BtoB展示会を効率化する施策として、名刺・商談メモ収集アプリをGPTで作ったよ
こんにちは、サカタ(@sea_webm)です!BtoBマーケティングの中で、特に短期間で多くのお金がかかるけど成果も多い施策が「展示会」です。本記事では、オペレーション最適化、展示回後に迅速に顧客フォローするための施策を解説します。
展示会施策における課題
ビックサイトや幕張メッセで行われ、課題をもった方が数万人訪れるビッグイベント。ここに向けて大きな労力をかけているマーケターも多いのではないでしょうか。
そのなかで私が課題として感じていたのが商談メモ(アンケートとも)です。名刺の裏に商談内容を書く会社もあれば、紙に書いてる会社もいるかと思いますが、いずれにせよ名刺と商談内容を当て込む必要があり、どうしても商談フォローリストが出来上がるのが遅くなってしまいます。
顧客フォローまでが遅くなるということは、それだけ成果に繋がるまでが遅くなることに直結します。また、展示会に行った人はわかると思いますが、様々な会社の説明を聞くので、フォロー連絡が遅いと「そもそもどんな会社だっけ・・・」と忘れてしまいます。
そんなことから、できるだけ早めに連絡を入れるのが展示会の鉄板です。
本記事では、展示会のフォローをできるだけ早く行うためのリストを作るべく、アプリを作ってAIまで活用した施策の紹介をします。
特に課題となったのが商談メモ
システムを作るに当たり、これまでの課題を洗い出ししました。
これまでの私の会社のシステム
展示会で説明後、もらった名刺は商談メモと通し番号で結合させる
商談メモは手書き→あとからエクセルに文字起こし
名刺はWantedly Peopleでスキャン
Wantedly PeopleからCSV出力し、文字起こしした商談メモと結合
と、大変な手順を踏んでいました。
課題①紙のメモを文字起こしする手間がすんごい
たくさんの来場者がいるなかで急いでメモをするとどうなるか?そう、字がとっても汚くなります。国会の速記のような、熟練の技がなす高速メモ術によって文字起こしをする側の負担が大変高まります。
課題②名刺スキャンと紙のメモ突き合わせの2度手間
名刺と別に紙のアンケートを用意していた場合、この名刺の人がこのアンケート、と突き合わせる作業が発生し、これまた大変です。
この2つの課題により、商談リストが上がってくるまでに長い時間がかかってしまうだけでなく、文字起こしに多くの工数を割く必要がでてきてしまいました。
そうだ、全部デジタル化しよう
上記の課題から、少なくともメモを手書きからデジタルにする必要があると考え、まずはGoogleフォームに商談メモを書いてもらう形にしました。
この形式であれば、①の課題である文字が汚くて読めない、それを文字起こしする手間が発生する、という部分は解決できました。
一方で問題として、結局②の突き合わせ作業が必要になるという点は解決できませんでした。Googleフォームでは、直接カメラを起動して写真を保存する機能はありません。そのため、②の課題を解決できる手段を探していました。
自分でアプリを作ることも考えましたが、安定して動作する保証ができなかったので選択肢からは除外しました。展示会中に使えなくなることだけは避けたかったというのも理由として含まれています。
AppSheetの無料化
そこで選択肢に上がったのが、Googleが提供するローコードアプリ作成サービスの「AppSheet」です。
AppSheetは2023年8月から、大体の機能が使える「Core」ライセンスがGoogle Workspaceに付帯するようになりました。
これにより、Google Workspaceを仕事で使っている会社で活用できるようになりました。
AppSheetは入力系に強みを持つローコードプラットフォーム
アプリ+シートでAppSheetということで、これまでスプレッドシートで横に伸びるように入力していた項目を、アプリで入れちゃおう、というものになっています。
似たものにGoogle Formsがありますが、コンセプトが異なります。
入力した項目を見返すことができる
関数で自動入力する
画像を付与できる、OCRできる
アプリをホームから直接起動(PWA的な機能)
など、より多彩な機能を持っています。
より詳しく機能を知りたい方はこちらの動画がおすすめです。
商談メモリスト化アプリの全貌
いよいよ、商談メモアプリの全貌について説明します。
以下のような構成になっています。
①営業はAppSheetで、スマホから名刺のスキャンやアンケート項目を記載します。
②アンケート項目はスプレッドシートに記載され、AppSheetによって名刺は文字起こし(OCR)されます。
③OCRデータが入ってきたらGoogle Apps Script(以降、GAS)を経由して、OpenAI社のGPT-3.5 Turbo APIを叩きます。このとき、JSONモードを使用しています。
④JSONデータをGASでパースし、各セルに記載します。
これが完成形になります。
実際に動かしてみる
Canvaで適当な名刺を準備してみました。この名刺を展示会で受け取ったとして動かしていきます。
展示会現場側の操作
実際の画面はこのような形です。展示会に参加している営業は、この1画面で完結します。
まずはアプリを起動したら「名刺を撮影」を押して、写真を撮影します。
すると、下にOCR結果が出てきました。現場では操作できませんが、適切に文字起こしがされているかどうかを知るために入れています。
このほか、紹介した製品や次回アクションを選択式で設置しています。
また、自由記述のメモ欄に具体的な内容を記載します。
特にここの次回アクションは、顧客フォローを行うために非常に大切になってきます。営業サイドと協議して適切な内容を設定しておきましょう。
このようにポチポチ入力していくだけで、内容が自動でスプレッドシートに転記されるのがAppSheetの基本機能です。
次に、このOCR結果をGPT-3.5 Turboで解析します。
自動化で名刺を文字起こしする
新しい行が追加されたときにトリガーによって、OCR結果をJSONにします。
プロンプトは以下のような形にしました。
GPT-3.5は英語で指示すると英語で返ってくることがあったので、日本語会社名、フルネーム(姓名の漢字)のように指示しています。
逆に、電話番号は ℡00-1111-2222(代表番号) のように無駄な情報が入り込むことを避けるために、英語で指示し、type:numと記載しました。あくまでおまじない程度です。
JSONをパースする
JSONデータで出てくれば、あとはそれぞれ分解するだけです。
パースして各列にいれるようなコードを書けば、この通り分類できました。
このとき、電話番号の列をスプレッドシートの設定で書式なしテキストにしておかないと先頭の0が消えますので注意してください。
完成した営業リスト
ここまでの処理を1シートでまとめると、このような形になりました!
展示会で受け取った情報が緑で記載されており、展示会後にフォローする担当者(インサイドセールスなど)はオレンジ欄を記載します。
これにより展示会中にどんどんリストが作成されていきます。
GASで様々なAPIを使用することができるので、コードの理解さえあれば、この内容のうち緑の部分をHubSpotやSalesforceに入れ込むことも可能です。
このシステムの利点
ほぼ自動でリストが完成する
なによりも大きなメリットが、リストが自動で完成する点です。これまでのリスト作成と比べて、大幅な工数削減を実現しました。
ただし、精度は100%ではないので、ダブルチェック体制を敷いています。それでも展示会当日中にチェックできるのでほとんどタイムラグなしでリストができあがります。
コストがほぼ0
会社、営業活動としては、コストを減らして利益を増やすのが鉄則です。
このシステムでは、コストがほぼ0になっています。
このシステムのうち、お金がかかるのは、GPT-3.5 TurboのAPI使用料のみで
す。私の場合、1展示会あたり0.1ドル以下で処理ができました。
余談ですが、GPT-3.5 Turboの単価は100万トークンあたり0.5ドルに対して、Anthropic Claude 3 Haikuは0.25ドルと半値なので、Haikuのほうが性能、コスパ共に良いはずです。(2024年5月現在)
営業サイドも結構楽
紙からデジタルに移行するにあたり、1アプリで完結することを重視していました。ITリテラシーの問題や、複雑な手順を展示会中に踏むことはまず間違いなく無理だろうというのは、私が営業として展示会に立っていたときから思っていたことです。
その点、AppSheetはiOS、Android問わずホーム画面から直接起動できるので誰でも使いやすいです。
ローコードなのでUI崩れも起きず、かつMaterial Designベースなので親しみやすいレイアウトになっており、スムーズに浸透させることができました。
入力漏れが0
すべて入力必須にすることで、そもそも入力漏れがなくなったのも仕組み化として成功した点です。
紙のメモでは、フォロー時期や具体的な商談内容が書かれていないことが多くあったので、項目は減らしつつも最低限の情報は必ず入れるようにしました。
改善点
課題としているのは、OCRの部分です。精度面では「まあまあ」といったところで、よくあるのが漢数字の一をハイフンと読んでしまったり、漢字が中国語になってしまう問題です。
SFA、CRMにいれる場合死活問題ですので、目視のダブルチェックと手直しが必要になってきます。それが500件、1000件となってくるとまだまだ大変なのでなんとかしたいです。
外部のOCRライブラリを使う、GPT-4V(画像認識)でやるなどありますが、どちらもコストが人間以上にかかります。
機械学習などで自社のライブラリを持っている名刺管理アプリに勝てないのがこの点だと思います。
また、スマホを使う間もなくどんどん人が来る大型展示会の場合、入力する時間が取れないという課題も出てきており、来場者数から展示会担当者を何人アサインするかも大きな課題として現れています。
これまでの紙メモでも同様のことが起こっていましたが、アプリを通じて顕在化したのが、かえって良かったです。
こんなシステム組めないよ!という方へ
なんと、このシステムよりも良いSaaSがあります。「immedio Forms」です。
実はimmedio Formsのコンセプトにインスパイアを受けて簡易的に作成したのが今回のシステムとなっています。
immedio Formsは営業にありがたい機能が沢山搭載されています。
同じく1アプリで名刺スキャンからアンケート記載までできるほか、商談日程の確定までできるようになっています。
現地で日程を確定させて案内メールを送るまで出来るとのことで、名刺の手間だけでなく、展示会全体を成功させるためのツールとして洗練されています。
様々な面で展示会を効率的に成果へ繋げられるようになっていますのでとってもおすすめです(ステマではありません)。
なお、私の環境では、まずコストをかけずにできるだけオペレーションを改善し、その上で費用をかけていくのが正しい手順かな、と思っており現時点ではimmedio Formsは使用していません。ただ、低コストのAppSheet環境に課題が多いので、そのうち移行は必要だと考えています。
展示会をもっと効率的に成果に繋げていこう
ここまで、だいぶエンジニア視点で語ってきましたが、私自身はHTML、CSSぐらいしかわからないタダのマーケターです。
ここまでやりきれたのは、ChatGPTに聞きまくったからでした。
コストがかかる展示会施策を、より効率的かつ効果的に運用するため、このような取り組みを行いました。
実際、これによって、手書きで商談メモを書き、それを手動文字起こししていたときと比べて3日早く対応できるようになりました。(そもそも、以前は速度感をもってリストを作ろうという気すらなく、そこを改善するところからでしたが)
私自身が営業で展示会にいたときは「目先の案件数を増やすためにとりあえず名刺をもらいまくろう」「どんどん前に出て通行人に食らいつこう」のような、自身の目標数値を達成するための思考でいましたが、広告宣伝費の管理を任されるようになってからはもっと広い視野で施策を考えるようになりました。
営業はメモが正確に記載されることで少しでも成果に繋がりやすくなり、インサイドセールスや事務方は作業工数が減ることで別の仕事に時間を使うことができるようになる、ということで組織全体の最適化がちょっとでもできたのかな、と思っています。
本施策を通じて、BizOps的な部分の面白さに触れたので、自分の仕事だけでなく組織全体が成果を挙げられるような取り組みをもっとできたらな、と思いました。
もしこの施策がちょっとでもいいなと思ったら♥のいいねとコメントをお待ちしています!
最後までご覧いただきありがとうございました。 サポートしていただけると、今後の活動の動力源になり、タイピングが10%早くなります。