自分のAIチャットボットがユーザーと会話する――「生成AIと音」の最新情報

2024.7/05 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、最新生成AIと音に関するニュースをお伝えします。

◾インフルエンサーのAIチャットボットがユーザーと会話する

Metaは去年の段階で、クリエイターや企業が自分の人格を再現するチャットボットを作成するプログラム(「Meta AI Studio」)の開発を進めていると発表しています。

例えばMeta傘下のInstagramでは、人気インフルエンサーが自分の人格を再現したAIボットを利用して、ファンとやりとりを行う「Creator A.I.」のテストを行っていることが報じられています。このチャットボットについては、インフルエンサーの過去投稿やコメント、DMの内容、また投稿した動画から自分の声などを学習し、インフルエンサーの声(を模倣した声)で一般ユーザーとやりとりができる機能であることが最近(2024年4月)も報じられています。

そんな中、MetaのザッカーバーグCEOは2024年6月に行われたあるインタビューの中で、Instagramでクリエイターが自分のAIチャットボットを作成する機能を、はやければ数週間以内に一般リリースすると発表しました。これは先程の「Creator A.I.」の一部に該当するものです(今回の機能には「AI Studio」という名前がついています)。

ザッカーバーグCEOによれば、現在は人気クリエイターおよそ50人がテストを進めており、7月末から8月にかけて、一般公開を予定すると述べています(ただし、米CNETがMeta社に質問を送ったところ、広報担当者からは、正式なリリースはまだ未定と返事がありました)。またいずれは企業が独自のAIチャットボットを作成し、ユーザーとのコミュニケーションができるようにするとも考えています。こうしたAIチャット技術が「声」にまで広がれば、今以上にできることが増えるのは間違いありません。

Metaはメタバースを推進しており、アバターなどのAIキャラクターの開発を行っています。ユーザー自身のAIアバターを作成できれば、文章だけでなく音声コミュニケーションもAIが行うことができるため、Instagramだけでなく、Metaグループ全体として開発に力を入れているものと推測されます。

ただしAIが人間の代わりに会話を担当することになれば、現状はリスクも高いでしょう。とりわけクリエイターに酷似した声で不適切発言が生じれば、悪意ある拡散が行われるなど、特にリスクの高いものとなります。文章だけでなく、音声や動画を利用したAIの問題行為等に、どこまで対応できるかが問われます。

◾音楽生成AI企業が権利団体に訴えられる

音楽業界では、生成AIの利用が多くの反発を招いています。
2024年4月には、アーティストの権利団体である「Artist Rights Alliance(ARA)」が、アーティストの権利を侵害するようなAIの利用は控えるべきであるという書簡を発表し、ビリー・アイリッシュやスティービー・ワンダーなど、200人を超えるアーティストが署名をしています。

また2024年6月には、アメリカのレコード産業における業界団体の「全米レコード協会(RIAA)」が、著作権で保護された音楽コンテンツを無許可でAIに学習させたとして、音楽生成AIサービスの「Suno」と「Udio」を著作権侵害で訴えています。文章を打ち込む(プロンプト)だけでレベルの高い楽曲を生成できるこれらのサービスですが、既存の曲に酷似したものが生成されることなどから、大手のレコード会社等の訴えを全米レコード協会が取りまとめて訴えを起こしています。

これを報じたwiredによれば、SunoとUdioはどのようなデータを生成AIに訓練したかについては公表していないとのこと(訴訟前のやりとりでは、データは「営業秘密情報に当たる」と述べているとのことです)。訴訟で示されている一例としては、sunoを利用し、米チャック・ベリーが1958年に発表した「ジョニー B. グッド」という曲とそっくりの内容を、「1950年代のロックンロール、R&B、12小節ブルース、ロカビリー、力強い男性ヴォーカリスト、ギタリスト歌手」などのプロンプトと歌詞の一部を入れることで生成したとのことです。

ChatGPT等の生成AIと同様、トレーニングデータの権利が問題の焦点になっています。動画や音楽、声を生成する場合も、今後ますますデータの扱いが重要になってくるのです。

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