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【剣】第17~18話

第17話

第4のライダー、レンゲルは今までにない力でブレイド、カリスを翻弄する。変身した睦月は自分のしたことの記憶がないが、その身体に変化が起き始めていた。彼は、幼少の頃の体験が引き金となる悪夢に悩まされていたのだ……。一方、橘は睦月のことが気がかりで、その行方を探していた。

仮面ライダー剣(ブレイド)  第17話[公式]  東映特撮YouTube Official


 お話は睦月=レンゲルの方面へシフトしていく。前回、吸い寄せられるようにレンゲルのベルトを手に取り、変身を果たした睦月。初出場ではブレイドとカリス相手に圧倒的な強さを見せつけるが、倒れ込むように変身が解けた後、彼に戦闘中の記憶は残っていない。あるのは「自分も仮面ライダーになれた」というふわふわした実感と、「ライダーになれば変われるかもしれないし、嫌な夢も見なくて済むかもしれない」という淡い期待だけだ。
 基本的に事を荒立てるのが苦手で、部活の先輩やバイト先の客からの理不尽な言いがかりにも、腰を低くしてなるべくやり過ごそうとするタイプの睦月。夕飯の買い物をする客の「あったかい家庭」の雰囲気に平和を感じてなごむような性格で、その角を立てない接客態度もあってか、同僚のマダムからも信頼を得ているようだ。基本的に彼はすごくいい奴で、「喧嘩っ早い」とか「血気盛ん」とかのワードとは距離がある方に思えるのだが、しかし戦闘専門職であるところの「仮面ライダー」には興味津々で、しきりに剣崎からライダーとしてのあれこれを聞き出そうとしている。
 仮面ライダー=剣崎に命を救われた睦月にとって、「仮面ライダー」は強さのシンボルである。仮面ライダーになることで「変身」したいと思っている彼は、逆説的に、今の自分の強さへ不満を抱いているのだろう。柔和な態度がイコールで弱いとは限らないものの、先輩や面倒な客にもっと毅然とした態度で臨みたい、という思いが睦月の心中にもあるのかもしれない(ガールフレンドの目の前ならばなおさら)。また、自分が強くなることで嫌な夢を見なくなるかも、と期待するのは、今の睦月が夢の恐ろしさに打ち負けているからだ。コインロッカーの映像と赤ん坊の泣き声が頭の中にこだまし、汗まみれで一人目を覚ます彼は、繰り返す悪夢に押しつぶされそうになっている(ガールフレンドのことで茶々を入れられていた様子はごく普通の親子関係に見えたが、あの夢が過去の記憶だとすれば、彼は里子なのだろうか?)。恐れを払うために力を求めるという構図は、さきの橘さんと同じである。……どちらにも蜘蛛アンデッドが一枚嚙んでいる、というのがなかなかぞくっとさせられる。

 変身した緑色のライダーは、「睦月ではなくレンゲル」と名乗っている。所長言うところの邪悪なアンデッドの意思に、睦月の肉体が乗っ取られているということか。
 厄介なのが「リモート」のカードで、どうやら封印したアンデッドをカードから解き放つ力を持っているようだ。ブレイドたちが使おうとしたカードからアンデッドを逃がし、さらにそのアンデッドを自ら封印しなおすレンゲル。カードが増えればそれだけ使える技の種類も多彩になる。アンデッドの総数が決まっている以上、確かにバトルロワイヤルの後半はカードの奪い合いになっていくのも納得である。ライダーを襲ってカードを横取りするより、逃がしたアンデッドを再封印する方が手間もかからず合理的だ。うーん、面倒なことになってきたなあ。
 長物の武器を軽々と振り回すレンゲルの姿からは溢れんばかりの膂力を感じさせられる。中身の睦月はそこまで力持ちにも見えなかったが、やはり変身した影響で、スーツのアシストにプラスして肉体の運動能力も底上げされているのかも。ブレイドのキックがリーチ足らずで空を蹴るのも目を引いた。長いは強い。


今回の剣崎くん

 万引きの疑いを掛けられる仮面ライダー、ここに爆誕。たとえ後ろ暗いところはなくとも、警察の名を出されればドキッとしてしまうのが大変小市民らしくて親近感がわく。唐突なオロナミンCにちょっと笑ってしまったが、きっと積んであったから犯人も盗りやすかったのだろう。ゲーム感覚でスリルを楽しむ愉快犯の犯行と見た。戦利品も剣崎の尻ポケットに押し込んで逃げてしまうし……。
 妄想の中で「仮面ライダーが逮捕」と肩書のように使ってみたり、睦月にとうとうと「給料も安いし残業手当もつかない」と語ったりするのを見て、そういえば剣崎にとって「仮面ライダー」はまぎれもなく職業だったなあと思い出す。雇用主のBOARDが壊滅状態の今、残業手当どころか基本給すら発生してはいなさそうだが、その辺りはいったいどうなっているのだろうか。個人事業主?
 ともあれ、剣崎と睦月の「仮面ライダー」に対する切実さはやはり少し異なっているように思える。剣崎は職業選択の自由を行使して、数ある選択肢の中から「仮面ライダー」という道を自分で選択した。そして、いわばプロの仮面ライダーとして、責任感を持ってアンデッドの対処に当たっている。一方睦月が仮面ライダーになったのは、自分で選んだからではなく蜘蛛アンデッドに選ばれたからだ。と言っても、ベルトを手に入れたのは睦月の主観においては偶然の出来事で、たまたま手に入れたこの千載一遇のチャンスが、彼が「変わる」ための今のところ唯一の手段なのである。

 後半の戦い、バイクを止めざまバックルを引き、ガードレールを乗り越えながら流れるように変身する姿が大変良い。スムーズ~!


今回の橘さん

 今回は完全に別行動な橘さん。ギャレンのバックルを置いた彼はもはやアンデッドを追うことはなく、本日は街中で見かけたかつての先輩、桐生を追いかけている。栞曰く、桐生は橘さんの前のギャレン適合者であり、何らかの事故に遭って姿を消していたようだ。
 フルフェイスのメットをかぶった桐生は、事件現場へ急行する警察車両の後をつける。バイクを止めた先で見たのは、鉄パイプで警官を殴り倒し、車を奪って逃走しようとする悪人面の男。男は目撃者である桐生にも殴りかかってくるが、彼は腕でそのパイプを受け止める。鈍い金属音。驚く男の首根っこを掴み上げ、桐生はベルト(普通の皮ベルトだ)についた小さな金属の小箱のスイッチを押す。途端に激しく火花が散り、男は感電したように身体を痙攣させ、力なく崩れ落ちる。
 恐らく金属でできた腕を、電気の力で操作する男。犯罪者撲滅過激派な言動。ライダーマンの面影が脳裏に過ぎる。ともあれ、この再会が橘さんにとって吉と出るか凶と出るか……。


第18話

睦月のレンゲルへの変身を目の当たりにした剣崎。ところが、レンゲルはアンデッドだけでなく、ブレイドにも襲いかかってきた。邪悪な意思をもったレンゲルのベルト。その力に捕らわれる睦月。一方、橘より前にギャレンの適合者であった桐生は、戦うことをやめしまった橘を責める。

仮面ライダー剣(ブレイド)  第18話[公式]  東映特撮YouTube Official

「俺の心には、行き場のない正義への憧れが残っちまった」
 ギャレンの適合者に選ばれながらも変身に失敗したことで、右腕を失い、さらに心にもしこりを残してしまった桐生。そうなのだ。警察無線を傍受して犯罪の現場へ先回りし、凶悪犯を絞め殺していく桐生の「今の仕事」は、あくまでも彼の純粋な正義感に基づいたものである。誰に褒められるでもなく粛々と悪を罰し、何も言わずに姿を消す真っ白なジャケット姿はまさにヒーローそのもの。かつて執行し損ねた己の正義を、いま桐生は自分の力で果たしているのだ。
 最初は「貴方のしていることは犯罪だ」と語気を強めていた橘さんも、桐生の義腕を見せられ御高説を聞いた後では、立ち去る彼を泣きそうな顔で見送ることしかできない。しまいには「やはりギャレンには桐生さんのような人がふさわしいかもしれない」などと剣崎達の前で弱音を吐く。
 カテゴリーエースを封印してレンゲル誕生の一翼を担ったことも、理由はどうあれギャレンの適合者となって桐生からギャレンを奪ったことも、全部自分のせいだと橘さんは剣崎にこぼす。一人で背負い込むなと言う剣崎に、橘さんは逆らわない。「そうだよな」と素直に返す声色には自嘲がにじみ出ている。
「俺は弱い男だからな」
 ギャレンのベルトを手放した後も何かと理由をつけて剣崎達の周りをうろついているのは、一人になるのが怖いからだ、と橘さんは言う。あの橘さんが! 孤独と誤解を恐れず、いつでも自分のことは自分で片をつけようとし、ただ深沢診療所の診察室でだけ安心した子どものような表情を見せていた橘さんが!? 小夜子を喪ったことをものすごく引きずっているのだなあ……。今まで小夜子にしか弱みを見せずに頑張っていた反動か、今度は全方位に不安定な心情を開陳してしまっている。どうにも心配。

 煽り運転で悪人を事故らせた桐生は、逃げようとしたその悪人の腕を捻り上げる睦月を見かける。悪人を制裁するのだから一見睦月の行いも正義であるようだが、よく考えれば睦月はその相手が悪人であることなど知らず、ただ事故を起こしてその場を離れようとした人間がちょっと乱暴な態度を取ったから、というだけの理由で実力行使に及んでいる。最近のキレやすい若者は、で終わらせても良い所だが、桐生は睦月に目をつけ、その後を追う。烏丸所長から橘さんのことを頼まれていたという桐生が、蜘蛛のアンデッドと新たなベルトのことも所長から聞いていたとしても不思議はない。
 ブレイドの一撃を受けてはじけ飛んだレンゲルのベルトを拾い上げ、桐生はおもむろにそれを装着する。
 中盤、剣崎に取り上げられたベルトがいつの間にか部屋に帰ってきていた時、睦月はまるでベルトが人格を持つ生き物であるかのように話しかけていた。「頑張って、お前の力を俺のものにしてみせる」――そしてベルトの方でも、自分を川に投げ捨てようとした睦月に「俺を受け入れろ」と話しかけ、迫る。かつて伊坂たちは一生懸命レンゲルの適合者を探していたが、なんのことはない。レンゲルのベルト自身が相応しいと認めれば、その人物こそが適合者になるのだ。子蜘蛛は睦月の身体から桐生の身体にわらわらと移動し、彼の変身行為は無事に成功する。


今回の始さん

 天音から差し出されたアーモンドティーで、飲み物の温度だけではない心のぬくもりを感じているようにも見えるが、しかしまだその温かさの意味までは分からずにいる様子。それにしても始さん、三人だけの時は良く笑うなあ。栗原家だけには心を許しているんだなあとほっこりする。
 そんな始さんだが、前回レンゲルに見下げられたことは少し根に持っている御様子。アンデッド4体を交えての乱戦にも果敢に飛び込むが、あくまでも狙いはレンゲルである。アンデッドからの攻撃をするりと抜けてレンゲルの背中へ飛び掛かるが、すぐにレンゲルのロッドに打ち払われ、むなしく地面に転がされてしまう。尺の都合もあるだろうが、こうもあっさりやられるとは。さすがレンゲル、最強の仮面ライダーを名乗るだけのことはある。


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