津和野プロジェクト第一段;一棟貸し切り古民家宿の裏側の話
こんにちは、たか(Takayoshi)と申します。現在、ソーシャルデザインパートナーズ株式会社(SDP:Social Design Partners)の代表取締役を務めるほか、東京工業大学の特任准教授として活動しています。
この度、SDPの設立時より続けてきた島根県のプロジェクトが、約5年間の年月を経てようやくプロジェクトとしてリリースする運びとなりました!
元酒蔵の広大な敷地の一画にある離れの建物を一棟貸の宿へとリニューアルした施設となります。
当時30代に突入したばかりだった私も気が付けば35歳に差し掛かり、水面下での活動がようやく世間へお披露目できるとあって非常に感無量です…!
「若槻」の由来
合同会社若槻は、2022年11月に設立された現地法人です。島根県での活動自体は2019年より雲南市吉田町と鹿足郡津和野町の2拠点で活動しており、今回はその第一弾となるプロジェクトになります。
「若槻」という屋号は、吉田町で地域の方々が共同出資し設立された(株)鉄の歴史村の運営するオーベルジュ「ツーリズムの宿 若槻屋」より拝借しています。吉田町では物件取得という形で承継しており、かつて地域の方々が込めた想いを目に見える形で残すため、屋号や宿泊ブランドとして引き継がせて頂いた経緯となります。
津和野町での取り組み
今回「Wakatsuki tsuwano 離れ」をオープンする津和野町は、江戸の街並みが色濃く残り、以前より観光地としても栄えてきた地域です。その街並みや文化的価値が認めらえ、「重要伝統的建造物群」や「日本遺産」にも選定されています。
その中でも、本町通りの中心にある建物こそが、弊社が引き継いだ旧橋本本店です。旧橋本本店は享保2年より続いた歴史ある酒蔵とされ、有形文化財にも登録されています。平成15年頃まで造り酒屋として営業されていましたが、後継者不在もあって直近では長らく空き家となっていました。
オーナー様の、代々受け継いできたものを途絶えさせたくはないとの想いや、地域の歴史を担ってきた建物が荒廃していくのを食い止めたいとの想いを受け、弊社にて保全活用を行わせて頂く運びとなりました。とはいえ、空き家期間も長く荒廃が進んでおり、さらには延床面積で2,000㎡を超える超ド級のデカさも相まって、どこから手を付けるべきかが難しい状態でもありました。
当然、私1人では不可能でしたので、昔からの親友であり、津和野で街並み保全を推進する社団法人「津和野まちばぐみ」の代表理事でもある畔柳君に助けてもらいながら、四苦八苦しつつ進めていったプロジェクトとなります(いつも本当に助けられています、ありがとう!)
生みの苦しみ
正直な話をすれば、島根県での取組実績がない中での新規開発になったため、資金調達含めて非常に厳しい道のりとなりました。例えば、私の住民票が東京というだけでも「怪しい」となるのが現状で、資金調達にかなりのリソースが割かれました。
資金調達のハードルは高いと分かっていたことではありますが、金融機関の担当者の無責任な言動に苛立ちを覚えたこともあります。逆に、支店長の漢気に助けられたこともあって、本当に事業は人の血が通うものだと実感させられました。
私自身は、こうした活動は地域社会にとって重要かつ急務でもあり、そして日本社会全体にとっても広まっていってほしいと願っています。私が会社を設立したビジョンにも通ずるものですが、それでも金融機関の方なんかに理解されないといったことが重なると、心が折れることも多々ありました。
本当にギリギリまで苦しかった中、支えてくださったのは共感頂いた周りの方々で、実際に調達面においても大きなご支援を頂きました。そのため、本プロジェクトを通じて、私やこの事業は周りに生かしてもらっている、という感覚を強く持っています。私も命がけでしたが、多くのサポーターの方がいてくださってこそのプロジェクトであり、すでに若槻は様々な方々の想いを乗せた箱になっていると感じています。
いつか、同じ道を辿るであろう方に向けて、私自身がこのプロセスを経て得られたナレッジはオープンにしていきたいと思っていますが、ここではノウハウ的な話は割愛するとともに、支えてくださった方々へ改めて感謝の意を表したいと思います。
まだ何も生まれていないプロジェクトを、パッションと共感だけで支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。
若槻ブランドの思想
若槻のブランドコンセプトとしては、「五感すべてでその土地の時間を喫する」を掲げています。若槻では、その土地がもつ特有の時間(自然、文化、街並み等)との自分との境界が溶け合い、緩やかに繋がっていく感覚を覚えてほしいとの想いでコンセプトを練り上げています。
そもそも、若槻は土地の時間を感じるインスタレーションアートでありたい、を出発点に議論を重ねており、事業ドメインとしての宿泊業というのも後から決まりました。宿泊施設は、そこで過ごす時間も長く、五感も総動員される空間であるからこそ、私たちの目指すコンセプトが具現化されていくだろうと考えています。
また、若槻は最初から正解やゴールは目指さない、アジャイル的な開発を前提とするとともに、そのプロセス含めて楽しんで頂きたい、という思想が根っこにあります。実際に津和野では、今回手掛けた施設も全体でいえば5%程度にしか満たない(改めて数字にすると驚愕ですが)ものになりますし、吉田町での開発や、両地域連携を含めた展開も考えています。そしてこのアプローチそのものが、ソーシャルデザインに通じるものでありたいというのが私たちのビジョンです。
その過程では、途中で事業ドメインを一変させるかもしれません。例えば、元酒蔵である施設として、その文脈を引き継ぎ(日本酒に限らずとも)酒造りを始めるといった可能性もありますし、実際に現在議論するところでは、施設内にかつての酒造であった空間をそのまま「文化遺産」として組み込もうとさえしています(もはや事業ドメインという枠を超えてしまっています)。そういった背景やプロセスが、共感や面白さ、そして感動を生んでいければと願っています。
離れのご紹介
広大な敷地を全て一気に進めるのはハードルが高かったため、最小単位で出来ることを模索しました。その結果、母屋や蔵の数々には手を付けずに、裏門から入ることが出来る平屋古民家から手掛けたのが「Wakatsuki tsuwano 離れ」です。
ただ、そうはいっても庭を含めると180㎡の専有面積があり、前述のとおり決して簡単なプロジェクトではありませんでした。私自身の奮闘はもとより、周りの皆様の協力や工務店さんのご尽力もあって形になった思い入れのある場なので、この場を借りて少しご紹介させて頂きたいと思います。
石州瓦とテラゾ
土間や風呂の壁床には、地域特有の赤い「石州瓦」を砕いで入れたテラゾ(人造大理石)をふんだんに用いています。石州瓦特有の可愛さや温かみが空間とマッチし、地域産材に受け入れてもらえるような空間作りとなっています。
石州和紙に囲まれた寝室
寝室はシモンズ製ベッドを導入し心地よさを追求するとともに、その内装デザインには地域産材である「石州和紙」を用いました。デザインとして洗練されつつも柔らかい和紙の素材感が感じられる空間となっています。
専有サウナ
外廊下を渡った先には、元々厠だった空間をこじんまりとしたサウナ空間に仕立てました。裏門から入る本施設の、さらに隠れ家感のある空間です。月明かりの下、専有庭を眺めながら整う体験は得も言われぬものです。
地下道のようなお風呂
どこか古代ローマの地下道や隠し通路を思わせる、テラゾに囲まれたお風呂。浴槽も広々とした作りであり、お2人でもゆったりとした時間を過ごせます。垣間見える庭は夜にライトアップされ、五感を通じてリラックス頂けます。
試泊のご案内
オープンに際し、2024年12月19日から2024年1月13日まで、法人、メディア及び事業関係者に限定したご試泊の期間を設けております。
こちらをご覧頂き、今後私たちの活動に興味関心をお持ち頂けましたら、是非この機会にお泊り頂ければ嬉しいです(通常は5万円台~でお売りするところ、試泊期間のみ1~2万円の赤字価格にてお出ししております…!)
本施設が多くの方に受け入れられ、次なる事業展開へと繋がっていけばと願っております。引き続き、私たちの活動を応援いただければ幸いです!
ソーシャルデザインパートナーズ株式会社 代表取締役
国立大学法人 東京工業大学
たか(Takayoshi)
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