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呪われし聖なるアイテム




「あ~暇だな~夜ご飯にはまだ早いし~買い物しに行くほどのやる気もないし~」

「赤とおろが家庭菜園中」

「え、まじ? じゃあ遊んでもらおうかな?」


 いつものように暇を持て余しナナに覆い被さりながらだらだらごろごろしていると、特定の若者1人にとっては嬉しくはないであろうエスクベル神の啓示が。


「林の拠点の畑も最近は見てないしなんか変わってるかな~」


 林の拠点だけではなく城壁の外の農地も見ていない、が正しいけども。


「でもサンリエルさんいないの珍しいな~」


 だらだらと独り言を呟きながら人と会う用の膝小僧をきちんと隠す服に着替えていると、保護者に「3人分は各国大使館職員との定例会議と晩餐」と教えてもらった。

 晩餐! 響きかっこいい。サンリが珍しく領主っぽい事してる。


「よしできた、じゃあ神の使いに逆らえない人間に暇つぶしの相手でもしてもらうか~」

「キャン!」
「ぴちゅ!」
「キュッ!」

「いや、君らは張り切らなくていいよ」


 張り切らんといて。


 林の拠点に移動し、窓を開けて「おぉい」と呼びかけると「はい!」とハツラツ100点の返事が。今日もカセは元気そう。
 そして少し遅れて「は、はい……!」と聞こえて来た。今日もアルはアルで元気そう。


「ちょっと暇なんで御使いの暇つぶしに付き合いません?」

「もちろんお付き合いします!」


 さっと姿を現したカセルさんにお願いすると即答された。ですよね。


「何して遊ぶかまだ決めてないんでとりあえず座って座って」


 無計画にも程があるがまあカセルさんがなんやかんやしてくれるだろう。


 のんびりと、マッチャが飲み物の準備をしているのを軽く邪魔になりながら見守っていると、ダクスの唸り声とアルの悲鳴、そしてドサッという何かが倒れた様な音が聞こえてきた。


「え、なになに」


 ぱっと騒がしい方に視線を向けるとアルバートさんが床に倒れ込んでいた。


「え、え、大丈夫ですか?」

「あ、は、はい! あ、あの、申し訳ありません……!」


 こちらにもダクスにも謎の謝罪を繰り返すアルバートさん。


「何があったの?」


 なんとなく予想はついたのでエンとナナに質問する。
 きっとおそらく小さなモフな奴らが何かをしたんでしょうね。


「コフッ」

「ふんふん、ダクスがアルバートさんの足元にいて」

「クー」

「アルバートさんが椅子を引いて座ろうとして――」

「ぴちゅ」

「――ダクスに椅子をぶつけ?」

「キュッ」

「じゃなくてぶつかるところ――――だったの?」


 途中信憑性に欠ける証言が混じってきたので最後はボス先輩に向けて質問すると、真実は『ダクスが無意味な足元ウロウロの最中、アルバートさんが足元の守役様に当たらないよう慎重に椅子を引いていたところダクス守役様が被害者ぶって椅子の脚に当たった風な声を上げたので慌てて転倒』との事だった。


 冤罪中の冤罪。


「……ダクス、こっち来て」

「キャン」


 怖かった、じゃねえわ。女子か。


 近寄って来たダクスを持ち上げ抱っこ高速揺り籠で激しく揺する。


「キャキャキャン」

「ダクスさん、もうしませんか?」


 反省しましたか。


「キャン!」

「よろしい」


 わかったと言ってはいるが楽しそうなので罰になっているのかはわからないが悪は罰したぞ、アル。


 こちらをキラキラしい目で見ていたカセルさんとオロオロしているアルバートさんに近付く。


「アルバートさんいつもいつもいっつもすみません」

「あ、いえ! 私がもっと気を付けていれば……!」


 だめよアル、足短め守役様の肩を持っちゃあ。


 まったくもうの気持ちで、悪い顔で偉そうに足元バサバサウロウロしている小さい組を睨みつけていると、アルのウエストポーチが汚れてぼろぼろになっているのが目に入った。しかもなんか……え? 破けて……え? さっきの転倒のせい?


「アルバートさんすみません。それ破けちゃいましたね」

「え?」


 私の視線の先ポーチを慌てて確認するアルバートさん。


「これは元々こうなっていたのでお気になさらずに!」
「カセっおまっ……!」


 代わりに答えるカセルさん。


「元々ですか?」

「随分古くなっていたのでそろそろ新しいものに交換しようとしてたんですよ~」

「ははあ。なるほど」

「母親が作ってくれるって言ってるのにアルバートは断ったんですよ。――何を恥ずかしがってるんだか」
「お前……!」

「家に新しいものが既にあるのでちょうど交換できて良かったです!」
「おま……!」

「ははあ~」


 なんと。ママの愛情刺繍名入りポシェットアゲインが誕生するところだったのか。見たかったなあ。残念。ポシェットじゃないけど。

 そして本人抜きで話が進むこの状況。さすが幼馴染。


「あ」


 ここで突然私にも素晴らしい啓示が。


「――あのお」

「はい!」
「は、はい……!」

「あのお、うちの守役が迷惑をかけてますし、あのお」
「あのおがうっとうしい」


 知ってますー。
 でもちょっと言いにくいっていうかあのお。


 天井をひと睨みしてから話を続ける。


「突然の御使いお願いを思い付いたんですが聞いてみます?」

「もちろんです!」
「はい……!」


 だよね。


「今、っていうか、さっきというか、自分で何かを作ってみたい時期が始まったっていうか、そのような気分っていうか」


 惑星に頭をゴシられてるけど負けるな私。


「あのお、先程の守役お詫びとして、既に新しいものがあるのに申し訳ないんですが、アルバートさんに御使いがお手製のものを差し上げたいっていうか? ちょこっと刺繍とかして手作り感味わって楽しみたいなあ、なんて? 加護的な?」


 まじでクダヤ人以外誰も喜ばない事請け合いな提案。
 しかしウエストポーチ作ってみたい。刺繍の正しいやり方知らんけど。


「もし気に入らなかったら私が手を出していない別の新しいものをご用意しますのでなんやかんや処理してもらって、あ、そういうのクダヤの方は御使い相手にできませんよね。――うん、収納の奥深くにしまい込んで、何年後とかに価値が出るかもしれないので財産として持っててもらってもいいので……あのお……」
「100年経ってもいらない」


 おい。


 惑星おい。


 知ってたけどおい。


「よろしいのですか!? ぜひお願いします!」
「なんでお前が……!」


 なんて良い子……。


「あの、アルバートさん、断れないでしょうけど、御使いの自作熱の高まりに付き合ってもらえません?」

「ひっあ、も、もちろんです……!」


 こらそこ、そこの、足元ウロウロ組!
 険しい顔で脅すんじゃないよ。まったく。
 あ、白フワもきた。話の流れわかってないのに脅しに……まあアルの顔に張り付いてるだけだから大丈夫か。


「えー、それでは……どうやって作ればいいのかな? アルバートさんの好みの色とか素材あります?」


 布とか適当に縫い合わせればいいのかな?
 防御力は別途君らの神に付与してもらうから安心して。破れたりしないよ。たぶん。ベルトも用意して――

 ……あれ? なんか思ったよりめんど……大変そう?


「あ、あの…………色と素材……」


 アルはアルで急に話振られて悩んでるな……。
 しかもこっちのやる気が早々に3割しぼんでてごめん。


「ヤマ様、まず始めにアルバートが既に用意しているもので刺繍の練習をしてみる、というのはいかがでしょうか」
「は、はい! それでお願いします……!」

「あ、それいいかも」


 さすができるエルフ。やる気がしぼんだの見破られたかな?
 めんどくさい女子みたいになってるな。情緒不安定御使い。


「じゃあ刺繍糸? を用意すれば――――チカチカさんが好きです!」


 テーブルの上にはさっきまでなかった色とりどりの大量の刺繍糸と裁縫セットが。
 保護者にラブ。フォールとインとラブ。
 しっかしグラデーション配置で目にも楽しいなこれ。


 よし、惑星保護者にも絶対作ろう。100年が無理でも1000年くらい経てばさすがに惑星も欲しがるでしょ。可愛い娘の作品だし。


 保護者にありったけの愛情(目パチパチ)を示していると、カセルさんが真剣に刺繍糸を見つめていて、お、こっち見た。


「ヤマ様、私に守役様のお姿を刺繍するお許しを頂けないでしょうか」

「もちろんどうぞ」
「キャン」


 いや、おそらく君の刺繍じゃないから安心して。キイロだよ、キイロ。
 それにしても風の一族は刺繍もできるのか。すごいな。


「ありがとうございます! それでは急ぎ必要なものを準備してまいります。アルバートお前のも持って来るから」

「え、お、おい……!?」


 止める間もなく静かにあっという間に外に飛び出してしまったカセルさん。
 アルが1人残され……かわいそうに……。


「アルバートさん」

「は、はい……!」


 涙目なのは見てないよ。


「どの色が好きですか? アルバートさんも守役の刺繍にしていいですか?」


 仲良し幼馴染感出てていいよね。お揃いウエストポーチ。2人は仲良しとはちょっと違う気もするけど。
 アルは色選択で気がまぎれますように。


「キャン」

「いやだあ? そもそも誰がアルバートさん転ばしたの! はい、ダクスの刺繍にします決定です」

「キャキャキャン!」

「うるさっ」


 うるさいしアルに牙を見せるんじゃない! 可愛いだけ!





 ずっと騒がしいダクスをモサレオン標準装備の抱っこひもに収納しウロウロしないように私の体に縛り付けたまま、刺繍用のダクスの絵を描いているとカセルさんが戻ってきた。早くね?


「お待たせ致しました」

「いえいえ早かったですよ」


 良かったねアル。恐怖の時間が終わったよ。


 そしてリュックから次々と刺繍糸を取り出すカセルさん。
 うん、やっぱりなんとなくキイロの配色だわ。

 そして、こちらですと手渡されるアルのウエストポーチ。本人からじゃないのがなんとも。


「これかあ~」


 ダクス色の茶色でも埋没しないな。よしよし。


「アルバートさん、この辺に刺繍してもいいですかね?」


 さすがに遠慮して目立たない隅の方を指差す。
 こちとら刺繍ビギナーだぜ?


「は、はい、もちろんヤマ様のお好きになさってください……!」

「うむ、まかせておれぇぇいぃたたいたたすんません」


 調子に乗り過ぎた。


 よし、気を取り直して手作るぞ! 
 ひゅう~! 丁寧な暮らしひゅう~!


「あ、カセルさんその糸少し貸してください」

「はい!」


 その前に1人だけひいきも良くないからカセルさんにも祝福パフォーマンスを。パフォーマンスっていうかキイロの角にカセルさん持参の刺繍糸の束を引っ掛けただけ。


「ぴちゅ」


 謎の南国鳥感出てるな。羽毛の派手な、自己主張しかしてない鳥たちのあの感じ。すごく悪い顔してるキリリ鳥だけど。


「あ! キイロちょっと首振らないで!」

「ぴ」

「ごめんごめん。でもカセルさん大喜びだから」


 はにかみ涙目頬染めだから。
 同じ涙目でもこうも違うとは…………アルいつもごめん。


 そしてキイロが振り落とした刺繍糸をマッチャから受け取りそっと捧げ持ったまま感動してる風の若者エルフ。良かったね。




 そこからはお互いに作業に集中する良い時間だった。
 アルはずっとそわそわしていたが、白フワの遊び相手を真剣に務めてくれて助かった。努める、の方が正しいかしら。
 時々ロイヤル守役様に何か指導されてたっぽいけどごめん、御使いは刺繍に夢中になっちゃってた。

 途中カセルさんの刺繍に「プロかよ」という感想を抱いたりしたが楽しい時間だった。


 私の刺繍ダクスは自分でもお気に入りでうまくできたと思う。素人丸出しのやつ。刺繍の先生が幼児に向ける笑顔で頑張りましたの花丸くれるやつ。
 しかしながら自作体力はダクス刺繍でゼロになったので、『ウエストポーチ1から手作り丁寧な暮らし』はまたにしようと思う。覚えてたら。


 そして、何故か途中参加して来た小さい方達のダイナミック芸術の余波でアルのウエストポーチに虹色ラメインク、神の染料が汚れのように飛び散ってしまい、それを絵の具でなんとか誤魔化そうとし、しかし神の染料が絵の具で隠せるわけもなく、どんどんわけのわからない作品に仕上がってしまい結果的に『神カラーウエストポーチ』として拝謁許可者に正式に納品する事に。

 神の染料隠しがだんだんめんどくなってきたからさ。しょうがないよね。
 絵の具で隠そうとした時に保護者の呆れるようなため息と視線を感じたけどしょうがないよね。

 カセルさんには素晴らしいキイロの刺繍の横にカタカナで御使いが『キイロ』と刺繍した。とても簡単。プロ刺繍の横にとても不釣り合いなガタガタ刺繍がオン。大幅に価値を下げる行為。
 でもカセルさんは喜んでたからまあいいか。
 





 ここに、神の使いから拝謁許可者への一方通行お中元と言う名の正式な下賜品になってしまったせいで装備しないわけにもいかず、デザイン的には非常にアレながらも一生外せない呪われたウエストポーチが華々しく誕生してしまった。





ダクスウエストポーチ - コピー








 カセ、アル、ごめん。
 それ惑星の防御力アップ効果ついてるから一生耐久値MAX維持で壊れないと思う。
 君らの上司には白金貨専用ポーチでも作るから。いつか。それまで圧に耐えて欲しい。






 ほんとにごめん。







呪われし聖なるアイテム誕生秘話おわり



LOVE&PEACE&WORLD&MOFU