戦争用ドローンの検知から人助けまで――「音響センサー」の最新動向紹介

2024.6/21 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、戦争から人助けまで、様々な分野で開発が進む「音響センサー」について紹介します。

◾兵器としての音:音響兵器

音は様々な領域で利用されていますが、音は兵器、すなわち「音響兵器」としても利用されています。

以前も紹介したように、昨今はスピーカーをハッキングし、そこから基準値を超えた高周波や低周波を流すことで、人の耳に聴覚障害や精神的ダメージを引き起こす攻撃などが警戒されています。

また音響兵器とは言い難いものの、高齢者には聞き取りづらく、主に若者に向けられた高周波音を発生させる、いわゆる「モスキート音」など、特定の人々に向けられた音を発生させ、周辺から特定の人々を退散させる効果をもつ音も存在します。

さらに言えば、LRAD(Long Range Acoustic Device:エルラド)という、最大で5キロ先まで音を発生させる「長距離音響発生装置」は、音を届けるだけでなく、指向性、すなわち特定の範囲(30度)に限定して音を届けることが可能です。通常全方位に広がる音を、領域を絞って届けることができるという特性のため、大音量の音をデモ隊に向けて発射し、頭痛を引き起こすといった「デモ鎮圧」にも用いることが可能です。他にも、海賊の侵入を退けること等も可能ですが、無論災害現場などで的確に音を届けるためにも用いられます。簡単に言えば「使い方次第」なのですが、「音響兵器」という側面があるのは事実でしょう。

◾ドローンを検知する「音響センサー」

このように考えれば、音は戦争にも利用できることがわかります(古くから、戦場で兵士の士気を上げることを目的に、音楽が用いられることもありました)。

防衛や安全保障関連のニュースを扱うサイト「The WarZone」が2024年2月に報じた記事によれば、ウクライナは数千の「音響センサー」を用いて、ロシアのドローンを探知・追跡し、ドローンの破壊を行っているとのことです。これは、NATO連合空軍司令部のジェームズ・ヘッカー大将が、メディアに向けた記者懇談会の席で話したとのことです。

もともと第二次世界大戦前は、戦争時は音で航空機等の検知を行っていました。一方、レーダー技術が開発されると、敵の探知の主役はレーダーに取って代わります。

ただし、昨今はステルス性能が高く、レーダー探知を回避するミサイルやドローン等も登場しています。そうした事情もあり、音響センサーが再び注目が集まっているのです。ウクライナでは、特にロシアが用いる「シャヘド136」と呼ばれるドローンの破壊を行っているとのことです(このドローンは、非常に大きな音を発生させます)

◾民間でも開発される音響センサー

もっとも、音を検知する技術は様々な領域で昔から研究されており、軍事に限るものではなく、民間でも開発が進められています。というのも、今後ますます普及することが予想されるドローンの、空中での事故を防いだり、あるいは犯罪目的のドローンを検知するためにも、音響センサーを用いたドローン検知は、様々な領域で研究が進められているのです。

また逆に、ドローンに音響センサー付きの高性能マイクを搭載し、災害現場などにおいて人を救助するための研究も行われています。例えば、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「若手研究者産学連携プラットフォーム」の研究のひとつは、主に山岳地帯における救助作業のため、ドローンに搭載する音響センサーの開発に関わるものです。1キロ以内のサバイバルホイッスル(助けを求めるための笛)の音を検知するとのことです。こうした技術は他にも、様々に研究が進んでいます。

このように考えれば、音響センサーは戦争にも人助けにも、まさにあらゆる領域で利用されていることがわかります。

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