AIが自分の声で上手に歌う――「中国のカラオケ」最新事情

2024.3/08 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、中国のカラオケとAIによる歌、に関する興味深い現象をご紹介します。

◾日本と中国の「カラオケ」

日本発祥の「カラオケ」は海外でも「karaoke」とそのまま呼ばれ、世界中で人気を博しています。とはいえ、日本における市場規模は1996年の6620億円をピークに低下し、2016年で3920億円程度となっています。さらに2020年はコロナ禍の打撃を受けて落ちこみ、2022年には一時期よりは回復したものの、2600億円程度。いずれにせよ、日本におけるカラオケはコロナ以前の段階から市場が縮小傾向にあります。

一方、中国でもカラオケ(「KTV」等と呼ばれる)は人気で、JETRO(日本貿易振興機構)の資料によれば、2016年の中国におけるカラオケ市場規模は869億元(現在の日本円換算でおよそ1.8兆円)とのことです。また中国では「一人カラオケ」が、日本以上に普及し、商業施設等には電話ボックスの倍ほどの大きさの一人用「ミニカラオケボックス」が設置され、一人で歌うことも多いとのことです。

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/ab0ab7636de81fe2/music.pdf

とはいえ、その中国においても2015年くらいから若者のカラオケ離れが生じ、コロナの打撃も受けてカラオケは下火になり、ミニカラオケボックスも以前ほどは流行っていないとのことです。

◾AIが自分の声を「強化」する

しかしながら、中国では日本とは別種のカラオケが人気を博しています。それはスマホの「カラオケアプリ」です。

スマホが登場して以降、スマホをカラオケにする「カラオケアプリ」が流行り始めます。とりわけ2014年にリリースされた、テンセント傘下の「全民K歌(We Sing)」は、ライブストリーミングで自分のカラオケ動画を配信したり、テンセントのメッセージアプリ「WeChat」を通して、友達とのカラオケ共有機能が搭載されています。人気となった全民K歌は2016年の段階で、3億人のユーザーを獲得しています。

他のカラオケアプリにおいても、カラオケの点数を地域別で競う機能や、特定ユーザーへの投げ銭機能、また中にはカラオケアプリからプロが誕生するなど、もはやカラオケの範囲を超えた利用のされ方が注目されています。中国ではリアル空間で人と歌い合うことから、一人カラオケを経て、カラオケアプリを通したコミュニケーションが目立っていると言えるでしょう。昨今はtiktok(中国国内では抖音:ドゥイン)でも自分の歌声の配信は可能ですが、上述の理由もあり、そ中国におけるカラオケアプリは根強い人気を誇っているとのことです。

その全民K歌は「AI歌手」という機能を開始しています。全民K歌アプリに自分のカラオケを3曲登録すれば、AIがユーザーの声を学習し、より上手な歌声を披露するとのことです。さらに中国語だけでなく、日本語、韓国語、英語の歌もAIがユーザーの声で歌い上げることで、中国では日本の「YOASOBI」の歌をAI歌手にカバーさせる事例がよくみられたとのことです。

当ラボでも何度か紹介していますが、昨今のボイスクローン技術を利用すれば、自分の声の特徴を保ったまま、例えば自分の声で外国語を流暢に語らせることが可能です。今回の「AI歌手」は、こうした技術を歌に応用させたものと言えるでしょう。

もちろん、ボイスクローン技術の悪用が懸念されていることは、これまで当ラボで紹介してきた通りです。一方、エンタメに特化したボイスクローン技術は、カラオケへの応用など、多方面に展開しているのも事実です。悪用に気をつけながら、社会全体で技術の活用法を考える必要があるでしょう。

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