![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/113859648/rectangle_large_type_2_1cb29da36fa7c8617c7a30be5eb8da24.jpeg?width=800)
”Quatre Saisons” -キャトル セゾン-
再会・出会い 1
カランコロン……と扉のドアベルが鳴った。
扉に取り付けられているアイアンベルは猫の形をしており。おしゃれだなと桜斗は思った。
室内に入った瞬間冷え切っていた体は暖かさを思い出し、ふぅ……と一つため息が出た。
「いらっしゃい、桜斗くん。寒かったでしょう。好きな席に座ってね。あ、でも……そうはいかないかもね?」
「え?」
と声を上げて室内を見ようとした瞬間だった。
「桜斗」
聞き覚えのある声だった。
はっ……と息を飲んだ。
そこには黒髪の二人の青年がカウンターに座りながら体をこちらを向け手を振っていた。
「久しぶりだね、桜斗」
「俺たちのこと覚えてるか?」
「ぁ……」
声が出ない。
喉が震える。
あぁ、会いたかった人たちだ。
「そーちゃ……あっくんだ……」
「はは、またその名前で呼んでくれるんだね……さっくん」
「こっちへおいで。寒かっただろ」
そう言ってカウンターに並んで座っていた二人は手前に座る青年が横にずれ、二人の間に一人分の空席を作った。
横へと移動したついでに桜斗が脱いだ上着を受け取り、ハンガーラックへ掛けに席を立った。
「ありがとう、あっくん。へへ、二人に会えて嬉しい。こんなにも早く会えるなんて思わなかったよ」
「おじいさんから連絡もらってたんだ、こっちの高校に来るって話を聞いてね。丁度俺たち二人もこの高校に通ってたし、近くのアパートに住んでるよって話をしたからさ」
「桜斗のことが心配なんだよ。でも俺たちがいるって分かったらよろしくってさ」
「そっか……おじいちゃんさ、ずっと……こっちに来たいっていうの反対してたから……」
きっと、いい思い出がないからなんだと思う。
とぽつりと零した桜斗の言葉を二人は聞き逃さなかった。
二人は互い目が合って、一人は視線を反らし、一人は目を閉じた。
「こーら、三人とも……?折角会えたのに暗いわよ?引っ越ししてきて初日なんだからもっと笑わなきゃ!」
こつん、と桜斗の目の前に置いた水入りのコップの音で、三人はハッと現実に引き戻された。
「さて!よーく知ってるかもしれないけど、ここでは先輩と後輩だぞ!改めて師走聖だよ。よろしくね、さっくん」
「皐月颯真だ。分からないことがあったら何でも、いつでも聞くんだぞ。桜斗」
「うん、ありがとう。えっと……呼び方は今までと同じでいいのかな?」
「うん、久しぶりにそう呼んでくれて嬉しいよ。俺たちもそうくんって呼んでるし」
「あきの方が呼びやすいからな」
と、颯真は立てかけていたメニュー表を開いて桜斗の前に置いた。
見ると日替わりのメニューが書かれていた。
「二人は何食べたの?」
「俺たちは日替わりプレートのBセットだなー」
「あ、じゃぁ俺もそれにする」
「好き嫌いはないか?」
「うん、なんでも食べられるよ♪」
「……だ、そうですよ風音さん」
「あら、えらいわね!桜斗くん!食べ盛りの子がいるとこっちも作り甲斐があるわ♪」
カウンターにいた風音が腕まくりをして横でお皿を洗っている優しそうな男性の背中を……。
しっかり作ってね!とぽんと叩いた。
「あはは……頑張ってお口に合う料理を作りますね」
眼鏡をくいっと上げながら両手を洗い始めた。
「大丈夫だよ!優和さんの料理、俺大好きだよ!」
「あはは、いつも聖くんは残さず食べてくれるから嬉しいよ、ありがとう」
「桜斗、優和さんと風音さんはご夫婦でこのカフェを運営なさってるんだよ」
「え、そうなんですか?ってことはアパートの……?」
「そうだよ!」
にこにこと笑いながら聖はケーキを頬張っていた。
「あの、今日からお世話になります。卯月桜斗です!」
と桜斗は椅子から立ち上がって優和にペコっと礼をすると。
数回瞬きをしてふにゃっと笑った。
「よろしくね、桜斗くん。礼儀正しいいい子だね」
「そうよー、さっきも元気に挨拶してくれたわーかわいい子が増えて私も嬉しいわ」
「また夜もにぎやかになりそうだね」
夜?と桜斗は首を傾げていると。
聖はあることに気づいたようだった。
「あれ?もしかして何も聞いてない?」
「え?」
「基本そこのアパートに住んでる人たちは、大家さん兼ここのオーナーさんがカフェで夕食提供してくれるんだよ」
「もちろん、用事なんかで毎日は無理でもまぁ…夜はここで食べることが殆どだな。」
「で……でも、お金は……?」
大丈夫よ、家賃からその分込みでいただいてるから。と風音はカトラリーケースを持って横に現れた。
「もちろん、夕食だけじゃなくてお昼やおやつもここに来てくれたら食べられるからいつでも好きな時にいらっしゃい?」
「そ、そこまでしてもらって……いいんでしょうか?」
だらだらと汗をかく桜斗に、ぽんと頭に手を置きゆっくり宥めたのは颯真だった。
「安心しなさい、俺たちもずいぶんお世話になってる。桜斗だけじゃないよ」
「そうだよ、冬場とかさ~寒いところからここに入った時なんて、めちゃくちゃ暖かくて……何だろう。心まで温まるというか……ほっとするんだ……」
「あらあら、嬉しい事を言ってくれるのね聖くん」
クスクス笑いながら風音は厨房へと戻っていった。
それと同じタイミングでまた扉のドアベルが鳴った。
to be continued
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?