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ホームセンター戦闘員、浅間! 「配達ブラックリスト」編 第五話 「対立! 浅間&木滑vs山尾&寺田!」

 「覚悟できてんだろうな、山尾。元々、無駄に神経質なてめぇは気に食わなかったんだ。容赦しねえぞ」

 俺は山尾と寺田を睨みつけながら言った。山尾のやせぎすの身体は、奴の隣に立つ寺田のババアの肥満した身体に、半ば隠れている。

「こっちのセリフだ。お前の考えなしにはウンザリしてたんだよ。せいぜい、綺麗に死ねることを祈っとけ、浅間」

 山尾が吐き捨てるように返した。俺の横で灯油ポンプを弄ぶ木滑の小柄な体躯は、向こうとは反対に俺の身体で遮られかけている。

 「綺麗に死なせてどうすんですか! あいつはね、傷つけたんですよ私の家を! 私の! 家を!」

 寺田が鬼の形相で怒鳴る。相変わらず、耳に突くキンキン声だ。

「もういいから燃やそう。世の中のことはみんな、焼き払えばチャラなんだよ」

 木滑がポリタンクを背負い直す。その目はこの場の誰をも見てはいない。

 何せ同じ人類同士だ、一瞬前まで手を組んでいた相手と殺し合い始めることは日常の光景だが、ホームセンター店員がそれぞれ別のモンスタークレーマーと組んで、異色タッグマッチに突入するという展開は、そこそこ珍しい事態だろう。

 俺は数十分前に記憶を遡らせる。事の発端は、警官隊と近隣住民どもの乱戦から水畑の車で脱出した後、次の配達先に向かう途中のことだった。

◆◆◆

 「……おい浅間、このルートじゃ地面が悪いぞ。先週、この辺の地主が小作人の謀反で殺られた時に、ボコボコに荒らされた道を通る」

 「バカ言え、こっちの方が近道だろうが。ただでさえ、さっきの騒ぎで時間が押してんだぞ。モンスタークレーマー相手に時間に遅れたらどうなるか、わかってんだろ」

 「だからって、配達物に傷がついたら本末転倒だろうが! 『大量のポリタンクを持ち込んで灯油を全部買い叩く木滑』はともかく、『あらかじめ家の中につけておいた傷をお前が配達した家具でぶつけた傷だと因縁をつける寺田』は、傷を見た時点で暴れ出すぞ!?」

 「『あらかじめ家の中につけておいた傷をお前が配達した家具でぶつけた傷だと因縁をつける寺田』は、二つ名の通りに何があっても難癖つけるだろうが!」

 「だから、その難癖度合いがもっとひどくなるってんだよ!」

 「バカ野郎、運転中に食って掛かるな! それこそ商品に傷がつくだろ! もうトラックの保護はねえんだぞ!?」

 人類の争いに、大した理由は必要ない。意見が対立すれば殺す。ムカつけば殺す。肩が触れ合えば殺す。だが、運転中にこれが起きると最悪だ。

 車内でやり合って事故になれば、当然共倒れになる。今のように急いでなければ停車してから殺し合うところだが、この状況ではそれも無理だ。

 結果、俺と山尾はお互いに殺意を高めるだけ高めた一触即発で、寺田の家の前に到達した。俺はすぐに運転席のドアを蹴り開けて車外に躍り出た。直後、俺の首があった位置を山尾の袖から飛び出したカッターの刃が薙いだ。

 金槌を構えて向き直る俺を追って、鉈を構えた山尾が飛び出す。しかし、睨み合いは一瞬だった。次の瞬間、寺田の家のドアがぶち破られ、中からトレードマークのポリタンクを背負った木滑と、すでに怒髪天の寺田が躍り出てきたのだ。

 「傷つけたでしょ! 私の家を! どう思うかって言ってんですよ! 誠意を見せなさいよ!」

 「だから、あなたの家を燃やして綺麗にしてあげようと」

 「ふざけないでください! 誠意と言ったらあなたの死でしょ!」

 人類同士のぶつかり合いは、常にあらゆるところで起きている。モンスタークレーマー同士の衝突も、当然あり得る。だが、この場合はあまりにもタイミングが悪すぎる。何故今、木滑と寺田が悶着を起こしているのか。

 考えている暇はなかった。寺田と木滑は同時に俺達を見た。悪いことに、俺は寺田と、山尾は木滑と、それぞれ面識があった。モンスタークレーマーと小売り店員の面識とはすなわち因縁だ。殺し合ったことのある敵ということだ。

 すぐそばで別々の殺し合いが起きた場合、一度でも敵となったことのある相手よりは、面識のない相手と一時的に手を組む。こうした状況判断は、下級人類でもやることだ。こうして、俺達四人は路上で対峙することとなった。

 寺田が自らつけた傷に覆われて、異様な佇まいとなった寺田の家がそんな俺達を見下ろしていた。

◆◆◆

 まず仕掛けたのは俺だった。殺し合いはまず拙速。山尾は考えなし扱いしたが、人類として生まれたからの俺をそれなりの年月生き延びさせた、確かな生存戦略だ。

 だが、それだけでうまく行くなら、世の中もっと人類が減って平和になっていることだろう。飛び出した俺が横殴りに振った金槌は、寺田の指先に逸らされた。寺田は、指先に卸し金状の金属を仕込んだ手袋を嵌めている。

 最小限の動きで家の壁や床に傷をつけ、配達員に難癖をつけるための装備だ。ターゲットとなれば、この流れで寺田に詰め寄られ、卸し金手袋に引っかかれてズタズタにされる。ほぼ素手に近いこの戦法で上位のモンスタークレーマーに分類されているのは、寺田の凶暴性から来る戦闘能力の高さを示す事実だ。

 寺田の後ろから、山尾が俺の頭めがけて鉈を振り下ろそうとしたが、すぐに寺田ともども後ろに飛びのいた。二人がいた空間に、木滑が噴射した灯油がまき散らされた。

 シュポシュポシュポ、と木滑の背負ったポリタンクに繋がる灯油ポンプが不快な音を立てる。木滑お手製のこの武器から噴射される灯油を浴びたが最後、木滑の持つマッチが投げつけられて火だるまにされる。

 木滑は、小売り店に押しかけては邪魔する相手をこの手口で焼き殺し、車に積み込んだポリタンクにありったけの灯油を詰め込んで、同時に店員を脅し安く買いたたく。それら全てを、あの虚ろな目と気の抜けた態度でこなすのだ。もう少し簡単な殺し方もありそうなものだが、木滑は灯油とマッチを組み合わせたこの戦法に固執している。

 「原型留められると思うなよクソども!」「自分でも顔分からなくなるほど刻んでやる!」「あなたたちが傷だらけになって責任取りなさい!」「とりあえず灯油を浴びれば解決するよ」

 絶えず罵声を飛ばし、自分にまだ気力が残っていることをアピールする。下級人類の必須テクニックだ。しかし、内心で俺は冷や汗をかき始めていた。ここまでの連戦で、思った以上に体力を使っていたようだ。

 山尾はそれを見逃さなかった。

 「ふらついてんぞ、浅間!」「てめっ……!?」

 山尾の手から、カッターが俺の足めがけて放たれた。咄嗟に避けた俺の隙を突いて、寺田が飛び込んできた。俺もろとも寺田を焼こうとしたか、ポンプのノズルをこちらに向けた木滑に、山尾が切りかかったところまでは見えた。

 寺田の卸し金手袋が、俺の顔面を横切った。皮膚が削られ、左目が潰された。これまで感じた中でもトップクラスの痛みと衝撃。片目を失って視界も狭まった。万事休すか。

 「さあ、責任取りなさい!」

 寺田の叫びが聞こえた。迷っている暇はない。思いついたことをやる。拙速こそが生き残る道だ。俺は決断した。全身の力を抜いて、無防備に路上に倒れ込み、硬質エプロンを脱ぎ捨てるや、木滑がまき散らした灯油に向けてそれを振るった。

 「木滑! 寺田の家を焼いてやれ!」「ほいマッチ」

 木滑もまた、判断の速い男だった。流石は上位モンスタークレーマーだ。木滑が山尾にやられていないかどうかが賭けだったが、山尾は右腕に火をつけられて地面をのたうっていた。

 灯油を吸ったエプロンが投げられ、火のついたマッチが投げ込まれる。これだけでは大して燃えはしないが、家に執着する寺田は意識を奪われた。

 「私の家――――!!」「家の後追え!!」

 片目は塞がれたままだったが、寺田の隙を突くのに問題はない。寺田の首の後ろに、カッターを限界まで突き刺してやった。

 力なく倒れる寺田から視線を切り、振り返る。木滑が燃えていた。

 「あああああああああ焼けばなくなる僕も君もみんなも――――」

 「クソッタレ!! プロテクター無しじゃ腕無くしてたぞ! よくも! クソが!」

 燃え盛りながらなお、妄言を呟く木滑もイカれているが、山尾も相当なものだ。プロテクター越しとはいえ、腕を焼かれながら木滑を引きずり倒して零れた灯油に点火したらしい。こいつにこんな根性があったとは。

 俺は山尾を見た。山尾も俺を見た。俺は左目を失い、山尾も右腕をまともには使えなくなった。配達業務が終われば、治療をこなせる上級人類に相当なカネを積まなければならないだろう。

 つまり、今ここで争っている場合ではなくなった。俺達は無言で行動を開始した。車から荷物を運び出し、寺田と山尾の死体の横に、それぞれの配達物だった防弾機能付き長机と大量のマッチを放り出した。死体の指に血を塗り、伝票に拇印を押させた。

 すでに持ち主の死んだ配達物を奪いに、また近隣住民が来るだろう。俺達は痛む身体を引きずって車に戻った。

 「……次はあの中和泉一家だぞ。これで勝てると思うか?」

 「いっそ、あいつらのアパートに火でもつけてやりゃいいだろ」

 「大家に目を付けられるだろ、ふざけんな」

 すぐ罵り合いが再開したが、殺意は失せていた。一度争いが終われば、遺恨は一度忘れる。この満身創痍の有様で今日を生き延びられる確率は低かったが、それでも今この瞬間は死なない。まずは今目の前を生きろ。人類の鉄則だ。

 俺はアクセルを踏み込んだ。残る配達先は、二つだ。

【続く】


 

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