自分と似た性格の声に人は注意を向ける――「音声アシスタントの声」に関する研究紹介

2024.2/09 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音声アシスタントの声に関する、興味深い研究を紹介します。

◾人は自分に似た性格の声を好む

スマホやスマートスピーカーに搭載されている音声アシスタントについて、当ラボはこれまでも様々なトピックを紹介してきました。例えば、音声アシスタントのデフォルト設定は女性にされていることについて、ユネスコは2019年に「性差別を助長する」と指摘した報告書を提出しています。また、これを受けてよりジェンダーレスな音声アシスタントの声を開発する取り組みなどもご紹介しました。

音声アシスタントには、このような社会課題がありますが、一方で各々のユーザーはどのような音声アシスタントの声を求めるのでしょうか。

米ニュージャージー工科大学とペンシルベニア州立大学の研究チームが2023年8月に発表した論文では、ユーザーが好む声は「自分の性格に似た声」という驚きの結果が報告されています。もしろん、自分の性格に似た声といっても、自分にそっくりの声、というわけではありません。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1071581923001350?via%3Dihub

(ちなみに、自分の声は話している時と録音したものを聞くときで違うように感じます。これは、人間が空気の振動から聞く「気導音」と、音の振動が直接頭蓋骨を伝わる「骨導音」があり、録音した声は「気導音」だけで聞いているから違和感を覚えるのです。日常的に自分の話している声は「気導音」「骨導音」の両方から聞いているのです。こちらも以前紹介しました。)

研究では、アメリカの成人401名を対象に、実験を行いました。対象は21歳から72歳まで、52.9%が女性で47.1%が男性、8割が白人で、アフリカ系アメリカ人が10%で、ヒスパニック系やアジア系が続きます。

研究者によれば、一般的に人は外向的な声(大きな声で、より速く、より低い声で話す声)を好むとされています。実験参加者には予め自分の性格を内向的か外向的かを自己申告してもらい、5つのタイプの音声アシスタントの声を聞いてもらいます。

結果は、全体として外向的な声が好まれる傾向にありましたが、予め内向的な性格と答えた人は、外向的な声をあまり評価しませんでした。つまり、人は自分と似た性格の声を好む傾向にあることがわかります。

◾自分に似た性格の声を、人は注意深く聞く

実験ではもうひとつ、実験当時の2021年夏、もっとも話題となっていたコロナワクチンに関して、音声アシスタントが話す内容を聞いてもらい、どのように参加者が感じたかについて聞きました。実験当時、401人のうち108人(27%)がワクチン未接種でしたが、自分に似たアシスタントの声をきいたことで、ワクチン未接種者の38%の人が、ワクチンに関する考え方を変えた、ということがわかりました。
(ただしこの研究のユニーク点は、音声アシスタントからの情報は嘘情報で、ワクチンは危ない、という事を話す内容だったということです。ユーザーはこれに抵抗感を示して、ワクチンの接種を検討する人が増えたという結果が出ています)

研究者は、サンプルが少ないためこれですべてがわかったとは言い難いが、自分に似た声からのメッセージに対して、人は注意深く話を聞くのではないか、と述べています。つまり、人は自分の声ではなく、自分の声質に似た声であれば、通常以上に物事を聞いてくれると考えられるのです。こうした性質を利用し、しっかり聞いてもらいたい時に、どのような声を選択するのかなど、様々な対応が可能になるように思います。(もちろん、悪用も可能な技術であり、その点も対応を考える必要があるでしょう)

一方、音で情報を伝える音声アシスタントには、まだまだ課題もあります。去年はアメリカのメディア企業「Cox Media Group」が、スマホやスマートスピーカーから常時音声を録音し、会話からユーザーの需要をキャッチし、広告に活かすシステムを開発し、利用者を募っていたことがわかりました。ユーザーの同意を取ることを前提にしているとはいえ、ニュースとして取り上げられると批判が生じて、同社はこのサービスに関する説明をHPから削除しています。

音声アシスタントの声については、まだまだ可能性も課題もあります。引き続き、注目の音声分野であると言えるでしょう。

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