不必要な謝罪をすると、人に受け入れられやすくなる――「言葉が人に与える印象」研究の紹介

2024.6/14 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音や言葉が人に与える印象に関する研究を紹介します。

◾音質が人に与える影響

通常は気づきにくいけれども、実は大きな影響力を持つものが、私たちの日常生活に溢れています。例えば「音質」。音が重要なのは言うまでもありませんが、音質も私たちの生活にとって重要な意味を持っています。

以前も紹介しましたが、2018年の研究では、ある物理学者の講演音声を、聞き取りやすい高音質のものと、少しエコーがかかって聞きにくい低音質のものに分けて被験者に聞かせたところ、19.3%の人が、高音質の方を、内容が優れていると答えました。同様の研究は他にもあり、やはり同じ講演を音質を分けて聞かせたところ、高音質のものを優れていると回答する人は多くいます。

このことはつまり、zoom等のオンライン会議・講演等においても、音質は非常に重要であることを意味します。ラジオやポッドキャストといった音声メディアでも、「ブツブツ」と音が途切れ途切れになっていると、途端に続きを聞きたくなくなるといった経験は多くの人にあるでしょう。そこまでのことではなくとも、音質は気づかないレベルで、人に与える印象を左右するといえるのです。またオンライン会議などで、どうしても音質が下がる場合は、あらかじめそのことを告げておくと、私たちのバイアスを最小限に抑えることが可能になると思われます。

◾不必要な謝罪を足すと印象が変わる

もうひとつ、人に与える印象を大きく変えるものに「言葉」があります。当たり前ではありますが、同じ内容を伝えるにも、どのような単語を選択するか、どのような言い方をするかによって、相手に与える印象は大きく異なります。無論、誰が、いつ、どこで言うか等、相手に与える印象に関わる要因は膨大にありますが、ここでは2013年、米ハーバード・ビジネス・スクールの研究チームが発表した、言葉に関わる研究を紹介します。

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/1948550613506122

https://www.researchgate.net/profile/Alison-Brooks/publication/274495950_I'm_Sorry_About_the_Rain_Superfluous_Apologies_Demonstrate_Empathic_Concern_and_Increase_Trust/links/560adf6008ae840a08d6773d/Im-Sorry-About-the-Rain-Superfluous-Apologies-Demonstrate-Empathic-Concern-and-Increase-Trust.pdf

研究チームは「不必要な謝罪superfluous apologies」と呼ばれる、必要のない謝罪が人にどれだけの印象を与えるかについて調べました。論文では様々な実験を行っていますが、その中の一つは、中程度の雨が降っている日に、大きな駅の構内で65人(女性30人、男性35人)の道行く人に対して

①雨が降ってすいません。電話を貸してもらえますか?(32人)
②電話を貸してもらえますか?(33人)

と、不必要な謝罪を含んだものとそうでないものを、それぞれ聞きました。

その結果、全体としては65人の人のうち、28%にあたる18人が携帯電話を貸してくれました。しかし、その内容は驚くべきものです。①の不必要な謝罪が含まれるものでは47%の人が貸してくれたのに対して、②の不必要な謝罪がないものでは9%の人しか貸してくれませんでした。単純に言えば、不必要な謝罪をすると、そうでない場合と比べて5倍の確率で人が携帯電話を貸してくれるという結果が出たのです。

研究者によれば、不必要な謝罪は相手に対して共感を示すものとされ、それが相手の印象に影響すると考えます。例えば論文では、米元大統領のビル・クリントンが、1995年にイエローストーン国立公園で「皆さん、こんにちは。雨で申し訳ありません」と話したことに注目しています。これも共感を示すものであり、その意味では、政治家の共感を示す謝罪の言葉に対して、私たちは敏感である必要があるように思われます。

また論文では、「不必要な謝罪を繰り返すことや、不誠実と思われるような不必要な謝罪をすることは、異なる結果をもたらす可能性もある it is quite possible that the repeated use of superfluous apologies or the delivery of a superfluous apology that appears insincere may yield different results」と述べています。常に誤ってばかりいると、相手に信頼されなくなるということでしょう。このあたりのバランスについても、考慮する必要があります。

いずれにせよ言葉には、人に様々な印象をもたらします。使い方にもよりますが、「不必要な謝罪」がもたらす効果について、知識として知っておくことは有益でしょう。

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