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ホームセンター戦闘員、浅間! 配達ブラックリスト編 第三話「激突! 店の敷地内の雑草が伸びてくると現れて雑草も店員も刈り払う草加!」

 【前】

「何ッッッで俺がお前と心中しかねない仕事振られなきゃいけねえんだよ……」

 「掛井の件は俺だけのせいじゃないだろうがよ。いい加減腹くくれ、どうせお互い安い命じゃねえか。死んだところで、下級人類が享年25なら長生きした方だろ」

 「よく言うぜ、そもそもお前が殺害上限数を破らなきゃ振られなかった仕事じゃねえか!」

 「うるせえな、だいたい店の制度がおかしいんだよ。死体回収費用をケチるためだけに、殺しに上限なんか設けるか普通よ!」

 「それに関しちゃ俺だってそう思って――――おい警官どもだ!」

 店を出てから十数分。地獄の配達業務についた俺たちは、いつもの軽口を叩き合っていた。しかしそれも、運転席に座る山尾の叫びで中断された。

 二台のパトカーが路肩に停車していて、横転したバイクとハチの巣にされた男の死体を、数人の警官が取り囲んでいた。山尾は速度を落とし、俺達の乗る配達トラックは奴らの傍らを慎重に通り過ぎる。

 警官どもの剣呑な視線が投げかけられたが、何事もなく通過する。俺達は胸をなでおろした。公道を支配下に置く警官たちは、銃規制が厳しいこの列島において唯一、大っぴらに銃を振り回せる存在だ。

 パトカーには拳銃どころではない強力な銃火器も積まれているだろう。公道で敵に回せば、まず勝ち目はない。警官どもを殺せるのは、奴らの中から店の中で暴れるようなバカが出てきた時か、奴らの飼い主の上級人類が没落した時くらいなもんだ。

 「しかし、この辺にも上級人類の犬どもの前でオイタするバカが、まだいたんだな」

 「どうかな、税金を払いそびれて逃げてた奴かもしれねえぞ。ここみたいな田舎じゃ、警官に徴収業務を丸投げする不良軍人も多いらしいから」

 確かに、山尾の言う理由の方があり得そうだ。公道で好き勝手するバカなんて生まれてから10年と生きられない。それよりは、税金を払えずに殺される奴の方が多いだろう。

 暴力が全てを決定する人間社会において、金というものは支配層たる上級人類が、俺達のような下級人類を「殺さないでおいてやる」ための理由付けとしての機能が第一だ。

 上級人類たちは自分の手足となる軍人どもや、生産技術を買われて生き永らえてる中級人類たちに、給料として金を渡す。下級人類は、金を持つそいつらを必死にもてなして金をもらう。上級人類が使う手駒たちを、俺達が食わせる形になるわけだ。

 そうして得た金を税金として上級に差し出し、俺達は命を買う。金はまた上級の元へ戻る。俺達は俺達で、余った金を他の下級や中級とやり取りしたり、奪い合ったりして、それぞれの生活を成り立たせる。その繰り返しが社会の営みというやつだ。

 「いつの時代の、どの上級人類が考えた仕組みか知らねえが。そいつは余程狡猾だったんだろうな。結局、俺ら下級が今日を生きるためにやることが、上級の支配を支え続けてんだから」

  「まあ、悪いことばかりじゃねえよ。警官や中級だって相応の納税義務に追われて、結果的に金で下級に道具を売る。それで俺達は武装して、元気に殺し合える」

 「そりゃ違いない。それに上級が歳食って鈍るなり、上級抗争に負けるなりすれば、やり返すチャンスも巡ってくるからな。三年前の『元首一族狩り』は痛快だった!」

 「この辺にクソッタレ元首の親類が住んでたのはついてたよな! あいつらの死に顔、今でも思い出し笑いするわ!」

 こんな風に少しでも景気のいい話をして、お互いに気分を盛り上げようとする俺達だったが、それにも限界が来た。最初の配達先、草加の家が見えて来たからだ。

 山尾が、静かに配達トラックを道の端に寄せた。俺も山尾も、車から降り立った時にはすでに武器をいつでも取り出せるようにし、トラックの防犯用殺人電流トラップも作動させている。深呼吸を三回。俺達は荷台を開け、配達物を取り出しすと無言で歩き出した。

◆◆◆

 「あら、早かったのね。ご苦労様。玄関まで持ってきてもらえる?」

 出迎えたのは、30そこらの主婦。この女が、「店の敷地内の雑草が伸びてくると現れて雑草も店員も刈り払う草加」だ。

 艶やかな長い黒髪に目元のほくろ、浮かべた笑顔と見た目はいかにも温厚そうな女だが、そもそも温厚なんて言葉は冗談以外じゃまず使わない。本当に温厚な人類がいたなら、そいつらは石器時代で絶滅してる。

 俺が草加に遭遇したのは半年くらい前だったか。ある日、店の敷地に生えてる雑草が、フェンスを越えて公道にはみ出しているという草加の苦情が、雑草の画像と共に本部に送信されてきた。

 そもそも警官どもならともかく、公道のことで下級人類ごときが文句をつけるのもおかしいのだが、面倒は出来るだけ避けねばならない。東村店長の指示で、俺と中益のおっさんは雑草刈りに出た。そうして店外に店員を引っ張り出すのが、草加の狙いだったわけだ。

 ただでさえ労力を使う雑草刈り、おまけに警官どもに目を付けられないよう不審な動きは避けねばならない。神経も体力も削られる作業だった。中益のおっさん共々、散々ボヤきながらやっと半分くらいまで刈り終えた時。電動刈払機の立てる唸りが聞こえてきた。

 次の瞬間には俺の二の腕は裂けていた。いつから現れたのか、そこには丸い刃を回転させる両手ハンドル型刈払機を握って、温和そうな笑顔に青筋を立てる草加が立っていた。

 「雑草ってのはね。刈っても刈っても生えてくるのよ。貴方たちみたいな、薄汚い小売り店員も同じよ。何度でも生えてくるの。でもあきらめちゃダメ。そのたびに、刈らなきゃいけないのよ」

 そんなことを呟きながら、刈払機を高速でぶん回す草加に、手負いの俺と中益のおっさんだけでは到底かなわなかった。増援が駆けつけて草加をどうにか追い払うまで、俺が生きてられたのは偶然だ。運のなかった中益のおっさんは、首筋を切り裂かれて失血死した。

 「どうも、お邪魔します」「ご注文の、刈払機の替え刃と、防犯用人体切断ワイヤーの替えです」「印鑑の方はこちらに――――」

 ヘコヘコとお辞儀して見せながら、玄関先に踏み込み、商品を手渡す。伝票を出して、受領印を求めながら、俺と山尾はすでに三歩分の距離を飛び下がっていた。さっきまで俺達がいた空間を、刈払機が薙ぎ払った。

 「――――ねえ、なんで避けるの?」

 笑顔は変わらない。だが、草加の顔には青筋が立っていた。

 「小売り店員が、なんで避けるの? 貴方たちは雑草なのよ? 雑草は刈られないといけないのよ。なのに、何で大人しく刈られないの? 何でそうまでして生きようとするの?」

 「いや、死にたくねえし」「そこは俺らも雑草も同じなんで」

 上位のモンスタークレーマーは、これだから厄介だ。わかりやすく金目当ての下位クレーマーと違って、連中の大半は本人にしかわからない理由で暴力を振るう。

 そりゃ暴力自体は当たり前だが、金の為でも、自衛の為でも、上からの命令でもなく、使命感やら何やらで殺しにかかってくるこいつらみたいなのは理解に苦しむ。

 「雑草が喋ってんじゃないわよ!」

 「知るか、お前も命の値段で言えば雑草レベルだろ!」

 「わざわざ小売り店員殺すためだけに配達頼むような暇人がほざくな!」

 罵り合いながら、俺達も得物を握る。俺は金槌、山尾は鉈。腰にはカッターナイフ。長物の刈払機と打ち合うのはきついが、使い慣れない武器よりはマシだ。

 「除草! 除草! 除草ううううううう!!」

 しかしやはり、この間合いはきつい。幾度も横薙ぎに振るわれる刈払機が、幾度か俺達の身体を掠める。痛みをこらえながら後退する俺達は、草加の家の庭に飛び込んだ。

 草一つ生えてない、殺風景な庭だ。一軒家住まいの下級人類の習いとして、当然隣家との境目には防御板と防犯用人体切断ワイヤーが備えられている。下手に動けば、袋小路に追い込まれることになるだろう。

 「逃がさないから。うちの庭に雑草が存在しちゃいけないの。貴方たちはここで刈られて枯れるの」

 「庭に追い込んだのはてめぇのくせしてよく言うぜ!」

 叫び返しながら、俺は山尾に目くばせした。人数の利を生かすなら、別方向に展開だ。

 「刈ッッッ!!」「あぶねっ!」

 右に飛んだ俺は、刈払機の間合いギリギリで刃をかわす。丸い刃が陽光を反射してギラつく。それを打ち消すかのように、俺は左に飛んだだろう山尾と、同時に仕掛けようとした。

 だが、その直前に山尾の「ギャッ!」という悲鳴が聞こえた。見れば山尾が額を抑え、そこから血が垂れ落ちている。

 「石飛ばしか……!!」

 俺は思わず呻いた。刈払機による殺人に習熟した者の使う手口の一つは、屋外戦闘における石飛ばしによる中距離攻撃だ。人体を破壊できる速度で回転する刃に弾かれた石は、そのまま飛来する凶器となる。

 こちらを睨む草加の瞳に、歪んだ俺の顔が映った。刈払機がこちらに向く。ここまでか。観念しかけた俺が次に見たのは、山尾が草加に鉈を投げつけた瞬間だった。回転しながら飛ぶ鉈が、草加の肩に突き刺さった。

 「あぐっ!?」「ホームセンター店員舐めんなよコラァ!」

 割れた額で咆哮する山尾の作った機会に答え、俺は草加の懐に飛び込んだ。怒りに吠える草加の振った刈払機のシャフト部分が、俺の脇腹を強かに打ち据えた。

 激痛が走るが、俺はそれを無視して腕を振り抜き、草加の眉間に金槌を叩きつけた。骨が陥没する慣れた感触が伝わった。草加は白目を剥き、崩れ落ちた。

 「いつぞやの腕のお返しだ……クソが」

 息を荒げながら、俺は山尾に歩み寄った。山尾はふらつきながら立ち上がった。礼などは言わない。それぞれ自分が生き残るためにやったことだし、もしどうしようもない事態になればお互いがお互いをあっさり見捨てる。それが人類というものだ。

 「……まぐれ勝ちだ。石が目に当たってたら、こっちが殺されてた」

 「だな……この調子でいけば、何件目かで死ぬぞ。間違いなく」

 青ざめた顔を見合わせつつ、草加の死体から奪った印鑑で伝票に判をつくと、俺達は早くも疲弊した身体を引きずって配達トラックに戻る。時間は有限だ。モタモタしてはいられない。

 「次からは、正面から行くのはやめた方がいいな……何か作戦立てよう」

 「作戦ったってお前、次行くまでの間に思いつきで立てる作戦なんざ、通用すんのかよ……」

 血で目を塞がれかかっている山尾に代わって運転席に座った俺は、エンジンをかけながら言ってやった。

 「俺らだけでやるから、いらねえリスクを負うんだ。他を撒き込めばいい」

 「……つまり?」

 「相手を公道に引っ張り出して、警官に殺させる」

 山尾は、さっきまで草加を見ていた目で俺を見た。

【続く】

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