音の聞こえる化で知的好奇心を喚起するーー「ブラックホールの音」の紹介
Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.9/02 TBSラジオ『Session』OA
Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、NASAが公開した宇宙に関する音について紹介します。
◾音の「聞こえる化」とは何か
私たちが生きるこの世界は、人間が目で見たり聞くことができないものが多々あります。例えば超音波は現実に存在していますが、人間が超音波を聞くことはできません。ですが、人間には聞くことができない音やデータを可聴化、つまり「聞こえる化」することで、物事をわかりやすく伝えることができます。
以前、この聞こえる化を意味する「ソニフィケーション」についてお伝えしましたが、実際、心拍計に応じてパルス音を流したり、ガイガーカウンターから流れる音など、音の聞こえる化は私達の生活にとって身近なものです。また、データを聞こえる化する場合は「データ可聴化」とも呼ばれます。
◾NASAが公開「ブラックホールの音」
そんな中、宇宙の音の聞こえる化が話題となっています。米宇宙航空局(NASA)は2022年5月、宇宙のブラックホールで収録された音を人間に聞こえる化した上で公開。その後8月にNASAが同音声をTwitterで公開したことで、49万いいねがつくなど、大きな話題となりました。
宇宙に音は存在しないと思われがちですが、NASAによれば、宇宙のほとんどは真空で音波を伝えるものがないが、銀河団にはガスが多く、ガスを媒介にして音波が伝わり、音を収録することができたとのことです。
実際、2003年に天文学者がペルセウス銀河団のブラックホールで生じた圧力波がガスに波紋をつくり、それを音声に変換するのを発見してから、ブラックホールと音の関係が研究されてきました。ちなみに、多数の銀河の集団が銀河団であり、ペルセウス銀河団は、地球からペルセウス座の方角に2億2200万光年離れたところに位置しています。
ただし、実際の音は真ん中のドの音より57オクターブ下の音で、当然人間の可聴域の範囲外にあります。そこでNASAは、57、58オクターブ音域を高く調整しました(本来の周波数の144兆倍、288兆倍の周波数で聞いていることになるとのことです)。また、他の音も光のデータから解釈して加えているとのことです。
※音は以下から聞くことができます。
音が公開されるとSNSでは、不気味だ、といった感想をはじめ、多くの投稿が寄せられましたが、NASAはこの音について意図的に不気味にしたのではないと述べています。また同時に、こうした音の聞こえる化を実行する動機について、科学を多くの人と共有したいとも述べています。
音の聞こえる化は、私たちの生活における利便性を向上させるものや、エンターテイメントの領域で利用されることが多くあります。一方で、今回紹介したように、音をきっかけに多くの人が宇宙科学の興味を持つなど、私たちの知的好奇心に働きかけることもできるのです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?