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スコットランド出身のクリエイターさんが脚本&主演、英国&アイルランドとアメリカで大ヒット中のNetflixシリーズ「Baby Reindeer(邦題:私のトナカイちゃん)」。ただのストーカーのお話ではない、です。

2024年4月11日配信開始、週明けまでにUK&アイルランドとアメリカで視聴者数1位を獲得したネットフリックスのリミテッドシリーズ「Baby Reindeer」邦題はわたしのトナカイちゃん。タイトルだけだと、C級ホラーっぽい印象かもしれないですが、もともとは約1時間の同タイトルのお芝居だったものです。

初演は2019年のエディンバラ・フェスティバル・フリンジ。シアター界で注目の劇作家、コメディ作家、演出家のジョン・ブリテンが演出を担当。プロダクションもフリー・バッグや、ロンドン、ウエストエンドの注目作を手掛けるフランチェスカ・ムーディ・プロダクションズが担当。脚本と主演のリチャード・ガッドさんは、スコットランドのファイフ出身のコメディアン、役者、脚本家で、2016年に英語圏のライブコメディシーンでは一番大きな賞であるエディンバラ・フリンジのコメディ・アワードを受賞。というわけで、お芝居の発表の段階から、大変注目を浴びていました。お芝居自体も大絶賛を受け、ロンドンにトランスファー、2020年のオリヴィエ賞でアウトスタンディング・アチーヴメント部門を受賞し、ネットフリックスからアプローチされて、ドラマ化決定となりました。

全7話。第4話を除いて1エピソード約30分です。映像の制作チームは英国制作の大ヒットしたドラマ「The End of the Fxxxing World」(Netflixで視聴可能のため、アメリカでもヒットしているはずです)の制作チームなので、映像も斬新で素晴らしいです。

ネタバレにならない程度のお話は、以下のとおりです。

ロンドンのパブで働きながら、コメディアンとして成功するために、コメディ・クラブに出入りする日々を繰り返すドニ―。ある日彼の働くパブにふらりとやってきた自分より20歳くらいは上の女性が、あまりに悲しそうで落ち込んでいる様子だったので、お茶を一杯、オンザハウスでごちそうしたんです。そのたった一杯のお茶のせいで、まさか、41371通のeメール、総計350時間のボイスメール、744ツイート、160通の手紙に襲われるとは・・・。

リチャード・ガッドさんの身に、20代半ば頃の2015年から2017年に実際に起きた実話がベースの物語です。というと、ドラマチックな展開に盛ってる部分、作ってる部分があるでしょう、と推測されるかもしれないですが、衝撃の展開のところは、すべてガチの実話、というのがこの物語のすさまじいところです。このお話の重要な部分にはほぼ影響しない些細な部分が、「あ、変えたのねw」という程度です。

ストーカーの話だけれども、ただのストーカーがテーマのスリラーサスペンスではないです。どうして自分がストーカー被害にあってしまったのか、という人間の深層心理のさらに深い部分に入り込んでいきます。

その「なぜ」の鍵を握るのが、第四話で語られる主人公の壮絶な過去です。その過去は、否応なく、彼の人生と彼のアイデンティティをめちゃくちゃにしていました。拭い去りたくても一生ついて回る過去。忘れたくても一生彼を傷つける過去。ときには自分を責め、自分を否定し、呪いから逃げまわるように生きてきた過去が「なぜ」起きたのかが追求すると、ストーカー被害の「なぜ」と同じ線上に並んで見えてくるのです。

3話目までに一貫して襲ってくる緊迫感と、ドニ―の被害者になりたいかのような言動に、ストレスを抱く人もいるかもしれない。しかし第4話以降の、彼の壮絶な過去について明かされたときと、「どうして」の追求の過程、そしてこの二つの事柄をつなげる「線」が見えるとき、我々視聴者にも、耐え難い心の痛みと苦しみが襲ってきます。それは、みんな多かれ少なかれ持ち合わせ、悩まされるココロの状態でもあるからです。そして「みんな」というからには、ストーカーの女性と共有できる部分でもあります。

このシリーズに該当する「被害者」や「(ココロの)問題を誰にも言えずに追い込まれている人たち」に向けてリチャード・ガッドさんは、結構あちこちで「自分を責めないでほしいという思いで、赤裸々につづった作品」と話しています。

とても重いテーマが重なっています。でも、ここで語られていることは、日本を含め世界のだれもが強く心を動かされる物語だと思います。スコットランド発の偉大なるパフォーミングアーツの才能が軸となって繰り広げられる大絶賛のシリーズをぜひ観てください!


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