見出し画像

心に残っている言葉

22歳で社会人になり、現在44歳。

社会人として1番重みのある言葉を掛けてもらったのは、社会人になってから僅か2か月後。

現在に至るまで、これ以上、心に残っている言葉はない。

「もしお前がそのパソコンが分からないっていう気持ちを持ち続けたまま、パソコンのスキルを身に着けることができたとしたら、それはお前にとって大きな武器になる・・・」

私は社会人になったとき、パソコンのスキルが低かった。致命的なまでに。IT企業に就職したのに・・・である。

どれくらいできなかったか・・・

〇エクセル、関数使わず、数字を入力して、計算機or暗算で合計を出す。とてつもない時間が掛かり、そのうち先輩に気づかれる・・・何やってんの?聞きな!と激怒される。

〇 ごく僅かな文章整理を任されたのでWordで作成、普通の人の10倍、2時間以上掛かった成果物を名前を付けて保存、後から先輩に、「作ったの見せて」・・・と言われるも、どこに保存したか分からず?忘れて?どこに保存したか分からなくなっちゃったので、もう1度作っていいでしょうか?」と聞き、激怒されながら検索で探してもらう。

〇 2時間のホームページ作成の研修、途中からさっぱり分からなくなりついていけなくなる、質問するにもタイミングが分からず、そもそも質問の言葉が口から出すことができない。研修終了後、「分からないことあったら質問して・・・」と先輩に言われたので、正直に「全部分からないので全部最初から教えてください」と言って、激怒される。

・・・後100個は余裕で書ける。

今の自分が、当時の自分に教えてね・・・と言われたら、間違いなく途方に暮れる。
今では当時の先輩の気持ちがよく分かる。
そして当時の自分の気持ちもよく分かる。
なぜこういう状況になったのか、何となく言語化できたのはつい最近のこと・・・

当時の自分はいったい何がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。
うちの会社(IT企業)にパソコンできねー、ヤベーのが入ってきた・・・
入社3週間で50人規模の会社全員がそのことを認識する。

そんな時、「俺がこいつを育ててやる!」と名乗りをあげてくれた
部長がいた・・・今思い出しても奇特な人だ。
どんな育て方だったか・・・

※ちなみに会社の勤務時間は9:00~17:30。

「17:30になったら俺(部長)のところに来い!そして、お前が分からない
こと、パソコンでも会社のことでも何でも俺に聞け!俺が全部答えてやる!」

当然・・・有難迷惑だった。
なぜか・・・部長には本当に申し訳ないけど、

〇私はパソコンに関して何が分からないのかが分からない・・・なのでそもそも質問がまともにできない

〇私はパソコン分からねーと思いながらずっと1日過ごしている、結果、先輩・上司の目を気にしながらビクビク1日を過ごしている・・・つまり心身ともに疲れ果てている、だから早く帰りたいのだ

〇そもそも17:30以降って業務時間外じゃないか・・・

こんなこと、言葉にする資格がないのは当時の自分も分かっていた・・・
だから素直に従った。そして入社3週間目、毎日17:30~・・・地獄の質問タイムが始まる。

何が地獄って・・・だって、何が分からないか、分からない。
でもおかしな質問をして部長の機嫌を損なう訳には行かない。

なので、自分は心の底から知りたいわけではないけれど、部長が納得しそうな、気持ちよく答えてくれそうな質問を、毎日探す。

当時インターネットが出始めのころ(私の感覚では)。

会社内ではインターネット使い放題だった。
当時としてはとても恵まれた環境・・・(今なら迷わずググって適当な質問事項を探す)、Yahooの検索を使いこなすことができない私は、質問する内容を探すため、2日に1回くらい退社後(質問タイム後)本屋に行き、パソコンのコーナーで、質問するための材料をかき集めた。

いい質問ができたときは、部長は機嫌よく1時間以上お話(回答)してくれた。

逆に失敗しておかしな質問をしてしまったときは、ブチ切れられて1時間以上説教された(結局どっちに転んでも1時間以上居残り)。

「お前!それじゃ~今まで教えたこと、何にも分かってねーってことじゃねーか!」
な~んて詰められることが何度もあった。

「だ~から分からねーから聞いてんだよ!」
とは口が裂けても言えなかった。心の中では何度叫んだことか・・・

しかし、毎日の17:30は待ってくれない。
毎日毎日質問を準備し、自分にとって虚しい時間を過ごす・・・そんな毎日の繰り返し。
そしてだんだん部長も気づいてくる・・・全く手応えがない、と。
きっと部長には自信があったんだと思う・・・
俺が教えればどんなポンコツでも、1か月もあれば成長させられる!

しかし私は部長の想像を遥かに超えるポンコツだった。全く成長してないのが私自身が1番よく分かってる。
そして部長もいよいよ気づいて来た・・・
こりゃ本当にやべー、マジでどうしようもねー逸材だ・・・

そして部長なりに必死に考えてくれたんだと思う・・・

〇こいつのいいところは何だ?
〇この会社の他の奴らが持ってなくて、こいつだけが持っているものは
何だ?
〇こいつに自信を持たせられる方法、何かないか?

追い詰められた部長が、ある日、その答えを出してくれた。
その日の質問タイムの時間、私の質問タイムはなかった。

代わり部長が必死に考えた答えを教えてくれた。

「な~、お前はこの会社で1番パソコンができないよな。つまりパソコンができない奴の気持ちは、この会社でお前が1番分かっている。そしてその気持ちは、そのまんまお客様の気持ちそのものだってことだ。この会社の他の奴らは、パソコンはできる。でもだからこそパソコンのできない人間の気持ちが分からないんだ。つまりお客様の気持ち、みんな分かってねーんだ・・・だから駄目なんだよ。パソコンできないときの気持ち忘れちまってるんだ・・・自分たちもその時があったはずなのに・・・成長して昔のこと忘れちまってんだ。
でも、もしお前が、そのパソコンが分からないっていう気持ち、それを持ち続けたまま、パソコンのスキルを身に着けることができたとしたら、それはお前にとって大きな武器になる

22年経った今でも、鮮明に覚えているこの言葉・・・
でも、この言葉の本当の価値に気づくのは、
それから5年後のこと・・・
私の社会人人生に大きな影響を与えることになる。

その後も質問タイムは続いた。始めてから2か月、入社後3か月たったころ、部長の「今日で終わり・・・」という突然の言葉で、地獄の質問タイムは終わった。

質問は100個以上したと思う。

私から質問して部長に答えていただいたもので、役に立っているものはひとつもない。

今では何を聞いたかすら覚えていない。

ただひとつ、
”パソコンできない気持ちを持ち続けたままパソコンのスキルを身に着けろ”
この言葉は、22年の社会人人生の中で1番重みのある言葉だった。
そして恐らく今後20年以上働くであろう社会人人生の中でも、年々重みを増していく言葉だと確信している。

その後、この部長が起業するからと退職するまでの間、色々教えていただいたり、様々な言葉を掛けてもらったが、今現在も役に立っている教えはこの1個だけ・・・
でもこの言葉だけで十分、部長と出会えて良かったと心の底から思っている。私にとってその部長のたった1度のあの言葉は、私にとって1億円以上の価値のある言葉・・・そして今後もその価値は増していくと思う。

自分が社内SEでいる限り・・・



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?