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バーチャル株主総会📶法改正迫る!

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2021/5/9追記:政府はバーチャルオンリー株主総会の開催を許容するための産業競争力強化法改正案を決定し、国会に上程。

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先日、投資先企業である、アステリア(TYO: 3853)のセミナーに参加しました。完全バーチャル株主総会に関する法改正を間近に控えている中で開催されたセミナーです。以下のことを学んできました。
産競法改正案の概要
✅バーチャルオンリー型株主総会の運営(ハードルや注意点)
✅Asteriaのブロックチェーンを使ったバーチャルオンリー型株主総会

バーチャルオンリー型株主総会では、
・株主の質問数が増加する
・コストが削減できる
などのメリットがあります。

他方でデメリットとして、
・ウェブで受け付けた質問を、会社がチェリーピックしてしまう可能性
表決のカウントの不正の可能性があります。
なお、後者はブロックチェーン技術を使い、対応が可能とのことです。

▮ セミナー概要

セミナー説明
今年度は、新型コロナウイルス感染拡大が懸念されたなかで、法整備が間に合わなかったことから、株主総会の運営はリアル会場とバーチャル会場を組み合わせたハイブリッド開催にとどまりました。その後、議論が進み、2021年度からは完全バーチャル化に向けた法改正が進められています。
今回のセミナーではバーチャルオンリー型の総会運営と株主総会の完全オンライン化に向けた法案の概要について、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の澤口 実 氏が解説。また、事業会社が見落としがちな注意点や、アステリアのブロックチェーンを活用した株主総会の議決権投票システムについてもアステリア代表取締役社長の平野 洋一郎より解説します。

同社は、ブロックチェーンを利用した「バーチャル株主総会」を実現するための仕組みの提供をしています。セキュアかつ改ざんできない事による透明性の高い質問や議決権行使が可能になるとのことです。

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▮ バーチャル総会法改正の内容

産業競争力強化法(産競法)の改正が予定されている(2021 年 2 月 5 日閣議決定、第 204 回通常国会に提出される)

✅これにより上場会社は、バ ーチャルオンリー株主総会の開催を選択できるようになる(2021 年の6 月から

✅具体的には、株主総会の招集の際、「場所」を決定しなくても良くなる
 ※この「場所」というのは、株主が現実に株主総会に出席することができ  る場所、すなわち物理的な総会会場を意味しているとされる

2020 年の定時株主総会では、コロナ対策のため、
・物理的な総会会場を用意するとともに、オンラインでの出席も認める 「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」
・インターネット等の手段により審議等を傍聴することができる「ハイブ リッド参加型バーチャル株主総会」 
を活用した会社も一定数見られました。

※後者については、株主が出席したことにならず、あくまでもサービスとしてのバーチャル

なぜ物理的な総会会場を用意しなければならないかというと、株主総会の招集の際、「場所」を決定しなければならないという条文があるためです。この「場所」というのは、株主が現実に株主総会に出席することができる場所、すなわち物理的な総会会場を意味しているとされます。

会社法
(株主総会の招集の決定)
第298条 取締役…は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所   ←バーチャルオンリー総会の障害
二 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項

しかしこの度、改正産競法66条により、この「場所」という部分について、「株主総会を場所の定めのない株主総会とする旨」と条文の読み替えがなされます。

これにより、物理的な総会会場を確保することなく、バーチャルオンリー総会が可能となります。



▮ バーチャル総会への株主・投資家の反応は:グラスルイスの意見を例に

このような読み替えをするには定款変更(株主総会特別決議が要件)が必要なのですが、それに対する株主・投資家の反応はどうなるでしょうか。

日本においては、総会出席者に「おみやげ」を配るという慣習があったり、経営者の生の説明を聞くことで理解が深まったりするという点で、株主の権利の縮減になる側面はありそうです。

セミナーでは、議決権行使助言会社のグラスルイスの見解が紹介されました。「リアルな株主総会と同等の株主権保障とその明確な開示を賛成の条件としている」とのことです。

ここで詳しく原文に当たってみると、バーチャル総会のメリットは、①コストや環境負荷の削減 ②株主の参加機会の拡大があると言っています。

他方でそのデメリットは、株主権の制限の可能性にあります。

その解決策として、以下の点を明示することであると主張しています。
・質問の受付方法や時期、それに対する回答の基準や回答の公開方法
・利用可能なTechnical supportについて

そして、このような明示が不十分である場合には経営者を解任するべきであると述べています。

Glass Lewis’ Updated Approach to Virtual Meetings Globally

In a world of increasing interconnectivity and digitalisation, shareholder meetings have, until recently, largely remained an analogue affair.
...
There are two clear benefits for companies and their shareholders of meetings that allow for virtual attendance. Firstly, there are generally substantial cost-savings, which range from financial savings on venue hire, catering, and accommodation, to the reduced environmental impact of fewer journeys. Secondly, shareholders that would have in any case been unable to attend the meeting in person or be represented by a proxy are generally afforded increased abilities to participate in the meeting.
...
where in-person attendance is not permitted, there exists the potential for the substantial restriction of shareholder rights unless companies develop and disclose clear procedures to enable the participation of shareholders and allow for engagement with the board.

Virtual-only Meetings
Glass Lewis believes that virtual-only meetings have the potential to curb the ability of a company’s shareholders to meaningfully communicate with company management and directors. However, we also believe that the risks of a reduction in shareholder rights can be largely mitigated by transparently addressing the following points:
-When, where, and how shareholders will have an opportunity to ask questions related to the subjects normally discussed at the annual meeting, including a timeline for submitting questions, types of appropriate questions, and rules for how questions and comments will be recognised and disclosed to shareholders.
-In particular where there are restrictions on the ability of shareholders to question the board during the meeting – the manner in which appropriate questions received prior to or during the meeting will be addressed by the board; this should include a commitment that questions which meet the board’s guidelines are answered in a format that is accessible by all shareholders, such as on the company’s AGM or investor relations website.
-The procedure and requirements to participate in the meeting and/or access the meeting platform.
-Technical support that is available to shareholders prior to and during the meeting.
...
In the most egregious cases where inadequate disclosure of the aforementioned has been provided to shareholders at the time of convocation, we will generally recommend that shareholders hold the board or relevant directors accountable.

やどかりからすると、グラスルイスの意見はいかにも全うに見え、日本の会社が意識すべきポイントを示唆してくれているのではないでしょうか。

個人的には、兼業個人投資家は株主総会に出席できる機会が広がるので、バーチャル総会は歓迎です。
また、リアルの場よりも、ウェブのプラットフォームやZoomのチャットですと質問のハードルがかなり下がると感じます。ですので、議案や中期経営戦略について気になった点は、積極的に質問できると思います。

コロナの影響がなかなかおさまらない現状であれば、

ちなみに、電磁的開示措置という、招集通知や株主参考書類のオンライン開示を認める会社法改正がなされました。以前未施行ですが、情報の早期開示とコスト削減をメリットとしています。デジタルデバイドにも配慮し、株主に書面の請求権もあります。

これまた個人投資家のやどかりはどんどん進んでほしい変化です。招集通知や株主参考書類の印刷代・郵送代は無駄だなあと思ってしまいます。環境にも負荷がかかります。どちらもコーポレートウェブサイトで開示されているので、そちらで見た方が見やすいですし。


▮ 質問のチェリーピッキングの問題

チェリーピッキングとは、発言の選別を言います。
取締役は、オンライン参加の株主の質問を選別して、会社にとって都合のよい質問のみに回答する可能性があるというものです。

先ほどのグラスルイスの意見でも、質問に対する回答の基準や回答の公開方法の開示が重要であるとしています。

rules for how questions and comments will be recognised and disclosed to shareholders.

セミナーでは、回答しなかった質問・意見に関する開示をすることは検討に値する、と論が進みました。

また、質問の不正削除・編集がないことを担保するために、質問の1つ1つををブロックチェーンに紐づける(指紋を取る)ことも技術的には可能らしいです。

やどかりは、「経営陣がチェリーピッキングして、都合の悪い質問は編集・削除できてしまうのではないか」という株主の懸念を排除するために、こうした技術的な担保があるといいと思いました。

編集・削除が不可能なバーチャル質問データと、株主に公開する質問とを見比べて監査する役割を、監査役に負わせるのもありではと思いました。


▮ 所感

日本の株主はご高齢の方が多いのも事実で、リアルでの場の雰囲気(経営者が襟元を正す)を重視したり、デジタルデバイドの問題もあったりします。
そのため、バーチャルオンリー総会の導入には時間がかかるかと思われます。

しかし、リアルの総会では、総会の会場確保のコスト(実際に参加する株主数の10倍程度のキャパを取ることも多いそうです)や経営陣のリハーサルによる時間の確保が必要となります。

やどかりとしては、こうしたコストや時間を節約し、
かつ経営陣の脳のワーキングメモリ
企業価値向上に使って欲しいと考えます。

バーチャルオンリー総会が、「産業競争力を強化」することを目的とする
産競法(同法1条)に規定されたのも、そういった意味があるかと思います。

まずは産競法改正案の審議という段階ですが、バーチャルオンリー総会の導入が進むことを願っています。


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