レコード会社公認の音楽生成AIツールは登場するか――「YouTubeと生成AI」の最新情報

2024.7/12 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は前回に引き続き、最新生成AIと音に関するニュースをお伝えします。

◾生成AIと会話する

前回は生成AIと音声に関するニュースをご紹介しました。例えばMetaは、クリエイターが自身のAIチャットボットを作成して音声でも返答するサービスの開発を行っています。

AIとの音声による会話は、すでに様々なサービスが登場しています。例えば以前もお伝えしたおしゃべりAIアプリ「 Cotomo (コトモ)」は、登場時に話題になりました。2024年6月にはアンドロイド版もリリースされるとともに、2月にiOS版がリリースされてから3ヶ月程度で、Cotomoの返答回数は1億回を突破したとのことです。

また2024年6月には、AIチャットサービス企業のCharacter Technologiesが、AIキャラクターと会話できる「Charater Calls」を発表しています。英語や日本語だけでなく、中国語やスペイン語等にも対応したもので、自分でキャラクターを作成し、それと会話するというものです。

ただし、こうした技術には悪用が常に考えられます。権利のあるキャラクターに酷似したAIキャラクターを作成できてしまう可能性もあります。生成AIと著作権の関係は、非常に複雑で根の深い問題であると言えるでしょう。

◾YouTubeと音楽生成AI

このように、生成AI技術を用いれば、特定の人物に似せたAIキャラクターをつくることは難しいことではありません。しかし前述の通り、著作権のあるキャラクターを意図的に作成したり、あるいは著名人や一般人を模倣した生成AIの作成も技術的には作成可能であり、多くの問題を孕んでいます。

実際、前回もお伝えしたように、音楽生成AIは、既存の曲と酷似したものが生成可能であることから、レコード産業の業界団体に生成AI企業が訴えられるという事例も生じています。

こうした問題は、生成AIを利用した動画が数多く投稿されているYouTubeと大きく関わります。そこでYouTubeでは、自分に似た生成AIコンテンツに削除を求められるプライバシーガイドラインを制定しています。

このガイドラインの「プライバシー侵害の報告」という項目では、合成コンテンツがあなたの容姿や声に似ている場合、苦情を送ることができます。審査項目はいくつかあるのですが、苦情が受け入れられると動画投稿者に通知が送られ、情報の削除や編集の機会が48時間の猶予とともに与えられます。昨今は政治家の声を生成AIで作成するケースなどがみられますが、こうした動画も今後、場合によっては削除対象になると考えられます。

そんなYouTubeですが、一方で音楽生成AIについては、なんとかこれをエンタメ領域で利用できないかと、これまで関係団体と協議を行ってきました。例えば2023年8月には、音楽大手のユニバーサルミュージックと提携し、アーティストの権利を守りながら生成AIを利用するための3つの原則を発表しています。

さらに報道によれば、YouTubeはAIを利用した音楽生成ツール「Dream Track」の作成を進めています。そこでYouTubeはアメリカの主要なレコード企業と交渉を行い、アーティストの音楽データを学習に使用するライセンスを得ようとしているというのです。

こうした交渉がどこまで行われているのか、そしてそれが受け入れられるのかはまだわかりません。しかしYouTubeとしては、生成AIを利用した違法(あるいは非常にグレー)な楽曲が投稿されるよりは、公式に認められた方法で動画が投稿されることの方が、将来の生成AI利用の方法として望ましいと考えているものと思われます。


一方でこうしたAIの学習に自分の楽曲を利用されることに抵抗を覚えるアーティストも多く、またどれくらいアーティストに金銭的な還元がされるかもわかりません。

生成AIをめぐる可能性と課題は、今後も議論が続けられていくでしょう。

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