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【声劇台本】073「渦巻ユア・ネーム」

「渦巻きユア・ネーム」

《人物》
井上みちる(17)高校2年生。
大森久志(17高校2年生。

《本編》
みちるのMO「ボールペンで好きな人の名前をひたすらノートに書いていく。そしてインクが切れたら想いが届く。そんな都市伝説、私は信じない!」

久志「みちる。またノートに渦巻き。勉強会なんだから、集中しろよ」
みちる「気分転換してたの」
久志「混乱してるんじゃねーの?」
みちる「私流の、思考の整理術、なの」
久志「わかんない問題あったら言えよな。せっかくの勉強会なんだから」
みちる「大森に教えてもらうほどの難問はありません」
久志「俺だって、みちるに教えてもらう問題はないけどな」
みちる「お互い様だねー」
久志「だなー」

みちるのMO「大森久志。それが彼の名前だ。彼は私の気持ちには全く気づいていない。いきなり私が二人で勉強会をしようと誘ったのにも何も感じていないようだ。鈍感もいいところ。この渦巻きだって、ただの落書きじゃないのに」

みちる「(ため息)あのさ。大森」
久志「ん?」
みちる「ここの三角関数の問題なんだけど」
久志「どれ?」
みちる「これ。公式使えばいいんだよね?」
久志「あー。これは、そう。なんだよ。わかってんじゃん」
みちる「まあ、ねー」
久志「なら聞くなよ」
みちる「まあ、ねー」
久志「集中、集中」

みちるのMO「彼はそう言ってカリカリ問題を解いていく。私はまたノートにぐるぐると渦巻きを書く。本当は、渦巻きに崩して、彼の名前をぐちゃぐちゃに書いていること。絶対に彼は気づかない。私の思いが絶対に届かないのと同じ構造だ」

みちる「あのさ」
久志「ん?」
みちる「なんでもない。生きてるか確認した」
久志「なんだそれ。集中」

みちるのMO「鈍感な彼とのまじめな距離感。ペンのインクは切れることはないだろうし。私も自分の気持ちを言うつもりはないし。私のグルグルは結局、続くのであった」

(おわり)

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。