音質が変わると印象も変わるーー「音質が与える効果」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2021.5/07 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ビデオ会議などで利用される音の質、「音質」に注目したいと思います。

◾ビデオ会議には高音質のマイクを

コロナ禍においてzoom等のビデオ会議が頻繁に利用されるようになって1年。カメラやマイクなど、動画や音質にこだわるユーザーもいます。そんな中、私たちが利用しているマイクの音質が、ビデオ会議に影響を与えることがわかりました。

音質が高いと、人はその音を重要であると感じる傾向があります。2018年の研究では、ある物理学者の講演音声を、聞き取りやすい高音質のものと、少しエコーがかかって聞きにくい低音質のものに分けて被験者に聞かせたところ、19.3%の人が、高音質の音の方が内容が優れていると答えました。

他にも、高音質のものと電話のような音質の2つに分けた動画を公開し、講演者が賢そうか、好感が持てるか、内容は重要かどうか等を聞き取り調査したところ、すべてにおいて高音質のものが低音質の点数を上回っていました。

これは、音が聞き取りづらいことで、内容が難しいと感じられてしまうために生じるものだと考えられます。つまり、音質が低いとそれだけで内容が低評価を受けてしまう可能性があるということです。ビデオ会議を利用した講演や商談などでは、高音質のマイクを利用する他、ノイズをなるべく軽減すること、またどうしても音質が悪い場合には、最初にそのことを伝えて、バイアスがかかるのを最小限にすることが必要になります。

◾音質が下がると負の感情が増える?

音質が与える影響については、他の実験でも証明されています。オーディオ技術者や専門家による国際組織「Audio Engineering Society」に公開された論文では、MP3で圧縮された音源では、幸福感やロマンチックな感情が損なわれるという研究結果が報告されています。

MP3とは音響データを圧縮する技術のひとつで、1990年代に発明され、今でも多くの人に利用されているものです。人間が聴き取ることができない部分をカットすることで、音質を下げずにデータ量を削減するところに特徴があります。インターネットの速度が遅く、ハードディスクも大容量ではなかった90年代や2000年代前半においては、非常に重宝された技術であると言えます(もちろん、今でも利用者の多い重要な技術です)。

研究では「32Kbps、56Kbps、112Kbps」に圧縮した音声を被験者に聞かせ、幸せやロマンティックといったポジティブな感情と、怒りや恥ずかしさといったネガティブな感情について調査しました。結果、低音質になればなるほど、ポジティブな感情は減少し、逆にネガティブな感情が増える結果となりました。

また、楽器と感情の関係を調査したところ、音質を下げることで特に大きな影響を受ける楽器はトランペット、影響を受けないものがホルンということがわかりました。おそらく高い周波数を出すトランペットのような楽器が、より大きな影響を受けるものと推察されます。

研究で使用された音質は、一般に利用されている音質よりも低いものですが、低いことで影響を受けることは確かなようです。いずれにせよ、音質は私たちの「感じ方」に大きな影響を与えるのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?