き飛ばすようにして、ひとり目的地である山の祭壇へ向かってしまう。出ていく瞬間その顔に浮かぶのは怒りや苛立ちではなく、思わず感情をぶつけてしまったことへの後悔だ。

 今の島民たちにとって、周囲の人間はすべて倒すべき敵である。反対に、現在の丈瑠は頼りがいのある大事な仲間たちに囲まれている。
 かの有名な『化物語』の主人公・阿良々木暦は、物語の序盤において、自分が友達を作らず(作れず)にいる理由を「人間強度が下がるから」だと言い張る。大切な存在が増えればその分弱みも増えてしまう、とかなんとかいう理屈だったか。
 阿良々木の屁理屈は強がりだとしても、十臓の指摘を受けた丈瑠はまさに、自らの人間強度の低下を自覚させられたような状態にある。
 殿も家臣も一緒に戦う、仲良しこよしの侍戦隊。仲間を守り、守られながらの戦闘は、かつてたった一人で外道衆と渡り合っていた時には当然なしえなかったものである。以前ならばがむしゃらに突っ込んでいったような現場に、今の丈瑠は仲間と連携しながら仕掛けることができる。きっと十臓は、それが気に入らない。
 死地に突出せずあくまでもチームとして戦うことを、十臓はただの保身であると切って捨てる。そしてその言葉は、深く丈瑠の心に食い込む。そもそも彼が一人で戦っていたのは、家臣となるべく定められた者たちを戦いに巻き込まないためだ。「自分を惜しむ」どころか、「英雄はただ一人でいい」状態である。それが今では、仲間が出来、幼馴染も帰参し、屋敷の外に広がる人間関係についても認識が広がった。みんなで力を合わせれば、強大な敵にも知恵と勇気をもって立ち向かうことができる。みんなと過ごす志葉のお屋敷は、丈瑠にとって大層居心地の良い、思わず生きて帰りたいと願ってしまうような場所になってしまった。

 山の祭壇には十臓と薄皮太夫の姿がある。丈瑠の後を追ってきた茉子は、彼を庇って怪我を負いながらも薄皮太夫に打ちかかっていく。
 太夫をピンクに任せ、丈瑠はスーパーシンケンレッドに変身。モウギュウバズーカを構える。
 丈瑠に失望したことでこの世に見切りをつけた十臓は、自分に銃口が向けられても一向に気にしない。腑抜けた丈瑠と刃を合わせたところで、彼の肌は粟立たない。……が、スーパーシンケンレッドの放った弾は十臓のすぐ横をすり抜け、祭壇だけを破壊する。
 本末転倒な話ではあるが、丈瑠の「強さ」を客観的に評価できるのは、家臣たちや彦馬ではなく、敵である腑破十臓だけなのだ。さきの「弱くなった」という台詞を撤回させるまで、丈瑠は十臓を殺すわけにはいかない。

 丈瑠の心境の変化を知った十臓だが、始めようとした果し合いはアクマロによって止められてしまう。代わりとばかりに出現した切神たちに、シンケンジャーらは折神合体で応戦。だが今の丈瑠にとっては、ロボを共同操縦することさえも過剰な馴れ合いに思えてしまうのかもしれない。流ノ介の言を容れず、強制的にサムライハオーを完成させた丈瑠は、細かな攻撃のやり取りなどすべてすっ飛ばして大技でフィニッシュを決める。そして戦い後のキメ台詞もそこそこに、さっさと操縦席から降りてしまう。まるで少しでも早くその場から立ち去ろうとしているかのようだ。

 悩める丈瑠に対し、茉子は「命を預け、命を預かる」という自らのスタンスだけは伝えることが出来た。だが、それがあまり丈瑠に響いていない手ごたえのなさを、彼女自身も感じているようだ。丈瑠の背中を見守る茉子の表情はどこか浮かない。これは根深いぞ……。

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