正相と逆相

 PCの上だけで作業する環境が増えてから、あまり積極的に意識されることが少なくなってきた「波形の位相」。しかしネット配信などで位相があっていない音声を配信すると、環境によっては無音になったりカラオケになってしまったりと、じつは結構重大な事故につながることもあり、実際ネット配信の現場でもまれにこういった現象が起きている。

 今回は「位相」について考えてみる。


■そもそも位相とは

 音は空気の縦波で我々の耳に届くことはすでにご存知のことと思う。この縦波の強弱を連続的な線で可視化したものがいわゆる「波形」である。たとえば1KHzの正弦波(ピー音)の場合、下記のような波形が現れる。

正相

 モノであればこれで問題はない。ステレオの場合は、左右のスピーカーからそれぞれ同じ波形が再生されることで、左右のスピーカーの中央で音が聞こえるようになる。この「希望した位置から音が聞こえるようになる」ことを「定位」と呼ぶ。また、ここで現れる音の「音像」と呼んだりもする。

 つまりこの場合、左右のスピーカーから同じ波形が同じ音量で再生されることで、1KHzの音声がスピーカーのセンターに「定位する」ということになる。

 ここで、片方・・・ここでは右側のスピーカーのケーブルを+-逆に接続してみる。すると、右側のスピーカーからは左側のスピーカーと逆の形の波形が再生される。

画像2

 この時、左右のスピーカーから出力される波形はお互い打ち消しあうように空間に広がっていくので、1KHzの音声はスピーカーの中央に定位せず、音像の中心がはっきりしない音声となって再生される。この状態を「定位しない」等と呼ぶことがある。

■実際の音声

 ここで実際に正相と逆相の音を聴き比べてみる。原音のナレーションはモノラルトラックで録音されており、ここで公開しているファイルはLとRに同じトラックをコピーしたものである。なお逆相の音声は、Rチャンネルの音声の波形を上下反転させている。

正相

 位相が正しい(正相の)の場合、左右のスピーカー(またはヘッドホン)の中心に定位したナレーションが聞こえる。

逆相

 逆相となっているものは、声のする方向が曖昧になっているように感じられると思う。このように左右から異なった波形が再生されると、空間的に広がった音として聞こえるようになってしまう。

■モノラル化

 またステレオ音声で配信を実施していても、受信側がモノラル再生しかできない環境(スマートフォン内蔵のスピーカーなど)の場合、単純に左右の音声を加算してモノラル化している場合がある。ここで、先ほどの正相・逆相の音声をそれぞれ強制モノラル化した際の音声を聞いてみる。

正相(強制モノラル化)

 正相のステレオ音声をモノラル化すると、原音に比べて音量がやや大きく聞こえるようになる。これはもともと左右に分かれていた音声が一つにまとめられて「加算」されたためにおこるもので、原音にくらべておおむね3dBほど大きな音になる。

逆相(強制モノラル化)

 かえって逆相のステレオ音声をモノラル化すると、逆向きの波形が合成されるため「減算」としての効果が表れる。つまり、左右の音が打ち消しあってしまうため、結果として無音となってしまうのである。

■逆相になる原因

 配信現場などでミキサーを利用している場合、そのミキサーの2mix-OUTから配信用機器(パソコン等)に接続したオーディオインターフェースに音声を送る場合に発生することがある。原因としてはミキサーとIFを接続したケーブルのうち、左右どちらかの結線が間違っているといった場合におこる。例えばXLRケーブルを自作した場合など、本来「1:GND、2:HOT、3:COLD」としなければならなかった場合に、片方の端子だけ誤って2と3を入れ替えて結線してしまった場合などがあげられる。また市販品でもまれに存在するようである。

 さらに、XLRとステレオミニを相互に変換するケーブル等でも、XLR側とTRS側のピンアサインを誤って接続した(もしくは接続機器のよって目的が違うもの)場合などに出現する。この場合、ミキサーに接続されたヘッドホンなどでは音声は正常に定位しているため気が付きにくくなる。このため、目的とする再生環境から出る音を必ず確認するように心がけたい。


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