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『SDGs(持続可能な開発目標)』 蟹江憲史著、中央新書

著者は、SDGsの世界では著名な学者である。本著はSDGsに関するあらゆる事項を網羅しているSDGsの教科書というべき、一冊である。しかもポストコロナ後の世界を見据えたものとなっている。

 「未来の世界のかたち」として国連が示したSDGsは、ゴールだけが示され、プロセスはそれぞれの主体が考えることとされ罰則もない。そのゴールまでのプロセスを世界がバックキャスティングして取り組んでいく。

 本著での新情報のひとつとして、2020.5に国連事務総長により示されたコロナ禍のSDGsへの影響を速報として知らせた「SDGs進捗報告書」が紹介されている。内容は驚くべきものだ。「①貧困」では、世界ではコロナ禍のために4000-6000万人が極度の貧困に戻ることを余儀なくされている。「②飢餓・食料」では、不況と物流停滞が飢餓を深刻化させ、休校により児童への給食がなくなり3億人以上が栄養不良となる懸念がある。同じく休校により「④教育」では世界の児童人口の90%が通学できなくなっており、「⑤ジェンダー」では児童の在宅により母親の負担が増大している。一方「⑦エネルギー」では航空交通60%減、陸上交通50%減、都市封鎖により25%のエネルギー消費減となった。しかしこれほどの生産縮小・交通減となっても、二酸化炭素排出量は6%減に過ぎない。二酸化炭素排出量削減2030が如何に大きな改革を伴うかが想像できる。日本においても大きな変化が起こっている。ポストコロナ後の再生の道は、人類が手にした新たなツールであるSDGsにより見直され、「自分ごと」とする行動を加速する必要がある。

高重 和枝