声のAI音声化に関する協定に米俳優組合が合意――「ゲームとAI音声」の最新トピック紹介

2024.1/26 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ゲームの声にまつわる2つのトピックについて紹介します。

◾AI音声を利用したゲームの登場

以前から、生成AI等を利用した合成音声については、フェイク音声が詐欺に使われたり、あるいは声優の声が勝手に使われるなど、様々な課題があることを紹介してきました。

一方、生成AIによる音声は、どこまで人々に受け入れられるのでしょうか。2023年10月、チームで対戦するFPS(一人称視点シューティングゲーム)の『THE FINALS』では、正式リリース前に参加者をネット等で広く募集する、オープンベータテストが開始されました。すると、参加者からはゲーム内のボイスがAI音声であることが話題になりました。(このゲームはその後12月に正式リリースされています)

もっとも、オープンベータテスト前の同年7月には、開発元の「Embark Studios」がAI音声の使用について話しています。それによれば、まずAI音声のクオリティが上がったこと、またAIであれば音声収録時間がほとんどかからず、新たな声(セリフ)をすぐに試せる点などを挙げています(もちろん、費用の削減にもなります)。また、声優を利用した収録は数ヶ月かかる、といった趣旨の発言も行っています。

一方、これに反応したのは声優です。ゲームに関わるある声優は、実際は1日~2日で収録を終えたり、場合によっては2時間で収録を終えることもあるなど、「数ヶ月」は大げさであるとの趣旨の発言もしています。とりわけ本作は、そこまでボイス収録に時間がかかるタイプのゲームでもありません。

では、ユーザーはどう反応したのでしょうか。本作は人気の高いゲームですが、実際にテストに参加したユーザーからは、音声に違和感を感じるといった指摘が寄せられました。どれほどAI音声のクオリティが向上しても、現時点では、まだ人間の技術には及ばない、とも言えるでしょう。

一方、最終的に人間が音声を収録するにせよ、様々なセリフをテキストから音声に起こすことで、現場の開発もスムーズになると思われます。つまり、現状ではAI音声を一切使用しないというより、「適切に利用する」ことが重要であると言えるのではないでしょうか。

ただし、開発元(Embark Studios)は、すべての音声をAIにするわけではなく、キャラクターの会話は声優を利用するなど、声優とAIボイスを組み合わせていくとしました。

今後もAIのクオリティが向上する中で、ゲームにAI音声を利用する事例は、今後も登場するでしょう。あるいは、例えば基本はAI音声になりますが、、有料オプションで声優による音声を選択可能にするといったことも考えられます。無論、そうした場合にますます問われるのは、ユーザーの反応になるでしょう。

◾俳優組合とAI音声企業が協定に合意

こうした問題の一方、声優が自分の声を合成音声化することを認める、といったことも起きています。

2023年にハリウッドでストライキを行った、「アメリカテレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRAサグ・アフトラ)」は、アメリカの俳優およそ16万人が所属している労働組合です。この組合が2024年1月9日、AI音声技術企業の「Replica Studios」とAI音声に関する協定を締結したと発表しました。

この協定、簡単に言えば、正式なライセンスのもと、組合の俳優が合意をすれば、俳優の声をAI音声として使用する場合に、適切なライセンス料が支払われるというものです。また新作でもAI音声の継続を認めるかを俳優が選択可能です。

今回の協定については、双方が「AIによってもたらされる新たな収益機会を模索する声優の、公正かつ公平な雇用の基礎を定める」としています。今回はゲームの声に関する協定ですが、今後は同じようなライセンスで音楽やコマーシャルの分野にも踏み出す可能性もあるでしょう。

いずれにせよ、2024年は俳優の権利を保護しつつ、AIを適切に利用するための仕組みが、様々な問題を議論しつつ整備されていくのではないでしょうか。

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