歌うクジラと20分の会話に成功?――「クジラの音」の最新研究紹介

2024.3/29 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、クジラの音に関する興味深い研究を2つ紹介します。

◾クジラと20分の会話に成功?

クジラと音に関しては、当ラボでこれまでも何度か扱ってきました。

以前紹介した「Project CETI :Cetacean Translation Initiative(クジラ目[鯨類]翻訳イニシアティブ)」という研究グループは、生物学や言語学、ロボット工学、機械学習、カメラ工学の専門家等が参加し、最新技術を用いた研究によって、クジラの音の謎に迫ろうとしています。実際、クジラから発せられる音声を収集し、AIで分析したところ、94%の確率で個体を識別することができました。

そんな中、米カリフォルニア大学デービス校の科学者を中心に、アラスカクジラ財団、そして地球外生命体の発見を目指す「SETI研究所」が参加した研究チームが、20分に渡るクジラとの「会話」に成功したという内容の論文を2023年11月に発表しています。(SETI研究所は、地球外生命体が発する信号を理解するために、こうした研究に参加しています)

研究では、2021年8月にアラスカ沖で、主にザトウクジラが主にあいさつに利用する「whup/throp」という鳴き声を収集しました(クジラの発音レパートリーは40以上あり、中にはこのあいさつのように、社会的に意味のある鳴き声もあります)。そして翌日、その鳴き声を水中スピーカーで流すことで、他のクジラとコミュニケーションがとれるかどうかを試したのです。

すると、トゥエイン(Twain)と名付けた一頭のメスのザトウクジラがこれに反応します。音声を再生している間、トゥエインは調査船から100メートル以内を旋回し、20分に渡って研究者が流した音声に反応を続けました。また研究者は、最初はランダムに流していた音声を、トゥエインの動きに合わせて調整し、トゥエインもそれに合わせて鳴き声のタイミング等を変更したとのこと。研究者によれば、これは適当に音を発したのではなく、ある種のパターンに基づいた「会話」のような相互作用だと指摘します。

ヒトとヒト以外の生物がこうしてコミュニケーションを可能にすることができるのは、やはりAIによる音声分析も大きな要因と言えるでしょう。

◾クジラの発音法も解明へ

クジラと音の研究は他にもあります。南デンマーク大学を中心とした研究チームが2024年2月に「ネイチャー誌」に掲載した論文では、歌うクジラとして知られる、ミンククジラやザトウクジラが属する「ヒゲクジラ類(mysticetes)」の発音に関する研究がされています。

クジラといっても発音については様々で、ハクジラ類(マッコウクジラ等)は鼻を使い、ヒゲクジラ類は喉頭を使っていることがわかっていますが、今回は死んで海岸に打ち上げられたヒゲクジラ類の3頭(イワシクジラ、ミンククジラ、ザトウクジラ)を発見した研究者が、その喉を摘出して、発音のメカニズムを研究しました(クジラは亡くなるとすぐに腐敗がはじまり、調べるのが一般に困難ということです)。

発音構造の詳細は非常に複雑なので割愛しますが、非常に特殊な構造で、これによってヒゲクジラは水を吸い込まないようにしつつ発声し、その際に空気を再利用することができる。

また研究者の計算によれば、ヒゲクジラは最大水深100メートルで、最大300ヘルツの低周波音コミュニケーションを長い距離にわたって行えることが示されました。しかしこの周波数帯は、輸送船等が発する騒音の周波数(30~300ヘルツ)と重なっていることから、研究では船舶の騒音対策や、歌うクジラの海域を保護することなどを主張しています。

いずれにせよ、クジラの音の謎も少しずつ解明されはじめています。引き続き、水中生物の音にも当ラボは注目していきます。

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